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シャワーの回数を増やすと熱中症を防げる

記録的な猛暑で、熱中症で病院に緊急搬送される人が急増している。熱中症は一歩間違えれば死にもつながる深刻な病気だ。世界で多数の死亡者を出した過去の猛暑のデータをもとに、医学的に有効性が証明された予防策を、医師がアドバイスする――。

■熱中症による救急搬送は去年の倍

今年の暑さは尋常ではないと感じられている方が多いかと思います。普段、私は都内病院の救急部で勤務していますが、重症の熱中症患者(意識が悪くなるレベルの熱中症)が搬送されるケースは、明らかに例年より増えています。オンライン健康相談「first call」でも7月頃から、熱中症と疑われる症状の相談や、熱中症対策の質問が寄せられています。

消防庁の発表によると、4月30日から7月22日までの熱中症による救急搬送人数は、昨年の約2万6000人から、今年の約4万5000人と、約1.7倍に増えています。東京の搬送人数は、2017年の約2倍です(2017年 1842人→2018年 3502人)(*1)。

iStock.com/yogenyogeny

そこで今回は、過去に猛暑となった他の都市を参考に、この夏を乗り切る方法を考えたいと思います。過去には、今年の日本のように例年とは明らかに異なる猛暑を経験した都市があります。

例えば、2003年のヨーロッパの猛暑は近年まれにみるものでした。ヨーロッパ全体で、例年よりも2万2000人から4万5000人多い死者が猛暑により出てしまったとされます(*2, *3)。フランスでは、9日間で1万4800人が亡くなり、うち3分の1は熱中症による死者でした(*4)。また、1999年のシカゴでも、同様に多くの死者が出ています。

そのような歴史から、熱中症の発症リスク・予防方法の効果が検証されています。この記事では、特に2つの重要なデータをご紹介し、普段の生活に役立てていただければと思います。

なお猛暑によって亡くなるのは、熱中症だけではありません。もともとの疾患が猛暑により増悪し、亡くなることも多いのです。今回のデータは、あくまでも熱中症だけでなく、猛暑に起因するさまざまな疾患による死亡(Heat-Related Illness)も考慮した対策である点にご注意ください。

■データ1:エアコンや扇風機の効果は?

記録的な猛暑があった1999年のシカゴ、2003年のヨーロッパなどのデータをまとめた疫学データをご紹介します(*5)。これらの猛暑の年には、多くの方が亡くなっていますが、猛暑が訪れる前に「自宅にエアコンがある人と、ない人ではどれくらい死亡リスクが異なるか」を調査しました。すると、次のような結果になりました(図1)。

・エアコンが自宅にある人は、ない人に比べ死亡リスクが77%下がる。
・自宅以外のエアコンが効いている場所に行っていれば、そうでない人より死亡リスクが66%下がる。
・扇風機があると、ない人より死亡リスクが40%下がる。

これから得られる教訓は、以下のとおりです。

・自宅でのエアコン使用はもちろん、屋外での活動ではエアコンの効いた場所に立ち寄る。
・扇風機も効果的だが、エアコンのほうがより効果が高い。


■シャワーを浴びると死亡リスクが3分の1に

さらに面白いのは、シャワーの効果です。図2は、普段よりシャワーの回数を多くした場合と、そうでない場合とで死亡リスクの違いを示したものです。


普段よりもシャワーの回数を増やした人は、普段どおりの回数浴びた人よりも死亡リスクが68%下がっています。これは、エアコンにひけをとらない効果です。実は、救急現場で重症の熱中症(意識がなくなってしまうなどの場合)が搬送された場合に、われわれ救急医の多くが行うのは、「クーラーで冷やした室内で、霧吹きで体を濡らし、扇風機をかける」という方法です。重症の場合には患者さんは動けないのでこうしていますが、体が元気なうちの予防法としては、シャワーは非常に有効だといえます。

これは、水分が蒸発する際に熱を体から取り除く「放散」を助長するからです。人間が暑いときに汗をかくのは、この「放散」により熱を体から放出するメリットがあるためであり、シャワーはそれを人為的に行えるという効果があります。なお、冷たい水をかけるのは、若い方やアスリートなどではOKですが、高齢の方や心疾患などの持病を抱えていらっしゃる方は、ぬるま湯くらいが良いでしょう。(*6)

■データ2:熱中症の隠れたリスク:一人暮らしの危険


次にご紹介するデータは、「一人暮らしのリスク」です。「熱中症と関係があるの?」と思われる方が多いかもしれませんが、一人暮らしは熱中症などの大きなリスクです。実際、重症熱中症で搬送される方には、一人暮らしの高齢者が多くみられます。図3は、一人暮らしの人と、そうでない人が猛暑の際に死亡するリスクを比較したものです。一人暮らしの場合、そうでない場合に比べ、死亡するリスクが約2倍高いことが示されています。

体調が悪くなりそうなときに、「支えてくれる人が周りにいるかどうかで、重症度が変わる」ということを、このデータは物語っています。

では、一人暮らしによる死亡のリスクを下げる方法はあるのでしょうか? その答えは、連絡を多くとるというシンプルな方法です(図4)。社会的な交流を増やした人は、そうでない人に比べて、死亡リスクが60%低下しました。

もし、この記事の読者の方で、ご両親や友人で一人暮らしの方がいたら、ぜひメールや電話だけで構いませんので、連絡をとってみてください。その連絡が、相手を猛暑から守ることにつながります。

このように、過去の猛暑から得られた教訓を、データでお伝えしてきました。これまでの内容をまとめると、

・エアコンや扇風機だけでなく、シャワーも効果的
・実家で住まう両親など、一人暮らしの方には頻繁に連絡を

ということになります。

その他、環境省や厚生労働省、救急医学会などが、公式サイトで多くの情報を発信していますので、ご活用いただければと思います。

環境省ウェブサイト:http://www.wbgt.env.go.jp/

厚生労働省ウェブサイト:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/index.html

救急医学会「熱中症予防に関する緊急提言」:http://www.jaam.jp/html/info/2018/pdf/info-20180720.pdf

熱中症は、生命にも関わる疾患ですが、同時にシンプルな対策で確実に予防できる疾患でもあります。正しい知識と予防法を身につけ、この夏を乗り切っていただければと思います。何か疑問があれば、オンライン健康相談「first call」でチャット相談をしていただければ、私たち医師から状況に合わせた正しいアドバイスをお伝えいたします。

※本文では、死亡オッズ比のことをわかりやすくお伝えするために「死亡リスク」としてご紹介しています。疫学的に正確に述べると死亡オッズ比です。ご了承ください。

【参考文献】
*1 東京消防庁(2018)「 熱中症による救急搬送人員数(7月16日~7月22日速報値)」, http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList9_2.html(参照2018年7月25日)

*2 Kosatsky T.“The 2003 European heat waves.”Euro Surveill. 2005;10(7):148-149.2.

*3 PATZ,Jonathan A.,et al."Impact of regional climate change on human health.”Nature, 2005, 438.7066: 310.

*4 Bouchama, Abderrezak,et al.“Prognostic factors in heat wave-related deaths:a meta-analysis.”Archives of internal medicine167.20(2007): 2170-2176.

*5 同上

*6 Bouchama,Abderrezak,Mohammed Dehbi,and Enrique Chaves-Carballo.“Cooling and hemodynamic management in heatstroke:practical recommendations.”Critical Care 11.3 (2007):R54.

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石川 陽平(いしかわ・ようへい)
オンライン健康相談「first call」相談医
医師/聖路加国際病院救急部/東京慈恵会医科大学分子疫学研究部。2007年東京慈恵会医科大学入学後、世界保健機関(WHO)ジュネーブ本部インターンなどの経験を経て、13年より聖路加国際病院に入職。14年度、聖路加国際病院ベストレジデント。現在は、聖路加国際病院・救急部医師として臨床に従事する一方、東京慈恵会医科大学分子疫学研究部にて研究を行う。15年にMediplat(現メドピアグループ)の設立に参画し、オンライン健康相談サービス「first call」の企画・運営も行っている。

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(オンライン健康相談「first call」相談医 石川 陽平 写真=iStock.com)

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