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平成の失敗を繰り返さないために『思想』が重要である理由

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■大きな転換点としての平成

平成が終了する時期が近づていることもあり、昨今では、平成を総括する著作や記事が増えて来ている。昭和と比較すると、長さも半分以下で、300万人以上の戦死者を出して国が滅びてしまうほどの戦争のような大きな出来事があったわけではないとはいえ、平成という時代には、阪神大震災、東日本大震災とそれに伴う原発事故、あるいは世界初の都市型毒ガステロ(オウム真理教事件)、さらにはインターネットの急速な普及等、過去に例のない、そして、時代を一変させてしまうような出来事が凝縮して詰まっており、つぶさに振り返ってみると実に大きな転換点であったことがわかる。

しかも、日本だけではなく、この間、日本を囲む世界も激変した。そもそも平成が始まった1989年というのは、世界的な激動の年で、6月に中国で天安門事件が起こり、11月にはベルリンの壁が崩壊し、12月にはブッシュ大統領とゴルバチョフ書記長がマルタ会談を行い、戦後世界を覆っていた、米ソ冷戦という二極構造が終焉の時を迎えた。

それは日本にとっても一大事で、軍事はアメリカに任せて、安穏として平和憲法遵守のお題目を唱えていればすんだ時代が終わりを告げたことを意味した。

■正しく総括できている?

このように話題の多い平成を語る人は多いが、『総括』となると、必ずしも容易ではないようだ。どうしても語る側の価値観や信念が表に出てくるせいか、違和感のある総括も少なくない。ただ、それでも共通しているのは、平成が失敗、あるいは、衰退の時代だったという認識だ。

 だが、何が失敗して、その失敗の本質は何だったのだろう。この点では、議論は錯綜していて、必ずしも収斂しない。あるいは、分析が表層的で、読むに耐えないものも少なくない。例えば、この時期、世界ではグローバリズム/新自由主義が市場を席巻したことは誰しも認めるところだろうが、ある人は、その新自由主義を徹底できなかったことが日本の失敗の原因と述べ、またある人は、新自由主義的な政策こそ失敗の原因と述べる。

失敗を真摯に認めて問題点を明らかにすることができれば、失敗は成功のもとにもなろうが、原因を明らかにできずにいたり、問題に直面せずにほっかむりして知らんふりを決め込むようでは、新しい時代を迎えても、また同じ失敗を繰り返えすだけだ。あるいは、何もできずにすくんでいるうちに、衰退が加速してしまうかもしれない。

平成の入り口の時点で、すでに世界も日本も大きな変化の波にさらされていることは誰もが感じていた。だが、日本では効果的な対策が打てないままに、『失われた10年』が過ぎ、『失われた20年』が過ぎて尚、いまだに本当に有効な打ち手は出て来ず、平成は失われたままに過ぎてしまったという印象が強い。

だが、そうは言っても、様々な改革や新しい挑戦もそれなりに試みられた時代であったことも確かだ。だが、結果的にはそのほとんどはうまくいかなかった。良かれと思った対策も、思わぬ問題につまづき、行き詰まってしまった。もちろん、やる前から問題に気づくことは容易ではなく、やって見たからこそ問題点が明らかになるということはある。

だが、そうであればこそ、平成という『失敗プロジェクト』の『失敗の本質』は徹底的に解明しておく必要があり、それをせずに、また日本人お得意の、『水に流して』しまう、あるいは『問題を先送り』してしまうのであれば、次の時代も平成以上の『失敗プロジェクト』になってしまうだろう。

しかも、次の時代には、少子高齢化や巨額の財政赤字等、スタートラインの時点で、すでに大きな荷物を背負っているばかりか、その荷物は何もしなくてもどんどん重くなっていくのだ。

■いつまでもパラダイスは維持できない

平成は結果的に、改革も身を結ばず、手も足も出ずにすくんでしまった時代となってしまったが、逆に言えば、『すくんでいるだけの余裕があった時代』だったとも言える。

昭和末期までに積み上げて、世界のトップをうかがうまでになっていた富の余禄は非常に大きく、世界の現実に背を向けてすくみ、『ガラパゴス化』していても、それは、江戸時代という長く続いた平和なまどろみの時代が、世界で帝国主義の嵐が吹いていても、世界の現実から切り離されて、海中に浮かんでいることができたことに似ていて、それなりの幸福と満足を享受できた。

経営コンサルタントの海部美知氏は、2008年に日本が『パラダイス鎖国』の状態にあると述べたが、清潔で犯罪も少なく、収入が低くても楽しめることが多い平成日本は、まさに一種のパラダイスの状態にあり、『今のまま、このままがずっと続けば満足』という心理が蔓延した。だが、どうやらそのパラダイスを維持するのも限界に来ている。

■3つの失敗

では、私の考える、平成という時代の失敗とは何なのか。私は、平成を大きく『3つの失敗』でくくることができるように思う。その3つについては、それぞれ独立しているのではなく、相互に連関し、より深いレイヤーに共通の『失敗の本質』があると考えられるのだが、まず、『3つ』でくくることで、より具体的にその失敗の全体像を鳥瞰することができるように思う。それは、次の3つである。

1.改革に失敗した政治

2.世界のIT/デジタル革命から置いていかれた経済

3.宗教や哲学を忌避しすぎて空洞化してしまった思想

では、できるだけ簡潔に、それぞれについて説明してみたい。

1. 改革に失敗した政治

平成の初め頃には、政治に関する国民の最も大きな関心事は、『金権政治の排除』だった。実際、汚職事件が相次いでいたが、中でも直近のリクルート事件*1(1998年)の影響は大きく、金権政治から脱却すべし、という国民的なコンセンサスが出来上がった。

その結果、非自民の細川連立内閣が成立して、戦後日本を長い間支配したいわゆる55年体制が崩壊する。同時に、その金権政治の温床となっていると長らく指摘されていた『中選挙区制度』を排して、1994年に『小選挙区制度』が導入された。

中選挙区制度では、一つの政党が過半数を得るためには、同一選挙区内で複数の候補者を当選させる必要があるが、候補者は所属政党からの全面支援を得ることができないため、政党以外の資金源を頼らざるをえず、これが腐敗の原因になるとされた。

そして小選挙区制度になれば、小政党が生き残ることは難しいが、米国のような二大政党制となることが期待され、実際に民主党が政権を奪取した際には、今後日本にも二大政党制が根付くとの期待が盛り上がった。

しかしながら、結果的に民主党政権はあっけなく瓦解したばかりではなく、民主党に代わる、自民党に対抗できる政党ができるどころか、野党の弱小化が進み、今では、日本には二大政党制は馴染まない、という説がもっともらしく思えてくる始末だ。

しかも、『小選挙区制度』で議員に対する政党の力が増大するのはいいとしても、その流れで、今の自民党のように、官邸や首相に権限を集中させると、議員も自由に意見を述べることさえはばかられるような雰囲気になり、さらに内閣人事局が設置されて(2014年)、官邸が公務員の幹部クラスの人事まで握るようになると、官僚から、司法に至るまで官邸や首相の意向をうかがうようになってしまった。

いかに政権がスキャンダルまみれになろうと、政権交代の可能性がないから、改革は期待できない。党内も、官邸や首相の意向を忖度するばかりで、改革どころか改善のための議論さえ盛り上がらない。

こうなるとかつて中選挙区制度の時代に、自民党内で強力な派閥が激突する環境で、様々な議論が白熱していたころが懐かしくなってくる。金権政治という魔物を退治したと思ったら、別の怪物を呼び起こしてしまった。今や国民の政治改革熱はすっかり冷めてしまったように見える。平成前半頃の、改革の熱気も、今では懐かしい思い出だ。

2.世界のIT/デジタル革命から置いていかれた経済

平成期の経済について否応なく突きつけられるのは、『日本の一人負け』になってしまったという事実だ。平成が始まったころはバブルの絶頂期ということもあり、日本的経営に対する注目もものすごく高かった。

一人当たりのGDPもあと一歩で米国を上回りそうな勢いだった。日本の電気製品や自動車が世界中を席巻していた。だが、いつのまにか中国に世界第2位の座を譲ったと思ったら、気がつくと今では日本のGDPは中国の半分だ

。一人当たりGDPも下落に次ぐ下落で、2015年には27位(先進国最下位)まで後退した。あれほど世界中に溢れていた日本の電気製品も今では見る影もない。『日本的経営』は今では日本経済の足を引っ張る失敗の象徴とみなされるようになってしまった。

そして、この衰退は、世界のIT/デジタル革命の中で、国家としても企業としても適応できなかったことが最大の原因と言わざるを得ない。1992年の世界の時価総額ランキングを見ると、日本企業が上位を占めていることがわかるが、これを2016年と比較して見ると、時価総額トップは8倍の規模にまで膨れ上がり、上位には米国のIT系企業が並ぶ。

その中に、日本企業の名はなく、代わりに台頭しているのは中国企業だ。日本企業の中で上位にいるのは相変わらず製造業(トヨタ自動車)だが、時価総額(2017年秋の時点)で比較するとも新興のIT企業であるアリババの半分以下だ。

今や、世界はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)を擁する米国とBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウエイ)を擁する中国が激突して経済の覇権を争う様相となっているが、そこに対抗できる日本企業はほとんどない。

しかも、今でも世界的な競争力を維持する日本の自動車会社も、IT企業の影に怯え、戦々恐々としている。来るべき人工知能(AI)の時代を迎えるにあたっても、技術者の質/量、およびAIを賢くするデータの質/量という点でも、退勢を余儀なくされている。

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