
・トランプ大統領は南アフリカで白人の農地が占領され、大量に殺されているとツイートした
・しかし、この主張は南アフリカで土地改革が求められる背景に触れないばかりか、出所の曖昧なデータに基づくもので、ミスリードと言わざるを得ない
・トランプ氏の発言は、ただでさえ微妙なハンドリングが求められる南アフリカの土地改革を、さらに難しいものにしかねない
フランスの愛国戦線などのヨーロッパ極右と関係をもつトランプ政権は、「黒人の大陸」と思われがちなアフリカの白人団体とも繋がっている。ワシントンはいまや大陸をまたぐ白人至上主義ネットワークの拠点となりつつあり、トランプ政権の一方的な言動は、アメリカ国内だけでなく、外国の分断をも促しかねないものになっている。
「白人が大量に殺されている」
8月23日、トランプ大統領は「南アフリカで白人が土地を奪われ、大量に殺されている件についてよく検討するよう、ポンペイオ国務長官に求めた」とツイートした。
I have asked Secretary of State @SecPompeo to closely study the South Africa land and farm seizures and expropriations and the large scale killing of farmers. “South African Government is now seizing land from white farmers.” @TuckerCarlson @FoxNews
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2018年8月23日
このツイートは、トランプ支持で知られるFOX ニュースが22日に放送した番組に沿ったもので、ここでは以下の2点が強調されていた。
・南アフリカ政府は、ただ白人というだけで、その土地や農地を補償なしに徴収しようとしている
・南アフリカでは、白人の農園主が各地で頻繁に殺害されている
これを受けて、クー・クラックス・クラン(KKK)支持者など右派からは「ホワイト・ジェノサイド(白人に対する大量虐殺)を無視しているアメリカのエリート」への批判とともに、トランプ氏への称賛が相次いだ。
ワシントン・ポストによると、この日の白人ユーザーのトランプ氏に関するツイートは年始以来最多だった。これは「虐げられる白人」への共感によるとみられる。
南アフリカの動揺
トランプ大統領の発言は、南アフリカに動揺をもたらした。
南アフリカ政府は同日、「我が国民を分断することだけを目的にした、植民地主義の過去を思い起こさせる、このような狭い見方を、南アフリカは全面的に拒絶する」という声明を発表し、トランプ発言との対決姿勢を鮮明にした。
South Africa totally rejects this narrow perception which only seeks to divide our nation and reminds us of our colonial past. #landexpropriation @realDonaldTrump @PresidencyZA
— South African Government (@GovernmentZA) 2018年8月23日
しかしその後、8月28日に与党アフリカ民族会議(ANC)は議会での土地収用に関する法案の審議を「これに関連する憲法上の審議を優先させるため」として中断した。トランプ氏の発言が、このシフトダウンの一因になったとみてよい。
ただし、同じく28日、ラマポーザ大統領は「トランプ大統領は南アフリカのことに関わるべきでない」とも述べ、不快感を露わにするとともに、土地問題の解決への意欲を改めて示した。
補償なしの収用
端的に言って、トランプ氏のツイートやFOXニュースの番組はミスリードと言わざるを得ない。これに関して、まず「白人の土地が奪われようとしている」からみていこう。
2018年7月にラマポーザ大統領は、白人の農地を補償なしに収用するための憲法改正を加速させると発言した。これは今年2月、現状では「公益のために」政府に認められている土地収用の権限を強化するための憲法改正の動議が南アフリカ議会に提出され、241票対83票で可決されたことを受けてのものだった。
これだけみれば、「南アフリカ政府が白人の土地を収奪しようとしている」という批判もあり得る。実際、白人政党は2月の動議に反対し、首都プレトリアなどでは白人団体による「少数者の権利」を求める抗議デモも頻発している。
「ただ白人というだけで」ではない
しかし、その一方で無視できないのは、南アフリカにおける土地保有のいびつさである。
この国では19世紀に入植したオランダ系、イギリス系の子孫をはじめとする白人が人口の約9パーセントにすぎないにもかかわらず、耕作可能地の約73パーセントを保有している。植民地時代にルーツをさかのぼる大土地所有制は、南アフリカが世界屈指の格差社会であることの一因であり、同国のジニ係数は0.6を超える驚異的な高さだ。

つまり、南アフリカ政府が白人の土地収用に関心をもっていることは確かだが、そもそもの土地保有の不公正さを抜きに「白人の財産が奪われる」とだけ強調することは征服した側の既得権のみを認めるもので、あまりに一方的である。少なくとも、南アフリカの土地収用の問題は、「ただ白人というだけで」発生したわけではなく、事実としてまだ収用は行われていない。
付言すれば、フランス革命で貴族や教会の所領が(全てではないが)再分配されたように、旧体制の支配層の土地の再分配は、その良し悪しにかかわらず、欧米世界でも行われてきた。白人同士が革命の中で土地改革を行っても許されるが、植民地主義の遺産を清算するために白人と非白人の間で行われるのは許されないというのであれば、人種差別主義と言われても仕方ない。