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「思想・信条なくして政党は生まれない」―数合わせだけの政党に国民の信頼はない― - 屋山太郎

 自民党総裁選挙は安倍晋三氏と石破茂氏との一騎打ちの様相となった。安倍氏は既に議員票の7割強を押さえ勝利は確実とみられるが、石破氏も安倍政治に真っ向から異議を唱えているわけではない。憲法改正についても時期や内容に注文を付けているだけだ。

 これまでの自民党は思想的まとまりがなく、一つの思想として示すことは難しかった。常時5つか6つの派閥が存在し、それぞれが独自の要求やら公約を掲げた。政権に就きたいグループの集まりに過ぎなかった。結党の目的に「憲法改正」を挙げながら、何十年もの間、「なぜ改正が必要か」が説明されなかった。今回は9条について考え方は違うが、安倍、石破両氏とも改正を打ち出している。外交について、かつて保守党のプリンスと呼ばれた加藤紘一氏は「日米中」の正三角形外交を説いていた。東西が民主主義体制をとるか、共産主義体制をとるか、張り合っている時代に全く寝ぼけたことを言っていたのである。後に民主党が政権をとり、実際に、中国寄りに立ってみたら、米国から無視されたのは当然としても、中国からも徹底的にいびられた。

 民主党が国際情勢に無知なのに呆れたが、実は民主党も自民党同様、政権取りだけを目的とするグループだったわけだ。立憲民主党や国民民主党は一つにまとまれば政権がとれると思っているようだが、今の自民党ほど体系化した思想を披歴した政党はない。

 山崎拓元副総裁によると、自由党の小沢一郎代表が小泉純一郎元首相に、来年の参院選で野党統一候補として出馬するよう打診したが、拒否されたという。小沢氏の思惑は野党側に有力な統一候補が存在しない。小泉氏が参院選に出れば300万票以上とれると読んだらしい。参院選の比例代表で小泉氏を担いで野党統一名簿を作れば選挙区でも勝てると計算した。参院で自民党を過半数割れに追い込んで、政局の変化を狙ったようだ。

 各紙の世論調査を追ってみると、モリ・カケ問題で安倍内閣の支持率が10ポイント以上下がっても、どの野党もそれを受けて支持が上がることがない。どの野党にも国民は政権を託す気にならないのではないか。

 小沢氏の発想が小泉氏を中心に「政党」を作るというのであれば、筋が通る。しかし名前のみで政権取り集団をこしらえるのでは、総裁候補が乱立した時代の政権争いと同じだ。大臣の椅子が一つ欲しいというだけでは票は集まらない。「これをやるから当選させてくれ」と言って議員が当選する。その議員が集団でまとまってこそ政党だ。

 小沢一郎氏はかつては大自民党の幹事長だった。それが反対側に飛び出して、今は共産党との連立も厭わないという。小沢氏は体系化した思想・信条を持たない。政治は権力奪取だと思い込んでいる。思想・信条は問わないという発想であれば新しい政党は生まれない。まずは自らの思想の中身の3ヵ条ぐらいは開陳して欲しい。

(平成30年8月8日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生れ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、解説委員兼編集委員を歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。「教科書改善の会」(改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会)代表世話人。
著書に『安倍外交で日本は強くなる』『安倍晋三興国論』(海竜社)、『私の喧嘩作法』(新潮社)、『官僚亡国論』(新潮社)、『なぜ中韓になめられるのか』(扶桑社)、『立ち直れるか日本の政治』(海竜社)、『JAL再生の嘘』・『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』(PHP研究所)など多数。

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