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一刻も早い「介護事故」防止の施策を


2018年7月、埼玉県の特養ホームで、入浴介助中の女性利用者が溺死するという痛ましい事故が発生しました。詳細については「警察による捜査中」となっていますが、介助時の見守りが一時的に薄くなった可能性が指摘されています。現場における介護人材の不足がさまざまな影響をおよぼす中、利用者の生死にも直結しかねない事故リスクについて重大な懸念が高まっていることに注意が必要です。

職員個人のスキルに頼るだけでは限界がある

利用者は「人間」ですから、どんなに身体機能が衰えていても、「身体の重心を移動させる」という意識は生じます。たとえば、いすなどに座っている状態で、(座り心地の悪さを解消しようという意向のもと)少しずつ重心移動が図られていけば、身体を支える軸もズレていきます。その結果、「少し前まで安定した姿勢をとっていた」と思われる人でも転倒・転落等の事故は起こり得るわけです。

これを防ぐには、そばにいる職員が「危ない」という危険を察知できる能力がまず必要です。ただし、このスキルは個人差が大きく、どんなに経験や研修を積んでも標準化を目指すことは簡単ではありません。同じ人でも、その日の体調や心の状態によって差が生じることもあります。「組織として事故防止を図る」うえでは、極めて心もとないことになります。

これをカバーするのは何かといえば、いかなる場合においても、「その場の危険状況」をチームで共有するというしくみです。たとえば、一瞬でも「目を離さなければならない」状況が生じたとき、チームの誰かに(内線や端末等も使いつつ)声をかけて、危険な状況を放置しないことが必要になるわけです。

対応ロスの拡大防止は「現場任せ」ではダメ

現場の人材不足が進行した場合、一番の問題は上記の「しくみ」が機能しなくなることです。内線で同僚を呼び出しても、別業務で手が離せない。あるいは、その同僚が離れた場所にある利用者の居室にいて、現場移動に一定のタイムロスが生じる、など。普段は「大したロスではない」と感じていても、わずかながらロスが拡大していけば、いつしか臨界点を超えて大きな事故に結びつくわけです。

こうした「ロスの拡大」を見逃さないためには、水面下で拡大しているリスクに対し、組織として意識的に把握することが必要です。現場職員は「目の前の業務」で手一杯になっている点を考えれば、その把握は「現場を客観的に見ることのできる組織の上層部」が行なうことが必須となるでしょう。

仮に、組織のすみずみまで「人材不足のために手一杯」の状況が生じているとするなら、現場リスクの把握は外部で手がけなければなりません。たとえば、保険者や都道府県、国が責務を担うことになります。特に国としては、「現場の人材不足と事故リスクの相関関係」についての調査を行ない、一刻も早く具体的な対策を打ち出すことが必要です。

外国人人材も「危険にさらす」ことになる

18年1月、国は「介護施設での事故」について全国規模の調査を行なうことを発表しました。また、3月には、介護労働安定センターが老健事業の一環として「介護サービスの利用にかかる事故の防止に関する調査研究」の結果を公表しています。

老健事業における調査研究は12年3月以来となっており、遅ればせながら実態把握が動き始めたのは望ましいことでしょう。ただし、こうした調査を受けての対策にスピード感がなければ、現場における危険状態が放置されることに変わりはありません。介護保険部会等でも、すぐに対策を話し合うべき時期に来ています。

ちなみに、国は介護人材の不足解消のために「外国人人材の積極的な受入れ」を図ろうとしています。しかし、そこには職員間の情報・状況の共有という問題が潜みます。17年度の介護労働実態調査では、外国人人材を活用するうえでの課題として、「日本人職員との会話等における意思疎通に支障がある」という回答が約半数を占めています。先に述べた事故防止を図るうえでの「危険状況の共有」が不十分になるリスクも浮かぶわけです。

こうした点を考えたとき、国がのぞむべきは、「事故防止のために何が必要か」という着地点をしっかり見極めたうえで、それに応じられるだけの実効性ある対策を打ち出すことでしょう。この視点がないまま、「外国人人材の受入れ」という数字上だけの人材不足対策を打ち出しても、リスクは放置されかねません。これは、日本での就労を希望する外国人人材をも危険な立場に追い込むことになります。施策立案に際しては、現場の実感をきちんとヒアリングすることが求められます。

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