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- 2012年02月22日 11:22
命の重さを"印象論"で語ってはならない~大野更紗氏インタビュー回答編~
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大野更紗さん(撮影:田野幸伸) 写真一覧
メディアの『受給者バッシング』に踊らされている可能性が高い
―今回は全体として、生活保護に関わるコメントを多くいただきました。社会保障の議論になると、なぜか生活保護、それも不正受給への批判が噴出しますが、このこと自体がこの国の世論における「偏り」を物語っているような気がします。前回のインタビューでは、「現行の諸制度は利用者目線で設計されていない」、と大野さんにお話しいただきましたが、それに対して、「ろくに審査もされなかったら、生活保護みたいに不正支給が横行してしまう」という意見がありました。
大野更紗氏(以下、大野氏):さまざまなご意見、投稿をしていただいて、ありがとうございました。
今回のインタビューの中では、「生活保護」という単語は一回も出てきていないのですが、はからずも「生活保護」についてのご意見がこれほど多かったことは、丁寧な議論を構築してこれなかった言論の状況の鏡なのかもしれません。社会保障というと、反射的に「生活保護」のイメージが先行する気がします。
生活保護については、学術的な先行研究の蓄積や良質な本がたくさん出ていますので、生活保護の研究をされている専門家に、制度設計の詳細な解説はおまかせしますね。
さて、「生活保護みたいに『不正受給』が横行してしまう」とのご意見ですが、メディアにおける、いわゆる「受給者バッシング」というのは、目新しい現象ではありません。毎年の恒例行事のように起こります。アクセス・入手しやすい一次資料や統計をもとに「不正受給」についてごく簡易にですが、ふれたいと思います。
平成23年5月10日に厚生労働省が公開した「生活保護制度の現状等について」によれば、平成21年度(2009年度)における生活保護総額は、事業費ベースでは約3兆円です。そのうち、「不正受給」は19726件、金額にして約100億円ですね。
これを単純計算しますが、0.01兆/3兆*100=0.0033*100=0.33%。すなわち、「不正受給」は生活保護費全体のなかで、わずか0.33%です。さらに、稼働収入の無申告や過少申告があった場合、行政の福祉事務所は課税調査の照会などによってそれを把握しています。ちなみに厚生労働省のデータには、インターネットを使えれば、誰でもすぐにアクセスすることができます。リンクを貼っておりますので、ご参照ください。
仮に、「冷徹」な言い方をしてみます。「不正受給をとりかえせ」というキャンペーンを大々的に展開するとしましょう。そのために必要なことは、「受給者バッシング」でないことは確かです。まず第一に、生活保護行政を担う福祉事務所のケースワークを充実させることです。
これは2005年のデータですが、福祉事務所の窓口のケースワーカーは1人当たり平均約80世帯を担当しています。定期的な保護世帯の訪問、毎月変動する保護費の計算、新規申請の相談や申請後の調査、生活保護の枠組みのみでは対応しきれないDVや児童虐待などの深刻かつ複雑なケースへの対応など、のしかかる業務の負荷は重い。 行政のケースワーカーの業務の負荷については、『生活保護VSワーキングプア 』大山典宏著(PHP新書)が読みやすく詳しいので、もしよかったら手にとってみてください。
―「不正受給が多い」というのは、メディアによってイメージが作られた部分もあるということでしょうか
大野氏:「不正受給が横行している」という言い方は、どこまでも「印象」の水準にとどまります。メディアが展開する、毎年恒例の「受給者バッシング」に踊らされている可能性が高い。建設的議論をしていくためには、嵐のようにセンセーショナルな事例を切り取って、しかもすぐに風化する「報道」に振り回されるのではなく。むしろその「中身の精査」のほうにこそ、関心を向けたほうがいいのではないでしょうか。
また、議論の前提として、社会保障のおおまかな「段階」を知っておくとよいと思います。日本の社会保障は、おおまかに分類して、「社会保険」―「社会福祉」―「扶助」の段階があります。日本の社会保障の特徴は、「社会保険」と「扶助」にウエイトが偏重していることです。「社会福祉」の層がスカスカなんですね。
生活保護は、「最後の砦」である「扶助」です。憲法第25条が保障する権利に基づき施行されている、生活保護法が法的根拠です。それ以上でも以下でもないと思います。今後の展望を考えていく際、第25条に依って政策や施策をひろげていくというのは、難しいのではないかと思われます。
「社会保険」は ― 日本では年金や医療の国民皆保険制度、介護保険などがこれに該当しますが ― 保険料と税によって運営されています。会員制クラブのようなものです。保険料を支払えなくなったら、そこからは落ちてしまうんですね。「社会福祉」はクッションのようなもの。トランポリンみたいに「落ちた人を労働市場に戻す」機能があります。ここがスカスカだと、「社会保険」からはじかれた際に、一気に「扶助」=生活保護まで滑落してしまう。
実際の個別の制度については、もちろんそれぞれ、細かい議論が必要です。しかし、おおまかな枠組みの捉え方としては、その社会保障制度は「社会保険」なのか、「社会福祉」なのか、まず分類して考えることが大事かと思います。それだけでも、だいぶ視界がスッキリしてきます。



