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沖縄知事選、玉城デニー氏擁立の背景に幅広い民意(渡瀬夏彦)

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辺野古への新基地建設に反対する玉城デニー氏はなぜ、沖縄県知事選への立候補を決意したのか。新聞やテレビは翁長雄志知事の「遺言」を取り上げる。もちろん「遺言」は重要だが、それ以前から県民の幅広い期待があったのだ。玉城氏擁立の渦中にいたライターが、経緯を詳細に報告する。

8月29日、県知事選への出馬を表明する玉城デニー氏(前列右)。隣の席は、8月11日の県民大会で翁長雄志知事がかぶる予定だった辺野古の海を表す青い帽子が置かれた。「遺志」は生きている。

8月29日、県知事選への出馬を表明する玉城デニー氏(前列右)。隣の席は、8月11日の県民大会で翁長雄志知事がかぶる予定だった辺野古の海を表す青い帽子が置かれた。「遺志」は生きている。

来る県知事選の候補者選考会議(「平和・誇りある豊かさを!ひやみかち うまんちゅの会」調整会議)に玉城デニー衆議院議員の名がなかなか出てこなかった。

翁長雄志知事の急逝を受けて、多くの県民が少なからずショックを覚え、悲しみに暮れた。翁長氏は民意を背負って戦う使命感に満ち、稀有な存在感を示した政治家であった。そのため、あまりにも彼に頼りすぎる傾向が、県民の間に、ひいては県議会与党議員たちの間にも広がってしまっていた。

わたしは当初から、この選挙は安倍官邸が全力でバックアップする極右団体「日本会議」メンバーの佐喜眞淳氏(前宜野湾市長。辞表提出は8月14日)が遥か先行しており、いわゆる「オール沖縄」側が相当に苦戦を強いられる選挙と睨んでいた。

7月から可能性探る

4月の膵臓がんの手術後も厳しい闘病が続き(肝臓へのがん転移は最近になって伝えられた)、それでも気力を振り絞って政府と対峙し続ける翁長知事。その姿を見てもなお、県議会与党会派には「翁長さんの代わりは、翁長さんしかいない」との声があがっていた。残酷な言葉だと、わたしは思った。

6月23日の沖縄全戦没者追悼式での平和宣言で翁長知事は、米朝首脳会談の実現など、東アジアの安全保障環境の大きな変化を踏まえた上で、こう語った。

「平和を求める大きな流れの中にあっても、20年以上も前に合意した辺野古への移設が普天間飛行場問題の唯一の解決策と言えるのでしょうか。日米両政府は現行計画を見直すべきではないでしょうか。民意を顧みず工事が進められている辺野古新基地建設については、沖縄の基地負担軽減に逆行しているばかりではなく、アジアの緊張緩和の流れにも逆行していると言わざるを得ず、全く容認できるものではありません。『辺野古に新基地を造らせない』という私の決意は県民とともにあり、これからも微塵も揺らぐことはありません」

やせ細った高僧のような姿で、世界へ向け誇り高き宣言をした。嗄(か)れてはいるが強い声の調子、そして目力の強さに、わたしはしみじみ感じ入った。

じつはわたしたち県民有志は、すでにこのころ、玉城デニー氏擁立の可能性を探り始めていた。現に選挙の素人のこのわたしでさえ、玉城デニー氏をよく知る人物と接触し、具体的に「玉城氏に、知事になる意欲はないだろうか」と問うている。7月上旬のことである。

翁長知事、承認撤回へ

8月11日、雨の県民大会。最後の「頑張ろう三唱」の際、高里鈴代オール沖縄会議共同代表(前列中央)の両脇を固める玉城デニー衆議院議員(前列左から2人目)と謝花喜一郎副知事。翁長知事の帽子も「参加」していた。

8月11日、雨の県民大会。最後の「頑張ろう三唱」の際、高里鈴代オール沖縄会議共同代表(前列中央)の両脇を固める玉城デニー衆議院議員(前列左から2人目)と謝花喜一郎副知事。翁長知事の帽子も「参加」していた。

そこまで遡って話をするのはなぜか。

それは、知事選候補者選考の最終段階において、翁長知事の肉声のメッセージの存在が明らかになり、病床で玉城デニー氏と呉屋守將氏への期待の大きさを語っていたことが伝えられ、その「遺言」のような一言で候補者が決まってしまってよいのか、これではとても民主的な手続きとは言えないのではないか、という不満が、いわゆる「オール沖縄」陣営の内部からも噴き出したからである。

わたしが咄嗟(とっさ)に胸のうちで叫んだのは、「あなたたちは、そんなに負けたいのか。そんなに安倍官邸に知事の椅子を差し出したいのか」という言葉だった。

慰霊の日の平和宣言からおよそ1カ月後にも、翁長知事は公の場で、辺野古新基地建設をゴリ押しする政府に真っ向対峙する姿勢を示した。

7月27日、「辺野古埋め立て承認」の撤回の意思をついに明確に表明したのである。

このときの気力の振り絞り方は、6月の慰霊の日よりも、凄まじいものがあった。体力の減退は著しく、歩くのもやっと、という姿で記者会見場に現れ、まさに「気」の力だけで記者との質疑応答をこなしたように見えた。

記者会見の最後、大手全国紙の記者が、「承認撤回は移設阻止の最後のカードと言われている。知事はあらゆる手法を駆使して造らせないという公約を今後、どのように実現していくのか」と問うた時、翁長知事は、笑みさえ浮かべてその記者を一瞥し、「そもそも論」で切り返した。

「(略)今の日本のアメリカに対しての従属は、日本国憲法の上に日米地位協定があって、国会の上に日米合同委員会がある。この二つの状況の中で日本はアメリカに対して何も言えない状況がある」

理不尽な暴挙に出ている政府を批判せず、県知事の「阻止の手法」ばかりを問うマスメディアに対する痛烈な批判でもあった。表情は、誇りに満ち、美しかった。

これが、翁長知事が公の場に姿を現した最後だ。会見の3日後の30日に緊急入院し、入院9日後の8月8日に、この世を去った。

「負け戦」に危機感

8月22日。県議補選に出馬予定の山内末子前県議の事務所開き。糸数慶子参議院議員(右から2人目)、大城紀夫連合沖縄会長(右)とお茶で乾杯する玉城デニー氏(左から2人目)。このころには、ほぼ出馬のハラは決まっており、この日の弁士たちからは「全力でデニー知事を誕生させる」というスピーチが相次いだ。

8月22日。県議補選に出馬予定の山内末子前県議の事務所開き。糸数慶子参議院議員(右から2人目)、大城紀夫連合沖縄会長(右)とお茶で乾杯する玉城デニー氏(左から2人目)。このころには、ほぼ出馬のハラは決まっており、この日の弁士たちからは「全力でデニー知事を誕生させる」というスピーチが相次いだ。

その夕刻、沖縄市民会館中ホールでは、「上原康助さんを偲ぶ会」が開かれていた。1年前に亡くなった元全沖縄軍労働組合委員長で衆議院議員を務めた上原氏との交流を懐かしむ多くの政治家、労働組合関係者らが集い、氏の功績を称えていた。なんとその場に、翁長知事の訃報が飛び込んできた。

司会を務めていた山内末子前県議会議員は、その場で泣き崩れ、やがて毅然と立ち上がり、最後まで会の進行役の務めを果たした。今だからこそ、あの日のことを正直に書こう。

じつはこの会場で、わたしは玉城デニー氏に歩み寄り、面と向かってこう水を向けたのだ。「こんな大変なときに、このような場で恐縮ですが、知事になる気持ちはありませんか」。本人の反応は、当然というべきか固辞に近いものだったが、しかし「可能性はゼロではない」というのが、わたしが得た実感だった。

それからというもの、玉城氏の身近にいる人や、あるいは玉城氏を知事候補に推したいと願う人々とも連絡を密に取ることにした。翁長知事の通夜の場では、「オール沖縄」陣営の重要人物たちと次々にコミュニケーションをとった。翁長知事のもの言いたげな寝顔を見て、涙に濡れてばかりはいられぬ、という強い思いが湧いてきた。

8月11日、知事も出席を予定していた「土砂投入を許さない!ジュゴン・サンゴを守り、辺野古新基地建設断念を求める8・11県民大会」の場でも、玉城氏本人と立ち話をした。本人の固辞する姿勢は続いた。しかしわたしは、玉城氏とのコミュニケーションを深める中で、逆に信頼感を強く抱いた。

「オレがオレがという野心むき出しの態度を取ることは決してないが、状況を冷静に把握しようとする姿勢を徹底して貫いている。だから、玉城氏を支える周囲の環境さえ整えば、ハラを決めてみんなの思いを受け止めてくれる可能性がある」

この超短期決戦を突破する力のある人は、自ずと限られる。

(1)知名度が抜群である人

(2)演説力に秀でている人

(3)性格の明るさを含め、若年層含む一般大衆を惹きつける魅力を持っている人

(4)保守・中道・革新・無党派を問わず幅広い支持を得られる立ち位置とウイングの広さを持っている人

選挙の素人のわたしにさえ、「勝てる候補」の条件はいくつかすぐに列挙できた。

そして、これらの条件を満たせる候補は、玉城デニー氏のほかに見当たらなかった。玉城氏を擁立できなければ、「オール沖縄」は安倍政権に負ける、とさえ思った。

だが、8月18日の地元紙2紙は、次のような内容の報道をした。県政与党側の「調整会議」は、呉屋守將金秀グループ会長、謝花喜一郎副知事、赤嶺昇県議会議員の3氏を軸に選考に入った、と。

わたしたち県民有志は危機感を募らせた。

若者グループからも人気を集めた呉屋氏は、絶対に固辞し続けると、わたしは独自の情報網で得ていた。「政治家にはなるな、経済人として生きよ」というのが先代創業者・呉屋秀信氏の遺言に近い家訓だからである。

残る候補は謝花副知事と赤嶺県議ということになるが、心を鬼にして分析すれば、この時点で、「負け戦確定」としか言いようのない状況だった。

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