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シリア問題に見る政治指導体制

「アラブの春」といわれる政治変動で、チュニジアのベンアリ氏、エジプトのムバーラク氏、リビアのカダフィ氏、イエメンのサーレハ氏は、自国の多数の市民から政治指導者として「No」を突き付けられ、退陣した。そして、シリアのバッシャール・アサド大統領がそのリストに加わろうとしている。さらに、バーレーンやイランでも政治指導者への厳しい評価が再び表面化している。
中東地域で政治指導者の権威が急速に失墜している今、改めて同地域の政治指導者の「権力資源」について考えてみた。

政治指導者を分析するには、政治心理学のように個人の人格的要素に着目する方法や、その指導者がどのような特性をもつ社会空間で社会化されたかに着目する方法もある。後者の場合は、法、制度、慣習などと指導者の関係性を重視するため社会心理学の知識も必要になる。ここでは、そのような学術的分析というより、アサド大統領と既に退任したベンアリ、ムバーラク、カザフィ、サーレハの4氏とを権力資源の観点から比較することで、中東の政治指導者について考えてみたい。

第1は、血の「正統性」の観点である。
中東の場合、預言者ムハンマドの一族との血のつながりは一つの権威となる。アサド大統領を含めた5人の政治指導者は「血の正統性」に関する権威はない。この正統性を有する政治指導者は、ヨルダンの国王とモロッコの国王である。

第2は、民主的な手続き(複数政党制のもとでの公正な選挙)における「正当性」はどうだろうか。
この点では5人とも合格基準にはなく、「独裁制」といえる政治体制である。

第3は、制度面で、軍、官僚、政治組織との関係はどうだろうか。
軍は政治指導者の権力資源である。軍・治安関係の中枢を親族、地縁者で固めるか、国家システムの中でエリートとして利益を多く得ている忠誠を誓った者で固めるかに大別できる。後者の例がエジプトのムバーラク政権であった。リビアやイエメンでは、親族を軍の要職において、軍内部で親族以外の優秀で能力ある人材、つまり対抗勢力になりそうな人材が出てこないよう人材管理をしていた。シリアのバッシャール・アサド大統領も、弟のマーヘル・アサド氏を共和国防衛隊司令官に据え、父方従兄弟のドゥルヒマ・シャリシュを大統領治安部隊責任者に置くなど、親族で周囲を固めている。
その軍であるが、2003年のイラクのサッダーム政権崩壊時や、チュニジア、エジプトでの政権崩壊において予想以上に政権を支えなかった。リビアでも反体制派がNATO軍の支援を受けるようになると、軍からの離反者が次々に現れた。中東諸国の軍部の中には、国家への忠誠心よりも雇用主としての政治指導者およびその関係者と良好な人間関係を保つことで自らの地位を保持しようとする軍幹部たちがいる。政治指導者と、親族以外の軍関係者は相互に、もはや自らの役立たないと見るや簡単に見放す関係にあると言える。
官僚と政治組織も、アサド大統領を含む5人の指導者にとっては権力資源である。しかし、これらも軍と同じで、政治指導者たちは権力を掌握した後、「自らに代わる人物はいない」と国民に思われるよう、党員や官僚の力を弱め権力の集中をはかろうとしてきた。したがって、政治指導者の地位が揺らげば、党員や官僚は指導者を支えることはしない。

権力資源として正統性も正当性も持たない5人の政治指導者に共通に言えることは、自らの地位を保持するには制度面の権力資源を重視せざるを得ない。しかし、制度面の権力資源は、自らを超える人物がその中から現れる可能性がある両刃の刃である。したがって、自分の存在の唯一性を高めるよう、この制度を上手く運営していかねばならなかった。

4つ目の権力資源として、「恐怖ファクター」がある。
これは5人の政治指導者のみならずイラクのサッダーム・フセインにもみられた中東的社会空間の特性である。政治指導者たちは、「国民の安全」に関わる面で、対外的危機が存在し、自らがいなければその危機は乗り越えられない、とのイメージを国民が持つように演出してきた。
例えば、その危機とは、欧米の植民地主義、イスラエルとの対立、一方的な米国からの政治圧力、武装イスラム過激派の脅威などである。これらの危機を強調して国民に現在の指導者がいなくなると大変なことが起きるという恐怖感を煽るのである。
また、それ以外にも、治安機関や情報機関を駆使して「監視国家」をつくりあげ、恐怖で国民を自縛させるという方法も取られている。

こうしてみると、シリアのバッシャール・アサド大統領も、他の4人の指導者と同じ権力資源を使い自らの地位を保持してきたと言える。
ただ、アサド大統領が他の4人と異なるのは、若く、欧米での教育と生活経験があり、夫人も開明的人物だと見られていた点である。この点に鑑み、国際社会は、バッシャール・アサド大統領が伝統的な権力資源の運用を放棄して、合理的改革に着手するだろうとの期待感を持ち続けてきた。
しかし、仮に、バッシャール・アサド大統領がそれを望んだとしても、アサド家とその親族、さらにそれを支える人々という固い構造の中で、古い権力資源の運用を続けざるを得なかったというのが実情ではないだろうか。特に軍・治安関係、情報関係機関の要職を親族で固めているシリアでは、この構造は強固なものとなっている。

したがって、シリア情勢は、今後も外部からの強い圧力がかからない限り、アサド大統領が政策変更をすることはないだろう。一方、危機が国外ではなく国内にあったことに気が付き、恐怖を乗り越えた市民が、アサド政権に対する抗議活動を止めることは、よほどの出来事が起きない限りないだろう。例えば、イスラエル・イラン間で武力衝突が起きた場合、シリアへの飛び火の仕方によっては、シリア国内は反イスラエルで再結集される可能性がある。しかし、こうしたことが起こる蓋然性はあまり高くない。
したがって、シリア情勢はアサド政権と市民の対立が続く限り犠牲者が増え続けることになる。
それを食い止めるために、国際社会は「シリア国民評議会」を公式に承認し、同評議会への(あらゆる)支援を行うという外部圧力をかけられるか、が今後の注目点である。

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