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パワハラの事実認定と企業の職場環境配慮義務

私自身も、上場会社や学校法人の内部通報窓口(外部窓口)を担当しておりますが、パワハラに関する通報の調査はきわめてむずかしいと感じております。セクハラはほとんどの事例が被害者からの通報ですが、パワハラ通報は被害者(とされる方)からが半分、あとの半分は職場の同僚の方によるものです。上司の不適切な指導監督行為で職場の同僚が疲弊している、なんとかならないか、といったところが典型例です。

先週、リオ五輪代表だった体操女子選手に対する某コーチのパワハラが認定され、日本体操協会は同コーチに対して無期限登録抹消処分を下したことが報じられています。

しかし、パワハラの被害者とされている体操女子選手は「一部不適切行為に関する事実は認めるが、パワハラとは思っていない。あのコーチがいなければこれまでやってこれなかったし、今後もコーチの指導を受けたい。もしこのままコーチがいなくなるのであれば、今後の競技生活の継続について検討せざるをえない」との声明を出し、日本体操協会に対して処分取消を求める仮処分を申し立てた、とのこと。

実際、この体操女子選手の事例はパワハラ認定においてよく経験するところです。第三者の目からみればパワハラに見えるものの、被害者とされる方にヒアリングをすると「自分にミスがあったのだから厳しい指導を受けるのは当然。だからパワハラだとは思っていないので処分などは絶対にしないでほしい」と懇願されます。セクハラは「疑わしい行為」にレッドカードを突き付けることに躊躇しません。

しかしパワハラは、指導熱心な上司の行動を委縮させてしまいかねないため、いわゆるグレーゾーンの線引きは明確に判断しなければならず、きわめてむずかしい調査になってしまいます。

ただ、調査担当者として考えなければならないのは、「パワハラの被害者って誰なんだろう?」という点です。不適切行為の対象者であることは間違いないのですが、最近は、対象者ではなくても、同じ職場で行われている不適切行為によって仕事の意欲を失ってしまう同僚の方々も被害者に含まれる、という判断がみられるようになっています(「ハラスメントの次の標的は私になるのではないか」とおびえた同僚自身もパワハラによる損害賠償請求が認容された裁判例も出ています)。

もちろん、不適切行為が行われている状況を精査したうえでの判断になりますが、企業がパワハラを撲滅することは職場環境配慮義務の一環として考える必要があり、たとえ直接の被害者が「パワハラではない」と訴えたとしても、客観的にパワハラに該当する行為があれば、これを認定して処分の対象とする、ということにも一応の合理性はあるように思います。

そもそもハラスメントは人権侵害ですから、不適切行為を直接受けた対象者の主観的判断(人権を侵害されたかどうか)が重視されるべきものです。ただ、ハラスメントが職場に及ぼす影響を考えますと、「被害者」の範囲を広げて考えることも検討課題ではないかと感じるところがありますね。また、できれば中立・公正な第三者的な立場の専門職によって事実認定をすべきだと思います。

厚労省でも、いよいよパワハラの防止措置義務および義務違反へのペナルティを検討することになりましたので、そろそろ企業でもパワハラ防止に向けた内部統制システムの検討を真剣に考える必要があります。

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