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人事評価で社員は動くか? - 岡崎よしひろ(中小企業診断士)

政府は中央省庁の人事評価の対象項目として公文書を適正に管理しているかどうかを盛り込む案の検討に入ったと報じられています。
政府は学校法人「森友学園」問題を巡る財務省の決裁文書改ざんを受け、公文書を適正に管理しているかを中央省庁の人事評価の対象項目として昇進や給与に反映させる案の検討に入った。
政府、公文書管理で人事評価 決裁後修正は原則禁止 共同通信 2018/06/23
本稿では文書の管理、広く言えばルールの順守を人事評価の項目に加えることが働く人に望ましい行動をとってもらうための方策となりえるのか、また目的に対する方法論として望ましい方法なのかについて考えていきたいと思います。

■守るのが当然という精神論はやめよう

この種の議論をする際に、「ルールなのだから守るのが当然」といった話をされるケースがあります。

また、場合によってはルール化すらされていないことでも「常識的に守るのが当然」と言われるケースもあります。

もちろん働く人が倫理観を持って行動するのが良いことだとは思います。しかし、それに期待しすぎて組織として何の対策もとらないことは誤りです。

また、仮に働く人がみな倫理的に行動するとしてもルール化は望ましいことです。人それぞれの倫理観の基準は異なりますので、組織として望ましい水準であるかどうかが保証できません。また、望ましくない行動が可能であるという状況を放置して人の良心を試すような組織は望ましくありません。

■ルール化することは望ましいが

但し、望ましくない行動を防ぐためのルール化にもいろいろな方法が考えられます。

行動を禁じ、その行動をした場合には懲戒の対象とするといった方法から、そもそもそのような行動ができない仕組みを導入する方法。また、人事評価に組み込んで望ましい行動に向けて誘導する方法等が考えられます。

そして、今回は人事評価に組み込むと報道されています。処遇に反映させることで、組織にとって望ましくない行動を行わないようなインセンティブを与える方策を採用するということです。

そのためには公平性を担保するために、望ましくない行為を定義し、その行動を単に禁止するとともに、やっていないことをある程度証明する必要があります。

と、ここで問題が発生します。というのは、望ましくない行動がなされていないことを証明するのはとても難しいからです。

一般的に「やっていないこと」を証明するのは極めて困難です。そのため、やっていないことの証明が求められることはほとんどあり得ません。

このことから、公文書の適正な管理という人事評価項目が設けられる場合、公文書を適正に管理していない事象を監視し、その事象を検知できたら大きくマイナス評価、そうでない場合は問題なしとする形式になると考えられます。

■コストをどこまでかけるか

あとは、費用対効果の問題であり、今回のケースではどこまで監視を行うか、つまりコストをどれだけかけるかで議論となると考えられます。

完璧を期すならば、すべての文書を、決裁時点で第三者的な部署が保管し、人事評価のために、実際の公文書との突合作業を行うといった形になると思います。そして突合作業の結果、第三者的な部署が保管する文章と異なった場合には望ましくない行動がなされていたと判断します。

しかし、それをやる場合、莫大なコストが発生します。そのためある程度重要な文書は(重要かどうかの判断にもコストがかかりますが)すべて監視し、そうでない文書は一定の範囲でランダムに監視するといった対応に濃淡をつける形になると考えられます。

その場合、重要でない文章でも「監視されているかもしれない」と思わせることで心理的に強く行動をけん制することができます。そのため、当初の目的を果たすことはできると考えられます。この意味で、人事評価の項目に加えることは働く人に望ましい行動をとってもらうための方策となりえると考えます。

■目的は何なのか

しかし、そこまでやるならば決裁時点で第三者的な部署が決裁された文書を正本として管理する仕組みを作った方が、突合作業がない分だけ低コストに運用できそうです。

もしくは、すべての文書管理を電子化し、決裁後にはそもそも文書の変更ができないような仕組みを作るといったことも考えられえます。

いずれにしても人が何らかの行為をする場合は必ずコストが発生します。

そのため、公文書の決裁後の変更を防ぐことが目的ならば、人事評価に加えてけん制するのではなく、そもそも不適切な行動ができなくなるような仕組みの方が確実ですし、相対的な費用も安くなるかもしれません。

働く人に職業倫理を再度意識してほしいといった目的も持っているのならば、人事評価に盛り込むのも一つの手段であると考えられます。

そのため、目的に対する方法論として人事評価の対象にすることが望ましいかどうかについては、改めて考える必要があるのです。

本当の目的が文書の適正な管理であるならば、人事評価へ盛り込むだけでは踏み込み不足であると考えられます。

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