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サマータイム"70年前の愚"を繰り返すな

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安倍晋三首相は、2020年東京五輪・パラリンピックの酷暑対策として、サマータイムの検討を与党自民党に指示した。夏の一定期間、時刻を1~2時間程度前倒しすることで、暑い時間帯の競技を避けることをねらう。だがIT業界や政府の事情に詳しい楠正憲氏は「サマータイムは70年前にも導入され大失敗している。デジタル化により悪影響はさらに深刻化するだろう。導入は見送るべきだ」と指摘する――。

“サマータイム反対論”を押さえこむ決め手が必要な自民党

安倍晋三首相は8月7日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗元首相と会談し、夏時間の導入について前向きな姿勢を示した。だが同日、菅義偉官房長官は記者会見で「国民の日常生活に影響が生じるものであり、大会までの期間があと2年と限られている」と消極的な姿勢を改めて示した。

サマータイムに関する議論は今になって降って湧いた話ではない。2014年10月25日付の読売新聞では森元総理の発言として「安倍首相に『2時間のサマータイムをやったらどうか』言ったら、安倍首相が『なるほど。考えてみる。役所が反対するんだ』と言っていた」と報じられている。

冒頭の安倍首相の発言は、役所としては自民党政権下の四半世紀と、さらには東日本大震災後の2011年にサマータイムを真剣に検討した上で見送った経緯があることから、役所の反対が強く内閣として推進することは容易でないと見越した上で、まずは党での議論を促したものとみられる。このまま役所に落としただけでは、これまでの議論と同様に頓挫しかねない。党としてこれまでの議論を踏まえて、反対論を押さえこめるだけの決め手を探す必要があるのではないか。

生活スタイルを変えるだけなら、他にも方法はある

政府は省エネの観点から1980年以降複数回にわたり、夏時間に関する世論調査を実施した。環境庁(当時)は1999年には「地球環境と夏時間を考える国民会議」を組織し、夏時間の呼称を公募、夏時間について理解を得るためのパンフレットも作成している。サマータイム対応のシステム改修には「2年の準備期間と1000億円が必要」という試算は、この時のものだ。


この四半世紀以上、幾度となくサマータイムの導入に向けて努力したものの、法案提出に辿り着けなかった。省エネなど効果があるとされてはいるものの、生活スタイルを変えるだけであれば他にも方法があり、情報システムの混乱や健康への影響を払拭できなかったからだ。

政府では2015年に夏に勤務時間を前倒す「夏の生活スタイル変革(ゆう活)」を展開。官公庁に導入している。サマータイムよりも緩やかに、時間そのものをいじることなく人々の生活スタイルに変化を与えようとする取り組みだが、十分に浸透しているとは言い難い。

占領期に導入された「サンマー・タイム」は大失敗だった

実は日本には夏時間を導入していた時期がある。敗戦後GHQに占領されていた1948年に内閣提出法案として夏時刻法が成立。それから4年間は「サンマー・タイム」といって時計を1時間進めた時刻が使われたが、主権回復に先立ち1952年4月11日に議員立法で廃止された。

当時は第一次産業に従事する人口が多く、もともと太陽の運行に従って仕事をしていたため、人為的に時計を早めるサンマー・タイムとは合わなかったことに加えて、民間と公務員の通勤時間が重なって朝のラッシュを悪化させ、労働時間の長期化を招いたとされている。

公正を期すならば、朝のラッシュの悪化や労働時間の長期化は夏時間よりも朝鮮戦争の勃発に伴う朝鮮特需の影響の方が大きかった可能性がある。統計を見る限り、夏時間が導入された当初の昭和23年、24年の労働時間は増えていないからだ。

サンマー・タイム廃止の理由は国民からの不人気もさることながら、逼迫していた電力事情の改善が大きかった。そういった意味で占領下のサンマー・タイムも、この四半世紀の立法努力も専ら省エネを目的として、近年では地球温暖化対策として推進されてきた。


仮に秋の臨時国会でサマータイム法が可決した場合、日本標準時システムや標準電波、政府情報システムの改修に加えて、自治体システムの改修に必要な特別交付税、民間部門の機器買い換えやシステム改修に対するサマータイム対策補助金を含めて兆単位の財源措置が必要となるのではないだろうか。

環境庁(当時)の1999年の試算では約1000億円とされてきたサマータイムへの対応費用だが、近年の情報システムやデジタル機器の浸透を踏まえて、改めて費用と社会への影響を算出する必要がある。

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