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  • 祇園
  • 2012年02月15日 06:00

日銀金融政策決定会合~コミュニケーションポリシーの変更と資産買入基金の増額

2月13-14日に日銀金融政策決定会合が開催され、以下の声明文が公表された。
金融緩和の強化について

1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下の決定を行った。
(1)中長期的に持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率として、「中長期的な物価安定の目途」を示すこととする。日本銀行としては、「中長期的な物価安定の目途」は、消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にあると判断しており、当面は1%を目途とする。
(2)当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく。ただし、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないことを条件とする。
(3)資産買入等の基金を55 兆円程度から65兆円程度に10兆円程度増額する。買入れの対象は長期国債とする(注2)。現在、資産買入等の基金の残高は43兆円程度であるため、今回の増額分と併せ、本年末までに残高は22 兆円程度増加することになる(注3)。

2.次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針については、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す」ことを決定した(全員一致(注4))。

3.わが国経済は、海外経済の減速や円高の影響などから、横ばい圏内の動きとなっている。一方、わが国の金融環境については、緩和の動きが続いている。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっている。

4.わが国経済の先行きについては、欧州債務問題の今後の展開やその帰趨、電力需給の動向や円高の影響など、引き続き不確実性が大きい。もっとも、最近では、欧州債務問題を巡る国際金融資本市場の緊張は、昨年末頃に比べると幾分和らいでいる。米国経済では、バランスシート調整の重石はあるものの、このところ改善の動きがみられている。わが国についても、内需は震災復興関連の需要もあって底堅い展開を辿っている。

5.日本銀行は、先行きの内外経済の不確実性がなお大きい中で、最近みられている前向きの動きを金融面からさらに強力に支援し、わが国経済の緩やかな回復経路への復帰をより確実なものとすることが必要と判断した。このため、今回、わが国経済のデフレ脱却と物価安定のもとでの持続的な成長の実現に向けて、日本銀行の政策姿勢をより明確化するとともに、金融緩和を一段と強化することを決定した。日本銀行としては、引き続き強力な金融緩和を推進していく。併せて、わが国経済の成長基盤強化にも、中央銀行の立場から取り組んでいく。この間、欧州債務問題がわが国の金融市場ひいては金融システムの安定を脅かすことのないよう、万全を期していく。

6.わが国経済は、現在、急速な高齢化のもとで、趨勢的な成長率の低下という長期的・構造的な課題に直面している。この課題への取り組みは、わが国経済の新たな経済成長の基礎を築いていくうえで不可欠である。デフレからの脱却は、こうした成長力強化の努力と金融面からの後押しを通じて実現されていくものである。以上を念頭に、民間企業、金融機関、そして政府、日本銀行がそれぞれの役割に即して取り組みを続けていくことが、重要である。

(注1) 「『中長期的な物価安定の目途』について」を参照。
(注2) 基金の内容等については別紙参照。
(注3) 日本銀行は、資産買入等の基金とは別に、年間21.6 兆円の長期国債の買入れを行っている。
(注4) 賛成:白川委員、山口委員、西村委員、中村委員、亀崎委員、宮尾委員、森本委員、白井委員、石田委員。 反対:なし。
政策面では、

・「中長期的な物価安定の目途」(The Price Stability Goal in the Medium to Long Term)の設定
・基金増額(長期国債のみ10兆円増)


このような政策変更を行なっている。特に注目されたのは「中長期的な物価安定の目途」であった。

■中長期的な物価安定の目途

中長期的な物価安定の「目途」というのは、英訳すれば上記のように"goal"である。これは先日のFOMCにおけるLonger-Run Goals and Policy Strategyにおけるインフレ目標(a longer-run goal for inflation)とほぼ同じ意味合いであることが分かる。白川総裁も会見で物価の目途については、「FRBの金融政策運営と近い」と述べている。これまでは「物価安定の理解」、すなわち英訳すれば"understanding of medium- to long-term price stability"であり、物価が安定している理解として、「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、中心は1%程度である」としていた。今回の「物価安定の目途」について、説明では概念的定義、時間的視野、中心的指標については「物価安定の理解」と大きく変わっているわけではないとしている。そして、物価指数の計測誤差(バイアス)、物価下落と景気悪化の悪循環への備え(のりしろ)、家計や企業が物価の安定と考える状態(国民の物価観)から検討し、現段階では、
「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にある」とある程度幅を持って示すこととした。そのうえで、「当面は1%を目途」として、金融政策運営において目指す物価上昇率を明確にした。
としており、金融政策において目指す物価上昇率を明確化(goalの明確化)することで、Fedと同様なインフレ目標の明示化を行ったと考えることが出来る。運用面において現段階の金融経済情勢において取りうる政策は、引き続き強力な金融緩和を実施していくという運営方針を示している。つまり、「物価安定の理解」の下で、ゼロ金利政策を維持していくということにコミットする時間軸政策よりも、「消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく」としており、目指すべき物価上昇率に向けて、ゼロ金利政策や基金買入などの金融緩和の実施を行うとしていることから、運用面でもやや踏み込んだ政策だといえる(追記:とはいえ、「物価安定の理解」の下でも量的緩和などを実施してきたことから、これまでも包括的な運用を行ってきている、ということではあるのだが)。

こうしたコミュニケーションポリシーの変更については、国会を中心として日銀に対する風当たりが強く、前回のFOMCを受けてFedがインフレ目標の明示化を行ったことに際し、日銀にも同様の目標を設定するように求めていたことが背景にある。そうした中で白川総裁も「金融政策にあたり国会での議論やエコノミスト、市場参加者など幅広い意見に謙虚に耳を傾けながら使命を心がけ」、「金融政策を通じ経済を支えていく姿勢を明確にもっと伝えていく努力は必要と感じた。対外的な説明も改善の余地がないか真摯に受け止めた」といった発言をおこなっており、対外的な説明を強化していくこととした、ということが言える。

■資産買入基金の増額

資産買入基金の増額については、長期国債のみを追加で10兆円増額することとした。長期国債に絞ったのは次の様な背景からだろうと思われる。短期国債の買入については、短国利回りが日銀当座預金付利である0.1%に接近し、割り込んで推移することも常態化していく中で、買入基金入札において札割れを起こす事態となり、これ以上の短国買入は難しくなっているのが現状である。またリスク性資産については、現状クレジット市場や株式市場が安定化してる中で、追加の買入に対するニーズはそれ程大きくはないといえる。そして、長期国債の購入を増加させることについては、「先行きの内外経済の不確実性がなお大きい中で、最近みられている前向きの動きを金融面からさらに強力に支援し、わが国経済の緩やかな回復経路への復帰をより確実なものとすることが必要と判断」とした。長期金利を安定的に低位に抑えることで、景気回復に向けてより強力なサポートを行なっていくといった意図があるものと思われる。一方で、市場では基金増額を予想する向きは少数派であり、サプライズとして受け止める向きが多い。このことから債券先物が一時急騰する事態となったり、円安に動いてきている。

■経済認識

経済認識については、日本経済の現状については、「横ばい圏内の動き」として基調判断は前回から変化がない。先行きのリスク点検については、「最近では、欧州債務問題を巡る国際金融資本市場の緊張は、昨年末頃に比べると幾分和らいでいる」として国際金融市場が安定化していることから見方を上方修正している。米国経済についても「バランスシート調整の重石はあるものの、このところ改善の動きがみられている」として、前回の「一部に底堅い動き」からさらに上方修正している。国内経済については「内需は震災復興関連の需要もあって底堅い展開」としたが、先日発表された10-12月GDP速報値における個人消費(前期比0.3%増)や民間設備投資(前期比1.9%増)は底堅く推移していたことが示されており、こうしたことを踏まえての判断であったものと思われる。

■政策における論点

今回の会合における決定については、Fedが政策の透明性を確保し、インフレ期待を固定化させる目的でインフレ目標の明示化に踏み切ったこと、さらには日銀においても従来の「物価安定の理解」について概念的にわかりにくく、インフレ目標を導入するべきという要請が高まったことから、今回こうした措置に打って出たものと考えられる。この点で透明性が高まり、市場に向けて明確なメッセージを発したことについてはポジティブな決定だったように思われる。しかし、デフレ脱却に向けての取り組みは、政府と日銀が足並みを揃えて行なっていくべきであるという点について異論があるわけではないが、度重なる政治的な要請に応じて緩和政策を取っていくというスタンスについては、今後さらなる政治圧力が強まった時に中央銀行の独立性及び政策の中立性をどのように確保していくか、といった点において高度な説明責任が問われるものと思われる。また、市場において「白川プット」(言い換えれば「クレクレ」)を意識させていることについて、すなわち市場追随型の政策運営に傾いているのではないか、という疑念についても十分な説明がなされるべきであろうと思われる。

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