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男性の「精液」が医療検査で注目されている理由 「性差医療」の最先端で何が起きているのか - 長田 昭二

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 物置で埃をかぶっていた壺やら掛け軸やらが、じつは高価なものだった、という話は、よくあることではないが、たまにあるらしい。

【写真】『ヤル気が出る!最強の男性医療』の著者、順天堂大学の堀江重郎医師

 それまで「価値がない」とされていたものに、ある日突然価値が生じる――そんな突然の評価の変化が、人間の身体でも起きることがある。以前はただの排泄物だったものが、“検体”として役立つことがわかってきたというのだ。

 突如チヤホヤされ始めた元排泄物とは、「精液」です。

血液や尿と比べて明らかに扱いが低かった

 最初に理解してほしいのは、今回のテーマは「精液」であって「精子」ではないということ。女性の体内で卵子と結合し、受精、妊娠を経て赤ちゃんが生まれる。この一連の工程の主人公となるのは精子と卵子。したがって、精子は元々「無価値」ではない。

 しかし、その精子を保護する目的で存在する精液には、これまであまり大きな役割が見出されることはなかった。

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 もちろん妊娠を目的とする性交時の射精においては、その精子に栄養を与え、保護するという重要な任務を精液は担っているが、それ以外の場合、早い話が快楽のみを目的とした射精の際には、精液はただの排泄物として処理される存在だった。

 医学的に見ても同様で、精液は同じ体液でも血液や尿と比べて明らかに扱いが低かった。

不妊治療でも数える対象はあくまで精子

 血液は昔から病気の原因を探る上で、重要な検体として用いられてきた。現在も何らかの病気が疑われる際には、「まず採血」がセオリーだ。

 尿も、血液ほどではないものの、「検尿」という言葉があるくらいで、やはり検体として利用される。尿中の血液や膿の混入の有無を見ることで、病気の存在を特定する手掛かりとなる。

 一方の精液はどうだろう。

 医療機関で精液を採取するといえば、不妊治療の際に精子の数を調べる時くらい。それとて精液に用事があるわけではなく、数える対象はあくまで精子だ。

「きっかけは“ブランド牛”なんです」

 そんな不遇の体液である精液を、検体として役立てられないものだろうか――と考えた医師がいる。『ヤル気が出る! 最強の男性医療』(文春新書)の著者で、順天堂大学医学部泌尿器科教授の堀江重郎医師だ。

「きっかけは“ブランド牛”なんです。畜産の世界では、高品質の牛肉を安定供給するため、人工授精に用いる牛の精子の保存環境を重要視します。精液の状態がいいほど精子の活動性が高く、それが肉質の良し悪しを左右することがわかっていた。ならば、同じ哺乳類の人間でも、精液から何らかの健康状態を分析することができるのではないか、と」

 堀江医師が目を付けたのは、“テストステロン”。これは男性ホルモンの一種で、男性の体内で非常に重要な役割を担っているという。

「テストステロンは、骨や筋肉の強度の維持、性欲や性機能の維持、血液を作る働き、動脈硬化やメタボリックシンドロームの予防、さらには認知機能に代表される脳の働きまで任されているのです」

“勝負”に出たときのトレーダーのテストステロン値

 そう語る堀江医師によると、テストステロンには健康上の働き以外にも、男性が他者と共存し、その中で自分を表現する“社会性”においても、非常に大きな働きを示していることが近年の研究で明らかになってきているという。

「ケンブリッジ大学が行った調査によると、ロンドンの金融街で働くトレーダーのテストステロンの量の変化を検証したところ、大きな取引、つまり“勝負”に出たときのトレーダーのテストステロンの値が高い、という結果が出たのです。この研究は医学だけでなく、金融工学の面からも注目を集めました。また、ドイツのボン大学で行われた研究によると、テストステロンを配合した塗り薬を皮膚に塗ったグループと、薬効のない薬を塗ったグループに分けて、自分がどちらのグループなのかを知らせずに、インチキができる状況で賭け事をさせたとき、テストステロンを塗ったグループはインチキをしていなかった――という結果が出ました。つまり、男性ホルモンが高いほうが“正直”という結果が出たのです」

 堀江医師によると、大きな勝負に出ることは男性の強さの一つの表れであり、正直に行動することは“正義感”という、男としてのプライドを示すものと考えられるという。

「テストステロンが多い男性ほど“男性力”と“社会性”の面で優れていると考えるに値する科学的な相関性はあると思われる。テストステロンの量を調べることで、社会性は別としても、男性の健康やアンチエイジングに役立てることはできるのです」

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