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"ドロドロよりサラサラ"カレー革命の真実

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「スパイスカレー」ブームはいかにして成立したか

一方、東京では、2010年に、二人のカレーの大物が、奇しくも時を同じくして“スパイカレー”と銘打ったレシピ本を上梓しています。

元東京カリ~番長・水野仁輔さんと、南インド料理教室を主宰する渡辺玲さんです。冒頭に戻りますが、スパイスが入るのが当たり前のカレーに、二人があえてスパイスカレーと名付けたのはこれまでのルウカレーと差別化するため。スパイスカレーという言葉はこのときが初出ではないかと言われています。

さらに、もともと、東京の湯島「デリー」、原宿「BLAKES(元GHEE)」、新橋「ザ・カリ」など、都内のカレーの名店は古くからスパイシーなサラサラカレーを供していました。

また、それとは別の文脈で、2000年代初頭には、京橋「ダバ インディア」を筆頭に南インド料理が本格上陸。南インドといえば、サラサラカレーの故郷。思えば、この頃から、外で食べるカレーは、小麦粉入りで粘度のあるルウよりもサラサラカレーが主流になっていったのではと思います。

こうして、東京では、老舗のスパイスを効かせたカレーに加え、本国の味そのままのスパイシーな現地カレー、大阪インスパイアのフリースタイルのカレー、さらにはその中間を行くバランスのカレーなど、多層なカレーが楽しめるようになりました。

“スパイスカレー”が東京で満開の花を咲かせている

そして、満を持して2018年。

東京では、この広義な意味での“スパイスカレー”が満開の花を咲かせようとしています。スパイスカレー(ここでは日本人シェフのものに限定します)の特徴を一言でいえば、何より「店主の個性」に尽きるかと思います。

店の味というより、人の味。店主その人を表現するかのように、しみじみとした滋味にあふれた母のようなカレーもあれば、やんちゃな男の子のようなカレーも、研ぎ澄まされた洗練のカレーもあります。そして、その時々で、メニューも味わいも変化します。

こうした次世代のカレー店主たちが歩んだ、それぞれのカレーロードも十人十色です。日本のインド料理店やカレー店で修行した人、本場インドやスリランカで学んだ人、カレーの学校に通いながら独自に研鑽を積んだ人、もともとは他分野の料理人で追ってスパイス道を極めた人、旅人だった人……。

道程こそ違いますが、日本という風土の中で、日本に住む私たちが(あるいは店主その人が)、今、本当に食べたいカレーってなんだろうと真剣に模索していることは共通しているように思います。

日本の大地で育った旬の素材とスパイスをどう結びつけるか。自分が信じるおいしい完成形を求めて、五感を駆使してスパイスを操り、独自のカレー曼荼羅を描こうと心を砕く。そんな彼らによる一皿は、これまで食べたどのカレーとも違う風味があったり、食べるほどに元気が出てきたりするような魅力があります。多くの人が“スパイスカレー”に心を奪われるゆえんでしょう。

それは、大阪に代表されるようなフリースタイルのカレーでも、現地をリスペクトしつつ、日本でその再現を試みるカレーでも、根っこのところでは変わらないように思います。

新しい挑戦を始めた愛しきカレーたち

ルウカレーはもう卒業、などと聞くと、少し寂しく思われる方もいらっしゃるでしょうか。

もちろん、わがニッポンの国民食として、時代をまたいで私たちの胃袋を温かく満たしてくれた、ルウカレーへの愛情は永遠です。

ただ、それでも、否応なしに変化する日本の気候風土や生活スタイルにおいて、いま、私たちの心と体が欲するカレーは変わりつつあるように思います。それは、例えば、フレンチのソースがより軽やかに、みずみずしい素材の味を尊重するようになったのと似ています。あるいは、日本酒が純米酒に回帰したように、ワインがより土に根ざしたナチュラルな造りへと舵を切ったように。

新しい挑戦を始めた愛しきカレーたちに、今回のdancyuではスポットライトを当ててみました。もともとカレー好きだった方も、そうでない方も、すべてのおいしいものを愛する方々にぜひお手に取っていただければと思います。

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※食の雑誌「dancyu」(9月号)では、特集「スパイスカレー 新・国民食宣言」として、いまカレー好きの人たちが夢中になっている「スパイスカレー」の全貌をご紹介しています。東京・大阪の人気店、スパイスカレーがわかるキーワード解説、ルウを卒業してつくる家スパイスカレーまで、「最新のカレー」がぎゅっと詰まった総特集。ぜひご覧ください。  

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(dancyu編集部 渡辺 菜々緒)

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