記事

「死刑判決に勝者はなく、犯罪が起こった時点で、皆、敗者です」 光市母子殺害事件被害者遺族 本村洋さん

少年事件をライフワークと自認する弁護士としては、犯行時少年であった被告人に対する死刑判決の是非に対するコメントをするべきなのかもしれませんが、あまりに重大なこの事件を語る覚悟がまだありません。

1999年、山口県光市で主婦と幼い娘を殺害した罪に問われた当時18歳の元少年(30)について、最高裁判所は、「何ら落ち度のない被害者の命を奪った残虐で非 人間的な犯行で、犯行当時、少年であっても刑事責任はあまりにも重大で死刑を是認せざるをえない」として上告を退け、死刑が確定することになりました。

NHKは、この事件で被告人を初めて実名報道し、
「NHKは、少年事件について、立ち直りを重視する少年法の趣旨に沿って、原則、匿名で報道しています。今回の事件が、主婦と幼い子どもが殺害される凶悪で重大な犯罪で社会の関心が高いことや、判決で元少年の死刑が確定することになり、社会復帰して更生する可能性が事実上なくなったと考えられることなどから実名で報道しました。」
としています。他の多くのマスメディアも同じような措置をとりました。

これに対して、毎日新聞
毎日新聞は元少年の匿名報道を継続します。母子の尊い命が奪われた非道極まりない事件ですが、少年法の理念を尊重し匿名で報道するという原則を変更すべきではないと判断しました。少年法は少年の更生を目的とし、死刑確定でその可能性がなくなるとの見方もありますが、更生とは「反省・信仰などによって心持が根本的に変化すること」(広辞苑)をいい、元少年には今後も更生に向け事件を悔い、被害者・遺族に心から謝罪する姿勢が求められます。また今後、再審や恩赦が認められる可能性が全くないとは言い切れません。94年の連続リンチ殺人事件で死刑が確定した元少年3人の最高裁判決(11年3月)についても匿名で報道しましたが、今回の判決でも実名報道に切り替えるべき新たな事情はないと判断しました。
 また、西日本新聞
山口県光市母子殺害事件で最高裁から死刑判決を受けた元少年について本紙は匿名報道を続けます。少年法は少年の更生や社会復帰のため、少年時の罪で起訴された被告の 実名報道を禁じています。死刑判決が確定した後も再審や恩赦の可能性はあり、現時点 では少年法の趣旨を尊重する必要があると判断しました。」
としています。

私は、推定無罪の考え方をここでも貫き、有罪確定まで大人でも原則として実名報道するべきではない(公人などを除く)と考えています。判決どころか逮捕だけで実名報道するマスコミは言語道断であると思います。

ですから、有罪確定したから実名報道するという理由付けなら、少年法には違反するとは言え、今は30歳のこの元少年を実名報道することにまだしも納得せざるを得ない面もあるのですが、「社会復帰して更生する可能性が事実上なくなった」というのには、マスコミによる死刑執行のような感じがして、違和感があります。

まだ更生可能性の余地はあるとして少年法を遵守する毎日新聞・西日本新聞の判断を支持したいと思います。

私は、しかしそれよりも、遺族の本村洋さんのことがずっと気になってきました。少年事件弁護士でかつ死刑廃止論者の私も事件直後結婚し、妻と娘がいるからかもしれません。同じ立場に置かれたら自分は・・・と考えることもありました。

元少年の死刑が確定することについて、本村さんが記者会見し、被告人に対し、

「罪は償わなければならず、判決を受け止めてほしい」

「死刑が確定することについては大変満足しているが、決してうれしいとか、喜びの感情はない。厳粛な気持ちで受け止めなければいけないと思っている」

「彼にとっては残念かもしれないが、罪はきっちりと償わなければならない。判決を受け止めてほしい」

「この事件は、司法制度の変化や裁判への関心の高まりなど、いろいろなことに影響を与えてきた。妻と娘を守ってあげることができなかった、私の数少ない罪滅ぼしの1つとして2人に報告したい」

「死刑判決に勝者はなく、犯罪が起こった時点で、皆、敗者です。自分の人生を絶たれてしまうような被害者がいなくなることを切に願います」

「(妻、娘に被告人を加え)3人の命を無駄にしないよう、死刑のような判決が出る事件がない社会を実現するにはどうすべきか、考えるきっかけになれば」

と話されたそうです。

この事件発生時点で22歳と若かった本村さんにとって、事件を受け止めるのはなおさら本当に大変だったでしょう。

この少年は、裁判の最中に、何度も惨い手紙を書いたり、裁判中にひどい言葉を吐いたりしていますから、その二次被害もたまらなかったと思いますね。

少年がそのような行為に出てしまったことに関しては、宮川判事の反対意見にある「父親からの暴力や母親の自殺が精神形成に与えた影響や、犯行時の精神的成熟度を測る必要があった」ことなど、弁護士としてはいろいろ言いたいこともありますが、今日はおきます。

とにかく、裁判開始当初から、同じように死刑判決を求めていく本村さんのご様子やお言葉なのに、なぜか徐々に人間的な深みが増されているのを感じ取ることが出来ました。

遺された者として、決して戻ってくることのないご家族のことや、取り返しの付かない出来事、裁判やマスコミに翻弄されそうになる状況を受け入れていかれる中で、なにか変化があったのだろうと感じます。

30代になられ、「時間は最良の相談相手だった」とおっしゃった本村さんは、事件から10年経ってご再婚もされたそうです。

本村さんのこれからの人生が幸多かれと。良いことがいっぱい起こることを祈りたいと思います。

父母の愛情に恵まれず、これから国家の手で奪われようとしている命について何を祈れば良いかは、もう少し考えてみます。

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    在宅勤務で生産性低下した国は日本だけ? 背景に対面コミュニケーション依存の働き方

    非国民通信

    08月02日 15:12

  2. 2

    男性視聴者の眼福になっても女子選手が「肌露出多めのユニフォーム」を支持する理由

    PRESIDENT Online

    08月02日 15:27

  3. 3

    何をやっても批判される「老夫婦とロバ状態」の日本

    内藤忍

    08月02日 11:52

  4. 4

    コロナ軽視派「6月で感染者数減少」予想大ハズレも、重症者数が大事、死亡者数が大事とすり替え

    かさこ

    08月02日 10:29

  5. 5

    この1週間を凌げば、オリンピックが終わります。もうしばらく我慢しましょう

    早川忠孝

    08月02日 14:37

  6. 6

    「幻の開会式プラン」を報じた週刊文春が五輪組織委の"圧力"に負けずに済んだワケ

    PRESIDENT Online

    08月02日 10:36

  7. 7

    中国が支配するディストピア 香港の大量国外脱出「英国だけでも5年で最大83万人超」予測

    木村正人

    08月02日 18:29

  8. 8

    ワクチンの効果が着実に出ている中での一律の行動自粛要請は不適切

    岩屋毅

    08月02日 11:28

  9. 9

    橋下徹氏 五輪をやると国民の行動制限が効かなくなることを想定していなかったのか

    橋下徹

    08月02日 16:48

  10. 10

    家庭環境の差が自由研究にも…小学校の「夏休みの宿題」に存在価値はあるか

    ABEMA TIMES

    08月02日 09:58

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。