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なぜ預金のある人がわざわざお金を借りるの?


彼がお金を借りようとしている事情について僕は何も知りません。

だからこれから書くことは一般論です。

「お金を借りることが出来る」というのは、ひとつの特権(privilege)です。

特権は権利(rights)とは違います

権利は「国民の権利」というように皆が平等に享受できるものです。

これに対し特権は「特権階級」という言葉からもわかるように不平等さを伴うものです。

平たい言い方をすれば、「住宅ローンがおりないので家が買えない」というのは特権を与えられることを拒否された例です。

日本では「お金を借りる」ということを毛嫌いする風潮がありますが、お金を借りることの本質は「先食い」に他なりません。

「今日、あの家を買ってそこへ住みたい。でもいまはポン!と全額払ってそれを現金で買うことはできない。だからローンを組む」これが住宅ローンです。

銀行から借入れ出来る人は湾岸のタワマンを購入するなどしてその「果実」を直ぐに享受することが出来るのです。

大学の授業料を今払うことはできないけど、卒業して就職してからコツコツ返せばいいのでスチューデント・ローンを組む……これも「タイミングを繰り上げる」別の例です。

これらの例からわかるように普通、ローンを組む動機は「先に利便性を享受し、後で払う」ことにあります。

次に貯金がある人がわざわざお金を借りるケースですが、これはおカネを借りて事業などを始める場合、その事業から得られるリターンがお金を借りるコストより大きい場合、「借りた方がトク」になります。

金利コスト3%でお金を借り、それでアパートを建てて大家さんとして7%の投資リターンが得られるのであれば、借金して大家さんになることは「正解」です。

ところで銀行はなにも慈悲の心から皆さんにお金を貸すのではありません。ビジネスとして、儲けるためにお金を貸します。だから皆さんに貸したお金は、銀行の帳簿上では資産(Asset)の項目に計上されます。資産とは「利益を生むもの」です。

貸付けが利益を生む目的で行われている以上、貸したお金が、ちゃんと利子も含めて戻ってくることが必要になります。だから銀行は借り手の信用を精査します。大きく分けて二つのアプローチがあると思います。ひとつは1) 本人に担保になるものがあるかどうか? そしてもうひとつは2) 事業から生まれるキャッシュフローが借金の返済に十分かどうか? です。

たとえばサラリーマンで未だ担保になる資産を持ってない人の場合、勤め先がしっかりしているか? なども考慮されると思います。

ここまでの話をまとめると借金できるということは権利ではなく特権であり、それは一部の人しか享受できないということ。そして借金はおもに「タイミングをズラす」つまり「今、綺麗なタワマンに住みたい」「今、大学に進学したい」など人生の選択肢を広げ、生活をよりフレキシブルに、そして豊かにするための方便だと思えば良いです。

だから融資を拒否されるということは、その人の人生の柔軟性が否定されることに他なりません。これは日本のような国では余り痛切に感じることは無いですが、たとえばインドのような発展途上国では深刻な問題です。銀行サービスを享受できないひとたちのことをunbanked、ないしはunderbankedと言います。

するとちょっとした商売をはじめるにあたっても「先立つものがないので、はじめられない」という壁にぶちあたります。

僕が若い頃(1980年代半ば)、バングラデシュのチッタゴンという町に赴任しました。肥料プラントを建設するためです。当時のバングラデシュは今よりももっとずっと貧困が蔓延していました。ちょうどその頃です。地元の新聞で「こんどグラミンバンクというマイクロ・レンディング事業が始まる」というのを読んだのは。

グラミンバンクは農村の女性たちがミシンや反物を購入する資金を用立てました。その融資で彼女たちは小さな事業を始めることが出来たのです。そして儲かった利益を事業に再投入することでだんだん縫製のビジネスを拡大してゆきました。

それまで農村の女性たちは労働意欲があっても良い働き口は無かったし、家庭内暴力の犠牲者とかも多かったです。だから「融資してもらえる」、「ローンが組める」ということはその本人の尊厳ある人生とか秘めたパワーの発揮にとって、とても重要なことなのです。

銀行のような貸付機関には、そういう小さな起業家たちをempowerする権力を持っていると言っても過言ではありません。

いま世界のバンカーの中で最も尊敬されている人物はJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOですが、彼が尊敬されている最大の理由は、融資という行為が持つempowermentの魔法を誰よりもよく理解し、その絶大な権力を正しく使ってゆくことにコミットしているからに他なりません。

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