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特集:米中関係の変容と貿易戦争の行方

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●「米中貿易戦争」の落としどころは?

その結果、貿易戦争が後戻りできないところにまで達している。今週8月23日、米国側は対中制裁関税の第2弾、160億ドル(25%)を発動し、中国側もこれと同様の措置をとった。これで米中は、互いに500億ドル分の輸入に追加関税を課したことになる。さらに米国は来月、新たに2000億ドル分の追加関税を予定している。中国はそんなに多くの米国産品を輸入していないが、何らかの手段で対抗するだろう。

それと同時に、今週8月22-23日にはワシントンで久しぶりに米中協議が行われた。米国側はマルパス財務次官、中国側は王受文商務次官が代表である。この手の会合は、次官級→閣僚級→首脳会談と問題を持ち上げるのが常道なので、成果がなかったことにさほどの異和感はない。初回は「相手の言い分を聞き置く」程度で収めるのが吉例である。

ちなみに8月9-10日に、茂木経済再生担当相―ライトハイザー通商代表の間で行われたFFRも同様で、米側の準備不足もあって協議はあまり深まらなかった。これも「どうせ9月には日米首脳会談があるのだろう」と、双方がタカをくくっていることが背景にあるのではないだろうか。

下記のように、今後の通商問題に関する政治外交日程を作ってみると、日米は9月下旬が山場となるだろう。トランプ政権側としては、対EUやNAFTA交渉、さらには日本などとの貿易協議は深押ししたところで実りは少なく、有権者の受けもそれほど良くはないだろう。

ここは「やってる感」を見せる程度で軽く済ませ、秋以降は対中国に問題に絞り込んでいくことになるのではないか。そうなると、米中間の山場は11月中旬以降ということになる。つまり11月6日の中間選挙後に控えている東アジアサミット、APEC首脳会議当たりで米中首脳会談が行われるだろう。問題はそこでどのように落としどころを見つけるのか。

今のように、政権外でも対中警戒論が高まってしまうと、トランプ大統領が「そろそろ話をまとめるか」と思ったとしても、ちゃんと米中間のディールができるとは限らない。下手をすると、「降りるに降りられない」状態になるかもしれないのだ。

○通商問題に関する日程表

8/22-23 米中次官級協議(ワシントン、王受文商務次官&マルパス財務次官)
8/23 米側が対中制裁関税第2弾(160億ドル)を発動。中国も同様の措置を取る
9/7 自民党総裁選告示
9/11-13 東方経済フォーラム(ウラジオストック)
9/20 自民党総裁選
9/24 頃 安倍首相が国連総会で演説。日米首脳会談も(ニューヨーク)
9/30 沖縄県知事選挙
9月中 米国が対中制裁関税第3弾(2000億ドル)を実施
10/23 頃 安倍首相が訪中。日中平和友好条約締結 40 周年
10月中 EUと英国の離脱交渉が終了予定
11/5-11 第1回中国国際輸入博覧会(上海)
11/6 米中間選挙
11/11-15 ASEAN 関連会議(シンガポール)→東アジアサミット
11/12-18 APEC関連会議(ポートモレスビー)→APEC首脳会議

気をつけたいのは、これが「貿易戦争」(Trade War)であることだ。貿易摩擦(Trade Friction)や貿易紛争(Trade Dispute)ではない。世界第1位と第2位の経済大国が、互いに報復関税枠を拡大している。しかも名目GDPで行くと、米国(20兆ドル)は日本(5兆ドル)の4倍、中国(12兆ドル)は2.5倍である

80年代や90年代の日米通商摩擦とは、比較にならない規模であるし、世界経済への影響力も大きいと見なければならない。ところで面白いことに、米国市場は貿易戦争を問題視しておらず、株価は史上最高水準にある。逆に中国市場はこの問題を重く受け止めて、株価は大きく調整している。これを材料に「市場は米国側が有利と見ている」といった解説がなされている。

ただし今の米国株高は、2016年11月の大統領選挙の翌日から始まっている。確かにトランプ政権は、減税や規制緩和といった「プロビジネス」政治をやってくれている。しかるに、保護貿易のような「アンチビジネス」政治も同時に行っている。「いい所どり」がいつまで続けられるのか。そろそろ転換点が近いのではないかと思えてならない。

●保護貿易はなぜ経済にマイナスなのか?

本誌の7月20日号「貿易戦争時代の微妙な世界経済」で紹介した通り、高関税政策による直接的な影響はそれほど大きくはない。ただし、経済に良い効果をもたらしてくれるわけでもない。むしろ間接的に、さまざまなルートで害をなすことになる。あらためて、高関税政策はどこが間違っているのかを数え上げてみよう。

○保護貿易がもたらす経済への弊害

1. 貿易量が減るので、経済全体が縮小均衡になる。
2. 国内物価が上昇し、家計の可処分所得が減る(家計部門の所得が政府部門に移転するので、実質的な増税と同じ効果がある)。
3. 保護された産業は、得てしてそのまま衰退産業となる(2002~03年に行われた鉄鋼セーフガードはその典型であった)。
4. 国境を超えたサプライチェーンが阻害される(とくに花形産業である自動車やIT関連では、製造工程が複雑に分かれていることが多い)。
5. 予見可能性が低下するので、経営者や投資家が決断を先送りするようになる。
6. 各国が自国通貨を下げようとして、通貨戦争にも発展する怖れがある。
7. 特定品目を高関税リストから除外しようとするロビイストなどの動きが増える(レントシーキング)

問題なのは、上記のような問題点が有権者に伝わりにくいことである。米国経済の貿易依存度はかならずしも大きくはない。そして国内物価の上昇にせよ、サプライチェーンの阻害にせよ、ある程度の時間がたたないと実感できない。まして7番目のレントシーキングなどは、すぐに経済に悪影響を与えるわけではなくとも、市場メカニズムを歪めるという形で着実に経済を蝕んでいく。

7月26日に公表された世論調査を見ると、米国内の意識は「高関税は、経済を助けるよりは害をなす」との意見がやや優勢である(Americans Say U.S.-China Tariffs More Harmful Than Helpful”(ギャラップ社)4

ただし、それは「長期的に、米国経済全体にとって」ということであって、「今すぐに、自分の懐に響く」とまで受け止めている人は少ないようである。要するに、まだまだ「他人事モード」なのである。つまるところ、被害の象徴的な事例が出てくるようでないと、貿易戦争への反対の声はなかなか盛り上がらないのではないか。それには少なくとも数カ月を要しそうである。


1. 犯人たちはコンサート見たさにサングラスやマスクで「変装」するのだが、見抜かれてしまうらしい。

2. 本誌の2017年12月25日号で抄訳を掲載している。

3. 商務省は日本で言えば経済産業省であるが、米国における地位はあまり高くない。「4大省庁」というときは国務省・国防総省・財務省・司法省の4つを指す。

4. https://news.gallup.com/poll/238013/americans-say-china-tariffs-harmful-helpful.aspx

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