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人間が運転する限り、〈安全な原発〉などありえない‐鈴木耕

 3・11以来、僕はこのコラムを原発一色に塗りつぶしてきた。ほかのことを書こうと思っても、頭が回らない。何回かは沖縄について触れたけれど、あとは原発のことばかり。

 沖縄を考えなくてはいけない。『犠牲のシステム 福島・沖縄』(高橋哲哉、集英社新書)を読んで、その思いを強くした。沖縄と福島に通底するもの、それは同じ「犠牲のシステム」だと、高橋さんは言う。そのシステムが、沖縄で微妙な動きをした。

 12日投票が行われた宜野湾市長選で、基地絶対反対を訴えた伊波洋一さんが敗れた。当選した佐喜真淳さんは、基地問題よりも経済や雇用を前面に出しての選挙戦。結果は、経済というシステムを選択する、という佐喜真さんの主張の浸透だろう。「犠牲のシステム」と「経済のシステム」の、ほんとうはあってはならない戦い。本来ならば、犠牲のシステムをなくした後に立ち上げるべき経済のシステムが、何かを覆い隠す手段として使われたのか。

 かつての、大田昌秀知事が敗れた知事選挙、前回の仲井真知事と伊波洋一前宜野湾市長の一騎打ちとなった知事選挙、みな構図は同じだった。その結果について、何かを言う資格は僕にはない。けれど、なんとも切ないのだ…。

 原発を考えても、いつも僕の頭は堂々巡り。

 福島第一原発2号機の温度上昇が止まらない。「冷温停止“状態”」など、いったい何を根拠にしたものだったのか。それでも野田首相は例の「収束宣言」を取り消さない。いや、野田首相の頭からは、もうほとんど原発のことなんか消えちまったみたいだ。あるのは、虚仮の一念の消費増税とTPPのみ。だから、政界の原発推進利権派が頭をもたげて「再稼働」に蠢けば、野田首相は何のためらいもなく乗っちまう。

 東電はいつもの東電。「温度計が故障している」と言い出した。信じろというのか、それを。これまで東電が、どれだけ情報を隠蔽し、データを改竄し、ウソをつき続けてきたかを考えれば、うかうか信じるわけにはいかない。この温度計が故障しているとして、では他の温度計は正常といえるのか。

 大飯原発のストレステストについて、経産省原子力安全・保安院(この名称を書くたびに腹が立つ!)は13日、「再稼働に必要な安全評価は妥当」とする審査結果をまとめ、それを原子力安全委員会(この名称にも、ふざけるな! と言いたい)に報告した。もはや、国民の誰もが知っている、超有名なデキレース。安全委の斑目春樹委員長が「再稼働問題なし」と審査書を“確認”し、政府に“大飯原発の安全性”を報告するという段取りだろう。そんな段取り、やらなくたって分かるし、やる必要もない。結果は決まっているのだから。

 保安院も安全委も電力会社も、声をそろえての「原発の安全性」の大合唱。しかし、そんな“安全な原発”は存在しうるのか?

 確かに、存在する可能性はあるだろう。ただし、それには大前提、絶対に覆してはならない前提が必要だ。それは“完全無欠な人間”が運転するならば、という前提である。

 たとえどんなに安全な原発ができたとしても、それを動かすのは人間以外にはいない。「サルでもわかる○○」という言い方がかつて流行ったことがあるけれど、どんなに精密安全な原発ができたとしても、それをサルに運転させるわけにはいかない。動かすのは人間だ。

 人間は間違いを犯す。いかに優れた人間であっても、生涯間違いを犯したことのない者などいるわけがない。もしいるとすれば、それはもはや人間ではない、神である。

 神が原発を運転するのであれば、“安全な原発”も存在しうるだろう。だが、運転者が神ならぬ人間である以上、そんな安全な原発など“絶対に”存在しない。神が考えたって、そうなる。

 僕のパソコンは、最近たびたび動かなくなる。耐用年数が近づいているのかもしれない。こんな小さなコンピュータがスタックする。膨大なコンピュータで制御している原発が、どうして無傷でいられるか。

 神は無謬である。だから神なのだ。

 過ちだらけの人間くさい神も、ギリシャ神話や八百万の日本の神々のお話には出てくるけれど、唯一絶対の神は絶対に過ちは犯さないのだ。だが、そんな唯一絶対神でも、世界中の437基もの数の原発をすべて監督するには手が足りないだろう。やっぱり人間が原発を運転するしかない。だから事故は起きる。いや、事故以前に、原発自体の設計や管理にすらミスが頻発する。こんな小さな記事(朝日新聞2月14日)に証拠がある。
 経済産業省原子力安全・保安院は13日、日本原子力発電に対し、廃炉作業中の東海原発(茨城県東海村)の廃炉計画申請書で過去にあったデータ入力ミス問題の再調査を文書で指示した。同社が再発防止の最終報告を出した後、また誤りが見つかったという。3月13日までに報告を求める。

 日本原電が2006年に申請した内容の誤りが10年にわかり、同社は原因調査と再発防止の最終報告書を昨年9月にまとめた。ところが保安院が確認したところ、放射性物質などに関するデータに誤りが多数見つかった。
 笑える話だが、よく考えればとても笑えない。つまり、何度繰り返してもデータに誤りがある、というのだ。推進バリバリの保安院でさえ見過ごすことのできないほど大量のデータの誤りが出てくる。それが実は、原発管理の実態なのだ。

 廃炉にすることさえままならぬ。これが運転中の原発なら、一体どういうことになるか。ま、「運転に支障はない」とか「一時停止したが事故ではない」とか「小さな事故だが放射性物質の放出はない」とか「少量の放射性物質の漏洩はあったが人体に影響はない」とかなんとかかんとか、保安院も電力会社も言い張るに決まっている。人体への影響は、5年後か10年後か、それは誰にも分からない…。

 だから僕は、何度でも繰り返し主張するのだ。「安全な原発」など、この世には絶対に存在しない、と。

 どんなに「精密で安全な原発」と思われるものを設計図上で組み立てたとしても、前記の記事のように、ミスは際限なく起きる。コンピュータによるデータにすでに誤りがある上に、それを動かすのが人間である。人間にミスはつきものだ。自動車だって飛行機だって、普通の工場の機械だって、どんなに安全に作り上げていたとしても、動かすのが人間である限り、事故は免れない。

 データのミスに人間のミスが重なれば、事故が起きないほうが不思議なのだ。何度も何度も原発は事故を起こし続けてきた。それが大事故に至らなかったのは、単なる偶然の幸運でしかなかったのだ。

 今回の福島事故の初期対応でも、さまざまな人間の判断ミスや過誤操作がさんざん指摘されてきたではないか。まだ分からないのか。

 国家戦略室というご大層な名前のもとに、原発の「コスト等検討委員会」なる会がある。原発にかかるコストが妥当かどうかを検討することになっている委員会だ。ここで、原発の過酷事故(シビアアクシデント)が、いったい何年に一度起こるかが議論となった。山名元・京大原子炉実験所教授(あの小出裕章助教の直属の上司だ)は「事故は数万年に一度しか起こらないのだから、事故損害賠償額を原発コストに含めてはならない」と強硬に主張したという。

 シビアアクシデントが数万年に一度? 冗談も過ぎれば笑えなくなる。1979年スリーマイル島原発事故、1986年チェルノブイリ原発事故、そして2011年福島原発事故…。世界初の原発が運転を開始したのは、1954年のソ連オブニンスク原発である。原発がこの世で動き始めてから、まだたった57年しか経っていないのだ。つまり、世界規模で見れば、20年足らずで1度、原発の重大事故は起きている勘定になる。

 こんなものの、いったいどこが安全か。

 僕は、原発というシステム自体、絶対危険物だと考えている。それでも安全だと言い張る人がいるのなら、生涯まったく1度も過ちを犯したことのない人間を、どうか僕の目の前に連れてきてほしい。

 その人は、生まれてこのかた、ひとつのミスもなく、病気もせず(運転中に気を失ったりしたら大変だし)、完全無欠の運転マニュアルを完璧に理解し、感情に左右されず、原発の全てに精通した人でなければならない。そんな“神のような人間”が僕の目の前に現れたなら、僕は“安全な原発”を認めてもいいよ。

 さまざまな試みが続いている。

 僕は2月11日、東京・代々木公園で行われた「さようなら原発1千万人アクション」に参加した。多種多様な人たちが集まっていた。だから、面白い旗やプラカードもたくさんあった。今回の「散歩写真」は番外編、デモ参加の旗やプラカードの数々。

 2月13日、都内で文化人類学者の明大教授・中沢新一さんが代表を務める「グリーンアクティブ」が、ようやく立ち上げ記者会見を行った。発起人は、中沢さんのほか、いとうせいこうさん、マエキタミヤコさん、宮台真司さん。僕もなぜか、賛同人のひとりとして参加した。

 2月12日の毎日新聞に、この「グリーンアクティブ」の賛同者の方々の名前入りの全面広告が出たから、それを見ればどんな人たちが集まっているかが分かる。

 さまざまな考え方の各個人が、それぞれの場所で、それぞれの考え方で、自由に動く。それらの緩やかな連帯の場所として「グリーンアクティブ」が存在する、という考え方に、僕は賛同した。原発に対してNOを突きつける。原発は、造らない、動かさない、輸出しない。僕はとりあえず、それだけで連帯していこうと思っている。

 大きなうねりの中の、ひとつの動きだ。

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