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スルガ銀行第三者委員会報告”ツッコミ不足”の何故

最も重要な組織風土については表面的な指摘のみ

シェアハウス向け貸出に端を発したずさん融資の疑義が問題視されている地銀スルガ銀行で、内部調査をすすめてきた第三者委員会が調査報告を公表しました。報告書のポイントとしては、細々と調べ上げられたずさん融資の手口の他、一連のずさん融資が組織ぐるみであったこと、その根底にあったのは営業至上主義に基づくガバナンスの欠如であったこと、などが挙げられています。

私がスルガ銀行と同じ銀行組織の出身であること、営業指導を含めた企業マネジメントを生業としていることに起因しているのかもしれませんが、本報告は残念ながら銀行不祥事に係る第三者委員会の報告としては、ボリューム倒れで中身はいささかツッコミ不足の感が強いと申しあげたくなるものでありました。

確かに報告書では、ずさん融資の手口調査および組織としてそのやり方がいかに正当化されてきたのか等については、入念な調べがなされてはおります。しかし、本件の本丸であるはずのガバナンスの欠如と、さらにその根っこに位置する組織風土の問題に関しては、表面をなぞるような形で触れられたのみであり、一番重要な部分は霞がかかったような何とも消化不良な物言いに停っていると言わざるを得ない、というのが私の感想です。

本不祥事に係る一番重要な部分は、銀行という公共性、社会性を帯びた組織における長年にわたる同族経営の是非という問題に他なりません。報告書では、オーナー家出身の岡野光喜会長、その実弟で16年に突然逝去した岡野喜之助元副社長の本不祥事に対する管理上からの経営者責任については言及してはいるものの、この二人の創業一族が長年にわたって全権を握ってきた、いわゆる「絶対王政」的経営にこそ不祥事の温床があったのではないか、という同族経営の是非には終ぞ言及することがありませんでした。

大量の”イエスマン”を作り出す「絶対王政」的組織

同族経営は中小企業では当たり前のことですし、上場企業や大手企業においても決して珍しいことでなく、それそのものに問題があるわけではありません。本件最大の問題点は、銀行という資本主義における血液の役割を担う金融の仲介役において、同族経営が100年もの長きにわって脈々と生き続けてきたこと。そして出来上がってしまった銀行にあるまじき組織風土の下で、監督官庁の緩んだ手綱に後押しされた自由裁量経営にありました。

規制の時代には法の管理の下でできることは限られ、監督官庁の厳しい監理・指導でそのガバナンスは外圧によって守られてきました。しかし業務の全面自由化の進展と監督官庁の姿勢転換による各銀行の自由裁量下でのマネジメントの多様化によって、経営のハンドリングは以前とは比較にならないレベルで自由度を増し、ガバナンスもまた自由裁量の組織運営に委ねられることになったのです。スルガ銀行においては、これが「絶対王政」的同族経営風土に委ねられたことで、すべての歯車が狂い始めたと言っていいでしょう。

「絶対王政」的組織は、組織の大小を問わず組織内に大量のイエスマンを作り出します。そしてイエスマン組織は扇の要にあたる部分に一族経営者が鎮座し、その要が少しでもズレてしまえば扇は全体に歪んだままの状態を続けることになり、その歪みが今度は扇の要のズレを次第に大きくしていくことで、最後は扇自体がバラバラに崩壊してしまうことになるのです。同族経営だけではなく、多くの「絶対王政」的組織の崩壊は、すべて同じ理由に起因して大きな不祥事を起こすに至っていると言えるでしょう。

金融庁は「絶対王政」的組織マネジメントの完全排除を急ぐべき

本第三者委員会は報告書では冒頭において、本委員会の目的として「(行員、顧客向け)アンケートに結果に顕れた疑念および報道等により指摘されている事項についての事実の調査および原因の究明」「スルガ銀行の内部管理体制に関する調査並びに再発防止策の検討および提言」を掲げ、委員会の取り組み方針として「収集した証拠に基づき、自由心証により事実認定を行う」としています(自由心証主義とは訴訟法上の観念で、専門家の能力に基づく自由な判断に委ねる方式で、すべてを法的判断に委ねる法的証拠主義の反対概念)。

そんな第三者委員会が、不祥事の根本原因を組織風土にあるとしとしていながらも報告書の大半を細かな改ざん手口の調査と組織内部の管理体制上の問題点私的に終始し、同族経営の銀行組織マネジメントにおける問題点や日経新聞でも取り上げられていた一族関連企業に対する融資等の正当性可否等についてほとんど触れられていない点は、「原因究明」および「再発防止」の目的から見て大いに不満であります。その理由は、上記に言うところの委員会メンバーによる「自由心証」の限界ではなかったかと感じるところです。

すなわち、今回の第三者委員会が弁護士4名による構成であったことに問題はなかったのか、その点は大いに議論の余地があるのではないかと思うのです。弁護士は法律の専門家でこそあれ、銀行経営はもとより企業経営にすら直接は携わったことのない方々であり、組織運営に係る検証・改善策検討を目的とした第三者委員会であるならば、やはり企業マネジメントのプロをメンバーの加えるべきではなかったのかと。穿った見方をするならば、第三者員会設置を委員長である中村弁護士に持ちかけたスルガ銀行サイドが、意図的にマネジメントの専門家の目を入れさせなかったのでなかったのか、とすら思えてくるのです。

スルガ銀行が今後再発防止の観点から完璧な組織風土改革をおこなうためには、創業者一族が単に役員から一掃されるだけでなく、大株主として大口取引先としての今後一切の影響力をも絶つ必要があると言えます。とすれば銀行の不祥事という社会的影響の大きい今回のような問題を取り扱う第三者委員会としてはもう一歩踏み込んで、一族所有株式の譲渡または買い取り、一族関連企業との取引の精査、さらにはそれらを視野に入れた上での他金融機関との合併・統合による旧来の組織風土の一掃、といったところにまで言及すべきであったと思うところです。このような観点から、本件は今後企業不祥事に関する第三者委員会の組成に、大きな課題を残したと考えます。

最後にもうひとつ重要な点を。先に旧大蔵省OB経営下での東日本銀行の不祥事の件を取り上げましたが、不祥事の根っこは同じ。銀行における「絶対王政」的経営の弊害です。平時は何事もない同族経営や天下り経営ですが、窮地に追い込まれた時の「扇の要」のズレによる組織的不祥事拡大のリスクは大きいと言えます。「政府=金融庁」は地銀経営がますます厳しさを増している昨今であるからこそ、今回の件を機として公的存在である銀行の経営における同族経営および天下り経営の禁止の法制化による、「絶対王政」的組織マネジメントの完全排除を急ぐべきであると付け加えておきます。

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