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サマータイムがある国での暮らしは実際はどうか EUでは意見公募で制度廃止へ

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日本で、「サマータイム制」導入を巡って大きな議論が発生している。

サマータイム制は春には夏に向けて時計の針を1~2時間早め、秋には冬に向けてこれを逆にする仕組みで、欧州を中心に世界で約70カ国以上が導入している。

2017年時点でのサマータイム導入国(緑色部分が導入国)(「 EUのサマータイム実施状況」より)

日本で議論が沸騰したのは、8月上旬、安倍首相が2年後の東京五輪大会の暑さ対策の1つとして、サマータイムの導入を示唆したことがきっかけだ。これから与党・自民党が制度導入の是非や実施する場合の期間などを検討する予定という。

まだ何も決まっていないのだが、「あと2年弱しかないのに、実現できるの?」、「コストがかかりすぎるのでは?」、「五輪開催期間だけ導入するなら、無駄では?」、さらには「交通機関のダイヤがめちゃくちゃになる」、「コンピューターシステムが大混乱する」、また「健康上、被害がある」など、様々な疑問や予想が飛び交って不安感が増幅されている。

8月31日、欧州連合(EU)の執行機関となる欧州委員会は、域内からの意見公募の結果84%がサマータイムの廃止を支持したと発表し、今後、廃止への準備をする予定だ。サマータイム導入反対者にとって、「それ見たことか」という結果となった。

しかし、実際にサマータイムが根付いた国で暮らしてみると、非常に便利なシステムで、健康面への悪影響もほとんど感じられない。

まずは実体験を聞いていただきたい。

世界ではサマータイム制は「非常に快適」という面も

筆者が住む英国は、サマータイムを導入している国の1つだ。その使い心地はというと、非常に快適だ。

毎年、3月末の日曜日と10月末の日曜日という風に日にちが特定されているので、政府もビジネスも国民もこれに合わせて予定を立てることができる。年に2回の時間調整を前提として生活が、社会が回ってゆく。

かつては家中の時計を1時間早めたり、あるいは遅くしたりの手間がかかったが、現在ではほぼすべての時計の中にコンピューターが入っているため、自動的にサマータイムに移行してくれる。PC、ラップトップ、携帯電話も同様である。

交通機関のダイヤ調整も、もう何十年もサマータイムが導入されているので大きな問題はない。

英国の場合はサマータイムで変更になるのは1時間のみ。例えば切り替えが起きる日曜日の朝、冬は前日までの午前7時が午前6時になり、「あと1時間、余計に寝ていられるぞ」とうれしくなる。夏は1時間早くなるが(前日までの午前6時がその日は午前7時に)、日曜日ということで、冬時間のままで起きても別段、困ることはない。

差が1時間であるため、サマータイムの時間変更でもし体調の崩れがあったとしても、健康な人であればそれほど苦しむことなく、回復できる。飛行機を使って海外旅行することが身近になった今、「時差があるから、旅行しない」人はごく少数だろうし、サマータイムは「1~2時間の時差」だけなのだ。

EU域内の夜明け、日没の時間(2017年6月21日分と12月21日分)((「 EUのサマータイム実施状況」より)

いったんシステムが稼働してしまえば、恐れることはないのがサマータイム制と言えるだろう。

米国では州によって状況が異なるが、在米でサマータイムに親しんでいる方も、同様の状況のようだ。

▽日本でも導入検討。アメリカ人はどう過ごす?サマータイムのある暮らし
http://blogos.com/article/320522/

いつ、なぜサマータイム制が広がったのか

季節によって時間をずらす考えを最初に公にしたのは、米国建国の父の一人と言われる政治家ベンジャミン・フランクリンだった。1784年、ある新聞への投書の中で言及したという。

サマータイムの導入を最初に提案したのは、ニュージーランドの昆虫学者ジョージ・バーノン・ハドソン。1895年、時計の針を年に2回調整することで日照時間を有効的に使うことができると主張した。

法制化の動きが始まったのは、20世紀に入ってから。

英国の建築業者ウィリアム・ウィレットが照明経費を節約し、戸外の活動をより促進するために熱心に運動を開始した。一時は下院で導入を議論するところまで行ったが、科学者や農業従事者からの反対で可決されなかった。

第1次世界大戦(1914~18年)が勃発すると、日照時間を最大限に活用し、電気、ガス、石油などの使用を節約するため、ドイツ、フランス、英国、オーストリア・ハンガリー帝国などで導入された。戦争が終結するとサマータイム制は廃止された。第2次大戦(1939~45年)でも同じ理由で導入され、平和になると廃止された。

日本でも、終戦からまもない1948年、電力不足解消のために生活時間を1時間早める形で導入されていた(4年後に、廃止)。

1970年代の石油危機を受けて、エネルギー節約ためにサマータイム制を導入する国が増えた。80年代に入るまでに、エネルギー節約、戸外での余暇活動の時間の延長を利点として欧州各国に広がった。

EUのサマータイム制導入状況は?

域内が単一市場となるEUでは、全加盟国にサマータイム制の導入が義務化されており、毎年3月の最後の日曜日午前1時、10月の最終日曜日の午前1時に時間の切り替えが起きるように設定されている。

地理的にEUの周辺にある国、例えばスイス、ノルウェーなども導入している。エネルギー節約という目的以外に物流や貿易などをスムーズに進めるためだ。

世界のほかの地域では、米国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、ブラジル、チリ、パラグアイ、ウルグアイなどで導入されている。

いったんはEU諸国に合わせてサマータイム、あるいは「デイライト・セービング・タイム(日照節約時間)=DST」を導入したが、のちに廃止したのがトルコやロシアだ。トルコは2016年9月に夏時間を1年中採用することにした。ロシアは2011年に夏時間を通年採用としたが、2014年に冬時間の通年採用に変えている。

「大部分の加盟国はサマータイム制について満足」だった

サマータイム制について、これまでEU域内で疑問の声は上がってこなかったのだろうか?

EUの関連ウェブサイトから、報告書「欧州でのサマータイムの導入について」(2014年9月発表)と「EU指令2000/84/ECの下でのEUのサマータイム実施状況」(2017年10月発表)がダウンロードできるようになっている。前者は米コンサルティング会社ICMインターナショナルが欧州委員会向けに制作し、後者は「欧州議会調査サービス」が担当した。

▽欧州委員会による、サマータイム制についての意見公募のサイト
https://ec.europa.eu/info/consultations/2018-summertime-arrangements_en

▽「欧州でのサマータイムの導入について」
https://ec.europa.eu/transport/sites/transport/files/facts-fundings/studies/doc/2014-09-19-the-application-of-summertime-in-europe.pdf

▽「 EU指令2000/84/EC下でのEUのサマータイム実施状況」
http://www.europarl.europa.eu/thinktank/en/document.html?reference=EPRS_STU%282017%29611006

「EU指令2000/84/EC」は、加盟国に共通のサマータイムの導入を義務化する取り決めだ。

2014年発表の報告書は冒頭の概要部分で、「大部分の加盟国は現在のサマータイム制について満足している」と記している。企業や消費者団体からの意見を聞いたところ、「制度を変更するべきという広範な機運」はなかったという。

サマータイム制への関心は薄く、「EU域内で統一されたサマータイム制があることに対して、大きな不満はないと思われる」。

経済効果については結論出ず

もう1つの方の報告書だが、サマータイム制の良し悪しについて論文や調査報告書を調べた結果、いくつかの特徴があったと指摘する。

まず、全域でサマータイムが導入されているため、物流を含む域内のビジネスがスムーズに運ぶという。戸外での余暇活動のための時間も増えた。エネルギー消費の節約にもなった。ただし、節約分は「最小限」だという。

どれほどの経済効果があるかについては、「結論が出なかった」。

そして、負の面として人間の生体リズムが乱されることによる健康への被害が挙げられている。

結論部分をより詳しく見てみると、サマータイム制によるエネルギーの節約は「比較的小さい」。平均で0・34%ほどにしかならないという。節約度はその国の地理的状況によって0・5%から2・5%の間になる。

域内では全加盟国が一斉に時計の切り替えを行うサマータイム制を導入しているが、もし個別でサマータイムを設けた場合、貿易や物流、運輸などの分野で負の影響が出ると予想されている。

健康への負の影響だが、「もっとも注視するべき分野」として挙げられているものの、どれほどの害悪になるのかについては、ドイツ議会による調査を基に「将来的にもっと深い調査が必要」としている。かつては「数日で回復できる」とされてきたが、最近の調査では「影響が数週間続く人や適応できない人がいる」ことが分かってきたからだ。

日本でも、この点が最大の懸念の1つだろう。ちなみに、日本睡眠学会は2012年の「サマータイム健康に与える影響」と題された文書で、生体リズム、睡眠の質と量において健康被害が生ずると指摘している。海外の調査結果も紹介している。

▽日本睡眠学会による「サマータイム健康に与える影響」(2012年)
http://www.jssr.jp/data/pdf/summertime_20120315.pdf

先の報告書に戻ると、道路の安全性については、サマータイムとの関連付けで直接的に負の影響が出るのかどうかについて、「結論が出なかった」という。

農業分野については、時間の変更によって家畜の生体リズムが崩れ、搾乳の時間が乱れる問題があったが、搾乳機械の工夫、人工照明やその他の技術的な方策を講じたことで「懸念はほぼ消えている」という。戸外での作業時間が増えたことで収穫に好影響をもたらした、という指摘もある。

以上の分析は、あくまで加盟国28か国全体での話である。エネルギーがどれぐらい節約できるかの項目で、その国の地理的状況によって変わるという表記があったが、確かに、国によって日照時間、夜明け、日没の時間がかなり異なる。

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