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ライブ動員10倍 笑いにおける笑えない現実を笑いに叩きつけるAマッソの「怒気」

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BLOGOS編集部

7月、下北沢・本多劇場でAマッソの単独ライブ「おんちょいな」が開催された。公演2か月前、前売開始後の早い時期に2公演のチケットすべてソールドアウトという情報に接したとき、正直驚いた。

Aマッソは昨年あたりからテレビ露出が徐々に増えてきているとはいえ、軸足となるキー局テレビないしラジオのレギュラーを持つには至っておらず、知名度にはまだまだムラを残している。あまたいる注目の若手芸人の内の一組、というポジション…が妥当だ。そんな若手芸人が単独ライブで本多劇場(キャパ386席)を2日間埋めるのは、たやすいことではない。

それに、2年前の2016年、新宿バティオスで開催された単独ライブ(1公演)の観客は約80名だった。それが昨年の単独(渋谷ユーロライブ)を挟んで、今年は2年前の約10倍…。Aマッソの笑いは着実に、いや、着実以上にファンを増やしているようだ。

笑いの量(手数)より質(インパクト)

Aマッソは2010年結成。加納愛子と村上愛の女性コンビで、2018年8月現在で加納が29歳、村上が30歳。ふたりは小学5年生で出会った同級生同士である。ネタは加納が作っている。

自分がこのふたりを初めて見たのは、2015年夏に放送された「爆笑ファクトリーハウス 笑けずり」(NHK‐BS)だった。若手芸人たちが合宿生活を送りながら、次々に出される課題で新ネタを創作し、生き残りと脱落を競う短期特番だった。Aマッソは当時結成5年。第一回放送で以下の漫才を披露した。
< 「爆笑ファクトリーハウス 笑けずり」(NHK-BS)2015年8月14日放送 >

村上「こないだ先輩に誘われて、コンパ行ってきてんけど」
加納「あ、そう」
村上「相手が全員大工さんや」
加納「大工さんな、かっこええな」
村上「もう無口で全然しゃべれへんから、盛り上がれへんかったんや」
加納「なるほどな、ああいう、手に職持ってる職人さんはそんなベラベラしゃべらん」
村上「そういうもん?」
加納「そうそうそう、実は私にもな、庭師の友だちが三人おってな」
村上「交友関係爆笑やな」
加納「で、先週もな金土日とそれぞれ一人ひとりとお茶する機会あったやんか」
村上「休日の使い方アホやな」
加納「ほんでな、まあ、話を聞いてきたんや」
村上「ああそうかいな」
加納「一人目はな、松の木を切らせたら右に出るもんはおらんと言うてる男でな、丹念に時間をかけて丸みを作るのが俺の誇りやと。そいつに言うたん。『おまえ松の木もええけど、彼女ちゃんと大事にしてる?』、そしたらまさしくこないだや、あんな、松の木切ってるときに、夢中で、彼女そばに立ってるの気づかんかった。それで切った木の枝が彼女の頭の上に落ちて、怒って帰ってもうたがな」
村上「へええ」
加納「で、二人目はな、屋敷のお抱えになってる男でな、そいつに会うたら、『今の仕事はなんや?』 と。『今は玄関までの石畳に沿って、年に四回季節の花を植えるのが俺の仕事や』と。そいつに言うたん。おまえもしかして季節の移り変わり楽しくて仕方ないちゃんうけ? そしたらそいつ、『なんでわかったんや、俺はな、花いじってたら酒女ギャンブル全部かすむ』」
村上「うん」
加納「…三人目はな、ミスター枯山水」
村上「……」
加納「そいつはな、今や神社仏閣だけやなくて、現代的な建物にも枯山水を取り入れようとしたんや、そいつに言うたん。『おまえ一体どこに向かってんねん。そしたらそいつ、『よう聞いてくれた、俺はな一つの枯山水で人生すべてを現すのが夢なんや』って。そうやって息巻いたわ」
村上「……」
加納「この話聞いてどう思う?」
村上「インタビューうまいねん!インタビューが!!どんだけ話を引き出すねん、おい!」
加納「…あの、六姉妹と」
村上「ああ、もうええ、もうもうええ」
加納「ありがとうございました」
2分弱の漫才。延々とフリをためて、最後に思いも寄らない角度でツッコむ。見終えて妙な感じに包まれた。新しい人が新しい笑いを放っている。その笑いにはすぐに飲み込めないもの、咀嚼できないものがあって、口の中に残った。そして、Aマッソという名を記憶した。

で、なんなんだ、今の漫才は…。フリとなる庭師との会話を続けている間は笑いを寄せつけず、いったい何をどうしたいのかという不安を膨らませていく。だが、最後のツッコミですべてを引き受ける。潔い。潔いがハマらなければとんだ怪我を負う勇気を要する構成だ。

笑いの量(手数)より質(インパクト)を是としている。そして「庭師」「季節の移り変わり楽しくて仕方ない」「枯山水」「インタビュー」…フレーズのセレクトにことごとく推敲が見える。狭い道を行くものだ…。なにしろ庭師だ。庭師という言葉は普通、漫才の題材に選ばれない。題材が狭くて伝わりづらく、笑いまでの距離が遠くなる。

だが、庭師という言葉が帯びるアナログなニュアンスを20代の女性が口にする違和感。その可笑しみはある。あることはあるが、その違和感がもたらすクスクスとした可笑しみだけでは漫才を運ぶ力にはならない。

あくまで勝手な推測だが、Aマッソはネタ作りのプロセスで、この「庭師」というフレーズの妙味に吸い寄せられた後に、いかにして笑いを引き出すか、その手立てを探る中で、「庭師そのもの」をいじる笑いを「既視」と位置づけて消し、さらにその先にあった「庭師との会話を掘り下げる人物」という「未視」を探し当てた…ということか。

これを、笑いのフォーマットのようなものに当てはめたとしたら、視点をずらしたボケ、「そっちかい!」的な括りになることはなるが、それは後付けだ。

この「友だちが庭師」という漫才から伝わってきたコアな引力は、「そこに踏み込むのか」という「未視」への志向だ。どこかで誰かが触れたものでない何かへの志向もしくは渇望。それがAマッソのテレビ全国区初出演でのネタだった。俯瞰してAマッソ、「(笑いに)取り憑かれてる」と思った。

リスペクトする芸人は笑い飯

ちなみにこの「笑けずり」という番組内で触れられていたが、Aマッソが最もリスペクトする芸人は笑い飯だという。彼女たちが笑いに「取り憑かれてる」とすれば、そこがルーツだ。笑い飯がM-1グランプリで傑作「鳥人」を披露したのが2009年だった。その翌春、Aマッソは21歳の時にコンビを結成している。加納と村上、ふたりの背中を最後に押したのは「鳥人」だったのかもしれない。

そしてAマッソは、この番組で幾つかのネタを創作披露し、その端々に目を見張る発想力を見せ、最終的に全9組中2位という結果を得た(優勝はザ・パーフェクト)。

このときAマッソには、独特のセンスを随所に感じながら、それを表現するスキルの未成熟も同時に感じた。当時芸歴は5年、お笑いコンビとしてまだこれからであり、センスとスキルがアンバランスなのは仕方ないことだ。あとは場数と経験が、そこに折り合いをつけていくだろうと感じた。

そうして、Aマッソがこれからどんな道を進み、どんな笑いをつむいでいくのか、その行方が気にかかるようになった。2016年を経て、2017年あたりからか、メディアでその名が挙がる機会が増え始めるようになった。

3月 「AマッソのオールナイトニッポンR」(ニッポン放送)
4月 「バクモン学園」(テレビ朝日)
6月 「笑福亭鶴瓶 日曜日のそれ」(ニッポン放送)
12月「M-1グランプリ2017敗者復活戦」(テレビ朝日)

深夜帯のテレビで見かける若手芸人枠に、次第に収まるようになっていった。しかし、ネタ以外の機会で横並ぶ珍獣たちを掻き分け、テレビ的な存在感を示す飛び道具は持ちあわせていなかった。

その中で光明を感じたのは、「爆笑問題カーボーイ」(TBSラジオ)か。2017年12月13日放送で加納が尼神インター渚とゲスト出演し、「女ツッコミ芸人No.1決定戦THE T」という企画で長文のボケメールにその場でツッコミを入れる対決を展開した。

これは加納の笑いの語彙を存分に引き出す好企画だった。爆笑問題・太田光も(「バクモン学園」からか)Aマッソのセンスに着目している一人だ。(なお、この企画を機に加納と渚は、2018年3月から不定期のトークライブ「本能、類は友をしばく」を始めている)。

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