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ここが違う日本と中国(6)―『勤労』な民族

 「中華民族は世界中もっとも勤労勇敢な民族だ」

  前回のコラム(5)で国民の祝日を書いた際、この一句をふと脳裡をよぎった。

  幼いころに国語の教科書で学んだことだ。また、いろいろなで叫ばれている言葉である。面白いことに、最近このスローガンはふざけた形で「悪用」されるようなケースがインターネット上に溢れている。

  「中華民族は世界中もっとも勤労勇敢な民族だって、われわれよりもっと勤労勇敢な民族は本当にないの? どうやって調べたの?」

  「勤労だって、なぜわれわれの給料はこんなに安いの? なぜ中国は先進国のように豊かにならないの?」

  「勇敢だって、なぜわれわれは100年以上にわたり列強諸国に侵略されていたの? いまもアメリカにいじめられているんじゃないか!」

  中国でも価値観の多様化が進んでおり、特にインターネットの普及により、いままでオーソドックスな「真理」も大いに疑われ、叩かれ、なかではこのように根本的なところから覆されたものも多々ある。

  「勤労」と「勇敢」はもともと異なることだが、このスローガンは両方をくっつけている。筆者は生まれつきの小心者、冒険なども一切できない人間なので、ここでは争いや戦争などを想像させるような「勇敢」に触れず、片方の「勤労」に限って語ってみたい。

  中国語の「勤労」は日本語の「勤勉」に相当することはいうまでもない。日本語のなかにも、「勤労」という言葉がある。それは普通、「労働」という意味で使われる。例えば、「勤労者」(労働者)、「勤労階級」(労働者階級)、「勤労所得」(労働所得)、「勤労学生」(アルバイトする学生)など。また、前回のコラム(5)で書いたように、日本には、「勤労感謝の日」という休日がある。

  1948年に公布・施行された「国民の祝日に関する法律」で「新嘗祭」を改称されたもので、今日まですでに60年以上が経った。毎年の11月23日は、全国的な休日となる。「勤労に感謝する」という言葉の響きは実にいい。

  ところで、謙遜を美徳する国民性か、筆者は来日23年間、「われわれは世界中もっとも勤労勇敢な民族だ」といった勇ましい言葉やスローガンを見たことがない。それにしても、日本人は世界一勤勉であるという認識は筆者がずっと持っている。

  多くの日本人は定年退職後もばりばり働く。高齢者の就業率は欧米諸国より高い。一方、中国では農業従事者やごく一部の技術者・専門家を除いて、60代に入ってもなお働き続ける人はほとんどいない。

  また、日本人の労働時間が世界一長いとされる。内閣府「平成18年版国民生活白書」によれば、日本は週当たり労働時間50時間以上の労働者の比率は28.1%と欧米先進国に比べて格段に多い。日本に次いで、ニュージーランド、アメリカ、オーストラリア、イギリスといった英語圏、アングロサクソン系の諸国で15~20%と長時間労働者比率が高くなっているが目立っている。他方、長時間労働者比率が低いことで目立っているのは、オランダ、スウェーデン、オーストリアといった諸国であり、1.5~3%ぐらいの水準となっている。その他の諸国、アイルランド、ギリシア、スペイン、フランス、ポルトガル、ドイツ、デンマーク、フィンランド、イタリア、ベルギーはほぼ5%前後となっている。

  グローバリゼーションの急速な進行が日本の製造業に大きな打撃を与え、労働環境をどんどん悪化させていることは周知のとおりである。労働環境の悪化として例を挙げるときりがないが、例えば賃金の引き下げ、実労働時間の延長、サービス残業の拡大、正規雇用から非正規雇用へのシフト等々。正社員でも決して安泰ではなく、長時間労働を強いられ、なかでは過労死の件数が増加の一途である。

  厚生労働省「平成23年版労働経済の分析―世代ごとにみた働き方と雇用管理の動向―」を見てもわかるように、近年の経済動向に伴い所定外労働時間は増加に転じ、総実労働時間は4年ぶりに増加した。

  勤勉で真面目な国民性は日本の発展を可能にしてきた。一方、長時間労働、働き過ぎは労働者の身体と生活を破壊し、過労死をもたらすといった負の側面も存在する。

  ところで、日本人の真面目さや勤勉さとよく比較されるのがドイツ人である。なぜなら、ヨーロッパ人のなかでドイツ人はもっとも真面目で几帳面、よく働くという評判があるからだ。

  筆者はドイツにはまだ行ったことがないが、数年前、中央ヨーロッパへの家族旅行で、ドイツのフランクフルト空港を経由したことがある。その際のある出来事は今でも鮮明に目に焼き付いている。それは、入国手続きを担当する男女二人はなんと世間話(もっと正確にいえば、談笑)しながら仕事をしていたことだ。「日本では絶対ありえない」と唖然。と同時に、日本人は間違いなく世界一真面目な民族だと改めて確信した。

  空港の話になると、中国のことも触れなければならない。中国の「玄関」「顔」とされる空港は改革開放の最前線に立っており、資本主義文明の風を真っ先に受けているはずだ。にもかかわらず、そこの職員の資質は決して高いとはいえない。特に腹立たしいのは上海浦東国際空港。入国手続きの窓口では職員の笑顔を一度も見たことがない。出国のセキュリティーチェックを担当する者のなか、いちゃつきふざけるような若い男女は何度も見かけた。目を背けるほど品のない振る舞いだった。

  職場でマナー教育などはちゃんと行われていないのか。内部事情に詳しい人の話によれば、空港のような人気の高い職場では多くの職員が政府官僚の縁故者で、その両親や親戚はもしかして空港管理者の上司であるかもしれない。だから、まともなマナー教育や厳しい紀律を実施することはなかなか難しい。

  マナーや素質が悪いという問題だけではない。真面目に働くことができないこともよく見受けられる。飛行機の便が空港に到着すると、地上サービスを担うすべての部署がきちんと機能しなければならない。そこで働く職員にも高い責任感と高度な集中力が求められる。例えば、出口でチェックポイントを設けて、荷物は本人のものであるかどうかをチェックするのは中国空港の一般的なやりかただ。ところが、そのチェックポイントには、最後まで持ち場にいる職員はほとんどいない。

  また、日本の空港では出口で荷物検査、主に課税物品の申告、拳銃や麻薬などの取り締まりを行っており、場合によって荷物を開けて調べる。一方、中国では空港から出るとき、基本的に荷物を機械に通すだけ、職員が利用客に質問したり荷物を直接確かめたりすることはまったくない。極端な話だが、関税品がいっぱい持っていても、機械に反応さえしなければ、関税は一銭も払わなくて済む。

  中国では、すべてではないが、大抵、給料の高いところは仕事が楽だ、または仕事の楽なところは給料が高い。政府機関の公務員はもっとも典型的な例である。空港も中に入っているといえる。一見不思議に見える現象だが、中国ではむしろ一般的である。公務員は国民からの制約を受けず、給料は百パーセントを財政で賄われており、しかも公務員の給料は公務員で決める。空港は今も政府の直営で、独占体制で競争を排除している。中国は発展途上国なのに、空港内のサービス料金、航空運賃、利用料など、いずれも非常に高い。

  独占体制は不公平をもたらすだけでなく、怠け者を生み増殖させるのだ。

  とはいうものの、中国人はみんな怠けているというわけでも決してない。毎日一所懸命に働く人々は非常に多い。その筆頭に挙げるのは、農村の労働者と出稼ぎ労働者、および都市部のブルーカラーだ。彼らは実によく働いており、中国の高度経済成長を支えているといっても過言ではない。一方、彼らは改革開放の恩恵をそれほど多く受けているわけでもない。低賃金、長時間労働、劣悪な職場環境、といったのは彼らの置かれている現状だ。

  中国はもともと肉体労働を見下す文化や国民性がある。「万般皆下品、唯有読書高」(ありとあらゆる物事はつまらないが、学問をすることだけは優れている)、「書中自有顔如玉」(学問を修めれば、おのずと綺麗な女性と結婚できる)といった古代の教訓はすべて頭脳労働を賛美し、肉体労働を軽蔑するような内容だった。社会主義革命の嵐が数十年間も吹き荒れていたとはいえ、中国人の血液の中に沈澱している肉体労働嫌悪の遺伝子はそう簡単に除去されるはずがなく、現代社会においてはむしろ部分的に強化された感すらある。

  中国社会科学院社会学研究所と社会科学文献出版社の発表した2011年版「社会ブルーリポート」によれば、現在さまざまな職業の中で、人気が一番高いのは医師、弁護士、記者などの専門職であり、労働者と農業従事者はもっとも敬遠されている職業である。

  同「社会ブルーリポート」は全国 286都市の小学4年生と中学2年生およびその保護者を対象に調査を実施した。自分の子どもに就いてほしい職業について聞いたところ、「医師、弁護士、記者などの専門職」を選んだ保護者が25%に上った。「科学者、エンジニア」と「教員」はいずれも15%、「政府職員」は11.6%だった。一方、「労働者、農業従事者」はわずか1.2%だった(「北京晩報」2010年12月15日付)。

  超学歴社会に猛進している中国では、労働は光栄だ、技術は重要だ、とどんなに強調しても、実際、一般労働者の地位と収入は依然として低い。(執筆者:王文亮 金城学院大学教授  編集担当:サーチナ・メディア事業部)

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