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サマータイム導入はやはりデメリットが大きい - 島澤 諭(中部圏社会経済研究所研究部長)

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(2)論点2:消費喚起効果

 サマータイムの導入によって就業時間終了後明るい時間が2時間増えることになるので、娯楽・レジャー・外食などの機会が増え、それが消費喚起につながるとされている。第一生命経済研究所首席エコノミスト永濱利廣氏「不確実性の高いサマータイム効果」(2018年8月8日)によれば、日照時間の増加が名目家計消費にプラスに影響することで約7,532億円の経済効果があるとのことである。

 しかし、少し考えれば分かることであるが、外が明るいので消費が増えるということは、外が暗い場合消費が減るということ意味している。そこで、総務省統計局「家計調査」により夏の間の家計消費額(夏1:6月から8月、夏2:7月から9月)と冬の間の家計消費額(12月から翌年2月)を比較したのが下図1である。図1によれば、夏の取り方を変えても日照時間が短いはずの冬の消費額の方が多いことが分かる。さらに、図2は夏の間の平均消費性向と冬の間の平均消費性向を比較したものである。平均消費性向とは所得からどれだけ消費に回すかを示すもので、平均消費性向が高いほど消費意欲が旺盛であることを示す。図2からも日照時間が短いはずの冬の方が消費意欲が大きいことが分かる。つまり、日照時間が増えることで消費が増えるとは結論できない。

図1 夏と冬の消費額の比較(二人以上の世帯)(出典)総務省統計局「家計調査」より筆者作成

図2 夏と冬の消費意欲の比較(勤労者世帯)(出典)総務省統計局「家計調査」より筆者作成

 仮に永濱氏の分析の通り日照時間が延びることで消費額が増えるとの主張を認めるにしても、サマータイムを導入するより冬の間だけでも2時間ほど太陽が出ている昼間に休憩を与えてショッピング等の機会を与えた方がより効果的だろう。なぜなら、永濱氏の分析は日照時間と消費の関係を示したに過ぎず、日照時間が延びるのであれば別にサマータイムに限らずとも、冬の間であってもゴールデンウィークであっても違いがないからだ。また、就業時間終了後になにか余暇活動を行うにしても、サマータイムが導入されていない場合に比べて外気温が高いので、屋内での余暇活動が伸びたとしても屋外での余暇活動が減るので結局経済効果は相殺される。

 さらに、夏の楽しみといえば、夜祭りや花火大会があるが、サマータイムが導入されれば、そうでない場合より開始時間を先送りせざるを得ないため、終わりの時間が遅くなる結果、門限や電車の時間の関係で早々に引き揚げざるを得ない人々が出てくる。穿った見方をすれば、それこそプレミアムフライデーの進化形であるシャイニングマンデーで月曜日は午前休を取りなさいということなのかもしれないが釈然としないものが残るのも事実である。

(3)論点3:企業負担の増加

 サマータイムの導入は正確には時計の針を一定時間だけ先に進めるというよりは、日本標準時に一定の時間を加えたり(開始時)、加えた時間を引いたり(終了時)する必要があるため、必然的にコンピュータプログラムの変更、サマータイム切替日における航空・鉄道等交通機関の運行ダイヤの調整、産業機械の時計の修正、一部交通信号機の調整等を惹起する。環境省「地球環境と夏時間を考える国民会議」の推計によれば、こうしたプログラム修正によるコスト負担はハードウェア改修費(610億円)とソフトウェア改修費(420億円)の総額で1,030億円と試算されている。この試算は1999年当時になされたものでありコンピューターへの依存がさらに進んだ現代ではコスト負担はもっと大きくなっている可能性が高い。

 実際、すでにサマータイムに対応済みのアメリカで2007年に省エネルギーのためサマータイムの期間を4週間延長したことに伴うシステム改修費用は3.5億ドルから10億ドルと見積もられている。しかも日本にサマータイムが導入される場合、高度にコンピューターに依存した世界第3位の経済規模を誇る社会において、世界にも例を見ない2時間の繰り上げを無数のシステムに一から施さなければならないのであり、先の環境省の費用推計は、日米の経済規模の違いや、試算の前提と今回の想定の違いなどを割り引いたとしてもいかに過少推計であるかが理解できるだろう。

 問題は企業の負担増だけにはとどまらない。もう一つの深刻な問題はたった一つのプログラムの修正がうまくいかなかっただけで全てのプログラムがストップし、経済・社会機能がマヒしてしまうことにある。世の中に存在するすべてのコンピューターやいろいろな機器に組み込まれたチップのチェックを完全に行い、しかも完璧に修正し得たことを誰が確認できるのだろうか。さらに、現時点の計画に基づいて、システムを修正するには、来年5月に控える天皇陛下の代替わりに伴う元号の変更に対応しつつ、6月のサマータイム導入に間に合わせる必要がある。これはただでさえ過剰労働気味のシステム担当者の更なる労働強化をもたらすだけであろう。なお、「システム対応への支出が増えるからGDPにはプラス」との議論もあるが、これは無駄な公共工事でもGDPが増えるというのと同じ理屈であり、詭弁に過ぎない。

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