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"記者0人"の通信社が目指す「報道革命」

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誰もがスマホを持ち、写真を撮って目の前で起こったことを投稿する時代になった。膨大な投稿内容をAIで解析し、ニュースを見つけるサービスを提供する若者がいる。民放キー局や大手新聞社が頼りにするベンチャー通信社の実態とは――。

■中3で航空業界のニュースを発信する専門サイト立ち上げ

【田原】米重さんは子どものころからニュースオタクだったそうですね。

【米重】新聞とテレビのニュースが好きでした。私自身は覚えていないのですが、家族の話だと、3歳ごろから普通に新聞を読んでいたそうです。記憶にあるのは、政権でいうと村山政権あたりのニュースです。

【田原】どうしてニュースが好きだったのだろう。

【米重】新聞が普通に家で購読されていて、目につくところに置いてあったからでしょうか。それを自然に読むようになって、政治や経済に関心を持つようになりました。

【田原】中学生のころは航空業界に興味を持っていたそうですね。

【米重】同級生に飛行機に詳しい友達がいて、彼の影響です。ただ、私が興味を持ったのは、機体そのものよりも航空行政。たとえば東京-札幌は片道3万~4万円ほどですが、ロンドンから同じような距離を飛ぶのに5000~6000円しかかからない路線もあります。この違いは何だろうなというところから、航空行政に関心が向かうようになりました。

【田原】そんなことを考える中学生なんているんだ。具体的に何かしたんですか?

【米重】まずは情報収集です。新橋に航空図書館があって、そこに行くと、運賃や輸送量といったデータがわかります。あとは全日空や日本航空に見学に行ったり、航空会社にお勤めの方に話をうかがったり。それが高じて、中3のころに航空業界のニュースを発信する専門サイトを立ち上げて4年ほど運営していました。

■「報道」の最大のコストは記者の人件費

【田原】大学は学習院ですね。入学して1年目に、いま経営されているJX通信社を立ち上げられる。通信社はたくさんあるけど、米重さんは何をやろうとしたんですか?

【米重】航空のニュースサイトをやっていたのと同じ時期に、「オーマイニュース」や「JanJan」など、いわゆる市民記者が取材をして記事を書く新しいタイプのニュースサイトが次々に立ち上がりました。ただ、それらのサイトのほとんどが早々に潰れてしまった。オンラインニュースメディアのマネタイズが難しいことを見せつけられましたが、一方で、いつまでも紙メディアが中心にいるとも思わない。それなら自分でオンラインの新しいビジネスモデルをつくってみようと思って、JX通信社を設立しました。

【田原】オーマイニュースやJanJanは、なぜ潰れたんだろう。

JX通信社 代表取締役 米重克洋氏

【米重】まず取材にはお金がかかります。また、お金をかけても、ジャーナリストの訓練を受けていない市民が記者だと、記事の質を担保できず、読者が増えていきません。読者が少なければ広告が集まらず、結局、コストと収益のバランスも取れなくなってしまう。やはりもともと無理のあるモデルだったと思います。

【田原】JX通信社は、どのようなモデルでやろうとしたのですか。

【米重】私が考えたのは、ニュースメディア間の記事の売買です。たとえばフリーペーパーのA社がつくった記事を、別のWebメディアのB社が買って自社のサイトに使う。そうすればA社は収益が増えるし、B社は自社で取材するより安く記事を配信できます。記事を売りたいメディアと買いたいメディアのマッチングの仕組みをつくるつもりでした。

【田原】それはうまくいきました?

【米重】いえ、残念ながら。実際にやってみると、記事の質にかなりバラツキがあって、買いたい側のニーズにフィットしないケースが多かったんです。マッチングのやり方もけっこうアナログで、結果としてニュースメディアのコストを下げるという目標は達成できないままサービスを終了させました。

【田原】その後はどうしたの?

【米重】コストを下げるためのアプローチを抜本的に見直しました。報道の分野で大きくコストが掛かっているのは人件費。報道は、取材するのも人間で、記事を書くのも人間です。何から何まで人間がやるからコストがかさむ。そこで報道のプロセスに機械を入れて、取材や編集の業務を自動化してコスト削減する方向へと舵を切ることにしました。

■ツイッターで、報道する価値ある情報を探す

【田原】取材を機械化するってどういうことですか。

【米重】最近、ニュースソースとしてSNSが活用されるようになりましたよね。たとえば豪雨でどこかの地域が冠水したとします。従来は警察や消防の発表があってはじめて報道機関は冠水の事実を知り、そこから現場に取材に向かっていました。しかしいまはSNSにさまざまな目撃情報がアップされているため、警察や消防の発表より早く冠水の発生を知ることができるようになりました。ただ、SNSにアップされる情報は膨大で、常時監視しようとすれば何人もの人間が必要になってしまう。そこを機械化できればコストを下げられるかなと。

【田原】SNS上の情報から事件や事故がわかるということ?

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【米重】たとえば一般のユーザーがツイッターに投稿した画像があります。その画像を見ると、横転した車を囲う警察官の様子や、警察官の制服の背中の文字などから、大阪で交通事故が起きたことがわかる。そういった情報をAIが自動で解析して配信。それを見たテレビ局や新聞社は、警察や消防に取材したり、現場までいってウラを取ります。最近は画像を投稿した人に報道機関が直接アプローチして、画像を使わせてもらうことも多いですね。

【田原】分析に使うSNSは何ですか。ツイッター?

【米重】はい、ツイッターが90%以上を占めています。インスタグラムやフェイスブックと比べると、ツイッターのユーザーはリアルタイムに情報をアップする習性が強いので。

【田原】なるほど、リアルタイムか。現場をいま見ている人が投稿するから、警察発表よりスピードは速いね。

【米重】最近だと東海道新幹線車内での殺傷事件がありましたが、あの事件の目撃情報もほぼリアルタイムで私たちの提供するファストアラートに入ってきました(対談は2018年6月11日)。警察発表より30~40分は早かったんじゃないでしょうか。ファストアラートには、もう1つ、埋もれがちだったニュースを掘り起こせるメリットもあります。たとえば警察は事件情報を何でも積極的に公開してくれるわけではありません。しかし、SNS上には公的機関や企業が出し渋る情報が出ていることが多々ある。日大アメフト部の事件も、ネットで騒がれてからテレビで報道されるようになった。今後はさらに同様のケースが増えていくはずです。

【田原】投稿情報から、何が起きたのかを解析する技術はわかりました。でも、SNS上にはニュースになりそうな公共性の高い情報から、ニュースにならない個人的な情報まで、さまざまな情報が溢れています。ニュースになるかどうかはどうやって判断するの?

【米重】そこもAIです。過去に報道で取り上げられた情報と重なるところが多ければ、報道価値があると判断してファストアラートに乗せます。

■フェイクニュースをどう見極めるのか

【田原】もう1つ聞きたい。SNSの情報はフェイクニュース、つまりデマが多いと批判されています。情報の正確さは、どうやって担保しているのですか。


【米重】フェイクニュースにはいくつかタイプがあります。1つは、いままで流行った別の画像を使い回すタイプ。これは過去の画像と同じなのですぐ見分けられます。まったくない話をでっちあげるタイプもありますが、そういったデマも過去のデマ投稿のパターンと類似性があるかどうかをAIが調べて判断します。

【田原】まったく新しいデマだと、調べてもわからないんじゃないの?

【米重】どこかの街に熊が出没したという投稿があったとします。本当ならば、ほかにも目撃者がいて投稿されるはず。もし1件しか投稿がなければ信憑性は低い。そういったことも含めて複合的に判断しています。

【田原】ファストアラートに流れる情報の精度は、いまどれくらいですか。

【米重】間違った情報が100件あったら、99件は流す前に弾けるくらいのところまできました。ごくたまに弾けないケースがありますが、報道機関は裏取りをするので、最終的には視聴者や読者のもとに届く前に弾かれるでしょう。

【田原】JX通信社の設立は08年。記事のマッチングサービスに失敗した後は、何をやっていたのですか。

【米重】ニュースエンジンを報道機関に提供していました。たとえばある新聞社の記事の文章を解析して、「これは政治」「これは経済」と自動で仕分けするシステムです。これを導入すれば、編集部は人力で記事の仕分けをする必要がなくなる。ちなみにファストアラートは、このときつくったエンジンの自然言語処理技術を活かして開発しています。

【田原】エンジンやファストアラートにしろ、報道機関に買ってもらわなくちゃいけませんね。

【米重】エンジンに関しては12年から産経新聞などに提供しています。ファストアラートは、フジテレビやテレビ朝日から入り始めて、17年4月までに在京のテレビ局すべてに入りました。新聞はいまのところ、朝日と産経。地方紙で大きいところだと神戸や静岡でも使われています。

【田原】これはどういう契約ですか。1配信いくらとか?

【米重】アカウントごとに月額です。

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