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「サン・チャイルド」は福島第一原発に置いてはどうか

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1 けっこう人が来る

福島第一原発では現在も廃炉作業が続くが、一方で訪問者も増えてきている。

福島第一原発の視察者数、東京五輪までに2万人目指す 東電
AFP2018年2月6日
福島第一原子力発電所を管理する東京電力(TEPCO)は、東京夏季五輪に世界中から注目が集まるのを契機に、津波で激しく損壊した同原発施設への視察者の数を2020年までに倍増し、同地域に対するマイナスのイメージを払拭することを目指している。 2011年の東日本大震災による福島第一原発事故以降、同施設の視察が許されるのは当初、原子力専門家、議員、政府関係者と一部の報道関係者のみに限られていた。しかし、構内の大半で防護服を着用せずに作業できるほど放射線量が下がってきたことを受け、訪問者の数は次第に増えてきている。

現在は「地元住民、大使館員、学校の生徒らの集団見学の申し込みを受け付けているが、個人の申し込みはまだ受け付けていない」(上掲記事)そうだが、作業の進展によって、今後変わることもあるかもしれない。ダークツーリズムということばはそれ自体に対してさまざまな意見があるが、負の要素を持つ施設も観光の対象となりうることはいうまでもない。もちろんこの作品を、作者の意図通り「放射能の心配のない世界を迎えた未来の姿」とみてもよい。胸の「ガイガーカウンター」を本物の線量計にすればなおよいと個人的には思うが、現在の「ゼロ」のままでもよい。

2 風評被害につながらない

というのも、原発敷地内であれば、風評被害を呼ぶことはまずないと思うからだ。そもそも、線量が「ゼロ」(むろん不可能だが)でなければ「安心」できないといった考えの人々や、この作品を見ることで「福島は危険な場所」と勘違いしてしまうような人々が原発を訪れることは非常に考えにくい。仮にそうした人たちが来たとしても、見学に来れば、事故やその後の廃炉作業について詳しい説明を聞く機会があるはずだ。

「大勢の人たちが平穏な日常を暮らす福島駅前」では不安や偏見を呼びかねない「防護服」姿も、原発敷地内であれば「ヘルメットを取っても平気」の象徴となる。実際、「廃炉作業が進む福島第一原子力発電所の作業員ですら、防護服を着て作業するエリアは極めて限定的」(上掲現代ビジネス記事)なのだ。

現在は地元の人など一部に限られているとしても、将来的により多くの人が実際に現地を訪れ、実際の状況を見ることは、福島の将来にとってマイナスではないと思う。一般公開すれば、反対派の皆さんが来るかもしれないし、ベルリンのホロコースト記念碑でふざけたセルフィ―を撮って批判されるようなインスタ蠅の皆さんが押し寄せるかもしれないが、そういうときにもこの作品を使ってもらえばよい。

そもそも股間にGM管?をつけてあるようなふざけた(ほめ言葉)作品の前で少々はっちゃけても問題はあるまいし、それで地元にいくばくかでもカネが落ちるのは悪いことではない。そのために役立つならば、作者のいう「明るい未来」につながる使われ方なのではないか。

3 廃炉に取り組む人たちの意識を高める

アート作品だから美術館に置けばよい、という意見はあちこちで見かける。見たい人だけが見ればよいというわけで、もっともだと思うが、こうした作品であるからこそ、日常的に見てもらいたい人たちがいる。それが廃炉作業に取り組む人たちだ。

廃炉作業は地道で気の長い作業であるだけでなく、悪いイメージがつきまといやすい作業でもある。モチベーションを保つのも大変だろう。事故を起こした東電の責任は否定しようもないが、現場でがんばっている人たちに対しては頭が下がる思いしかない。こうした人たちにとって、この作品を日々見ることは、会社が背負った「負の遺産」を忘れず、それでもより「明るい未来」をめざして日々の努力を続ける動機付けになるのではないか、と想像する。

そう考えるのは、日航の事例を連想するからだ。1985年8月12日に墜落事故で乗客・乗員520人が亡くなった日航は、2006年に開設した「安全啓発センター」で、事故に至る過程を解説したパネルや映像資料とともに、機体の残骸、乗客・乗務員の遺品を展示している。

日本航空 安全啓発センター
事故の教訓を風化させてはならないという思いと、安全運航の重要性を再確認する場として、私たちは安全啓発センターを2006年4月24日に開設しました。
JALグループでは、この安全啓発センターを「安全の礎」とし、すべてのグループ社員がお客さまの尊い命と財産をお預かりしている重みを忘れることなく、社会に信頼いただける安全な運航を提供していくための原点としていきます。
日航機事故から33年、経験社員5%に 事故後入社の赤坂社長「新入社員に近い体験重要」
エアライン — 2018年8月12日
JALによると、事故後に入社した社員は全体の95%にのぼる。植木義晴会長ら事故当時を知る経営陣や社員は5%になった。JALの新入社員は御巣鷹山に登り、事故機の残骸などの資料を展示した社内の安全啓発センターを見学している。 「日本航空の社員にとって、事故の時にいたか、事故後に入社したかは関係ないと思う。今の新入社員のように、事故後に生まれた社員がものすごく増えている。(御巣鷹山登山やセンターの見学は)実際の体験ではないが、なるべく近い体験を新入社員に与えていくことが非常に重要だと思う」と赤坂社長は述べ、事故から30年以上が経過した中で、風化を防いでいきたいという。

東電も、あと20年もすれば事故後入社の社員が多数を占めるようになるだろう。もちろん原発事故の社会的影響は飛行機の墜落事故よりはるかに大きいし、廃炉作業はその時点でも続いているはずだから、事故自体は忘れようもないだろうが、事故当時の世論や社会の風潮を感じ取ることはより難しくなるだろう。

その意味で、「2011年からの使者」を常に近くに置くことは、記憶の風化を防ぎ、廃炉作業に取り組む人たちに、自らの仕事の重要性の意識とその先に開かれる「明るい未来」へのモチベーションをもたらすだけでなく、企業としての東電が、事故と、また事故によって地元の方々が被った途方もない風評被害と向き合っていく姿勢を示す効果を持つのではないか。

4 関係者が少ない

公共の場所に置くとなれば、当然、それにふさわしいものかどうかの議論が起きやすい。今回の一件はそれが表面化したケースといえる。一方、原発の敷地内であれば、設置の可否は東電と所有者で決められる。駅前から撤去された作品は解体され当面どこかで保管されるそうだが、人の目に触れない場所で朽ちていくのを待つのももったいない。

というわけで、まあ部外者の一個人としての考えではあるが、東電や県の方々、そして作者の方、もしご賛同いただけるようであればぜひ。

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