記事

平成の失敗を繰り返さないために『思想』が重要である理由

3/3

■どうすればいいのか?

では、どうすればいいのか。どこから何に手をつければいいのか。何度も繰り返し述べてきたように、やはり、思想の立て直しから始めるしかないと私には思える。

そのように言うと、いくら思想や哲学を追求しても、『道徳的な善悪や法的な正義についても、普遍的な心理はなく、多様な意見があるにすぎない』のだから無意味、という反応が返ってくるが、実のところ、それ自体が思想に囚われた発言であることを知るべきだ。

ポストモダンを忌避して、遠ざけたにもかかわらず、ポストモダンの、もっといえば、『言語論的転回』以降の思想を無意識に受け入れ、その影響下にあり、泥沼の相対主義に振り回されている。それ以外の選択肢がありえない、との信念に固く囚われている。

だが、思想空白の日本ではほとんど話題にもならないが、世界的なポストモダンの流行の終了後に、すでに『言語論的転回』に変わる思想が模索されるようになってきている。今回は、もう詳しく述べる余裕はないが、ポスト『言語論的転回』として、少なくとも3つ、可能性を感じる『転回』が起きてきていてそれぞれ非常に興味深い(メディア・技術論的転回、実在論的展開、自然主義的転回)

個人的には、今は、実在論的転回に最も興味を惹かれているのだが、いずれも、行き過ぎた『相対主義』からの転回の可能性を感じることができる。これらを探求するも良し、あるいはもっと別の挑戦をするも良し、このことによって、まず、自らがどのような思想の影響下にあるかを知る、いわば自分を知ることになり、これが何より大きい。

現代人は相対主義を標榜して、『何も信じていない』と表では言いつつ、実は、『言語論的転回』以降の思想を『信仰』していることに気づいていない。まずは、それに気がつくことが大きな第一歩だ。あきらめたり、立ちすくんでいる場合ではない。

■思想が未来を切り開く

思想が社会問題を切り開くに当たっても、不可欠である理由は、今やいくつもあげることができる。

1. 新しい技術と共生する未来を切り開く

次世代は人工知能のような科学技術が世界を変えていく。この流れはもう止めようがない。だが、人工知能にしても、それを応用した自動運転のような技術にしても、あるいは遺伝子操作のような技術もそうだが、それを社会に導入するためには、思想や倫理の大きな壁を越える必要があり、実は日本の次世代の技術による発展を展望するにあたり、この思想や倫理を練り上げる力が衰退していることが大きな障害の一つとなっている

このままでは、新しい技術を無意識に忌避して、遠ざけ、ますます世界経済の潮流から置いていかれてしまうことになりかねない。新しい技術と共生する未来を切り開くためには、そのための思想を構築し社会的な合意を形成していくことが不可欠だ。

2. 情報に関わる人間の権利の明確化

第三世代の人工知能は、大量の情報をフィードすることによって、スマートに進化していくため、大量の質の良い情報の確保の競争が世界的に起きている。ところが、人間に関する情報の取得は人間の尊厳や権利(知られない権利等)を侵害する恐れがあり、これとどのように折り合いをつけていくか、ということも重要な思想的課題である

しかも、一方で、極端な監視社会化を厭わず産業的な発展に邁進する中国のような国が、世界を巻き込んで勢力圏を広げようとしている今(アフリカ、中近東、アセアン等)、西欧や日本等の先進各国は非常に難しい選択を迫られている。

3. ポスト真実を超克する

また、昨今のポスト真実、フェイクニュースの氾濫も、いわばポストモダン的な信念や思想が現実化しているとも言える。『道徳的な善悪や法的な正義についても、普遍的な心理はなく、多様な意見があるにすぎない』という信念があれば、『事実』も、相対的で操作可能な概念、ということになる

トランプ政権の高官が使って知られるようになった、『オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)』などという概念も、世間的には事実とみなされていない(嘘とみなされるべき)事柄を『それもひとつの真実だ』と述べるわけだから、まさに、ポストモダンの思想に大いに影響を受けているといっても過言ではない。

これに同じ土俵(相対主義)で対抗しようとしても、議論は永遠に噛み合わないだろう。すなわち、この動向を打破するには、単に技術的にフェイクニュースを締め出すだけでは済まない問題が存在しているということだ。

■越えがいのある壁

このように、平成の沈滞を打破する、というだけではなく、世界的な危機的な状況に対処するためにも、技術との共生が不可欠な未来を生きるためにも、今、思想の構築が非常に重要な課題になっている。

もちろんそのためには立ちはだかる大きな壁があるが、乗り越える価値のある壁だ。ただ、残念ながら、まだ大半の日本人は、私の意見に耳を傾けることはないだろう。日本の思想空白の現実は甘くないことはわかっている。

だが、このままでは早晩、いやでも本当の危機に見舞われざるをえない。せめて、その時にでも、私の意見を思い出し、発掘していただければ幸いだ。そして、私は、その時に備えて、自分にできる範囲で、この思想の問題に全力で取り組んでいきたいと考えている。

*1:リクルート事件 - Wikipedia

*2:

あわせて読みたい

「哲学」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    毎日が40億円超減資で中小企業に

    岸慶太

  2. 2

    森氏発言に見えた「五輪難しい」

    文春オンライン

  3. 3

    感染拡大するスウェーデンの日常

    田近昌也

  4. 4

    鼻マスク失格 秩序守った監督官

    木走正水(きばしりまさみず)

  5. 5

    プペルも? 泣くための映画に疑問

    かさこ

  6. 6

    菅首相 イエスマンだらけの失策

    毒蝮三太夫

  7. 7

    嬢告白 おっぱいクラスターの今

    文春オンライン

  8. 8

    中国で停電続く 対豪報復がアダ

    NEWSポストセブン

  9. 9

    医療整備に腹くくれない首長たち

    中村ゆきつぐ

  10. 10

    米を襲う変異株 ロスは壊滅的に

    飯田香織

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。