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15年前と変わらない東京医大の隠蔽体質

■男女別の定員数の記載は一切なかった

文部科学省の前局長の息子を不正に合格させたとして前理事長と前学長(2人とも辞職)が贈賄罪で在宅起訴された東京医科大学(東京都新宿区)が、医学部医学科の一般入試で女子の得点を一律に減点し、女子合格者数を抑えていた。

女性の社会進出が当たり前になっているいまの時代に逆行し、大学という教育機関として恥ずべき行為である。開いた口がふさがらない。

文科省によると、一般的に入試の募集要項に男女別の定員数を明記していれば、大学の責任で合格者の調整は可能だ。

しかし東京医大の募集要項には出願要件や定員数などは記載されていたものの、男女別の定員数の記載は一切なかった。受験者に対し、説明もしなかった。

東京医大の2009年度の一般入試では、受験者数に対する合格率は男子が7.9%、女子が5.0%。合格者に占める女子の割合は24.5%だった。それが2010年度は男子8.6%、女子10.2%となり、女子が合格者の38.1%を占めた。

しかしながら2011年度以降は女子が男子を上回ることはなくなった。女子を故意に減点し、女子の合格者を抑えていたとみられる。

東京医科大学の正門(東京都新宿区 写真=時事通信フォト)

■質問を受け付けなかった15年前の「5分会見」

贈賄罪、裏口入学、女子受験生差別……。どうして東京医大は不正が絶えないのだろうか。

そこで思い出されるのが、15年前の2003年11月11日に東京医大病院(東京・西新宿)で行われた、わずか5分の記者会見である。

2003年8月4日、東京医大病院はカテーテルの挿入ミスを犯した。挿入ミスで女性患者は意識不明の重体となり、脳死状態とされた。

結局、女性患者は1年半後に死亡したが、この医療ミスが同年11月11日付の産経新聞朝刊のスクープ記事で明らかになり、記者会見が開かれた。

記者会見は病院長と2人の副院長の計3人が出席し、医療事故について形だけの謝罪はしたが、記者の質問は受け付けず、「司直の手に委ねられており、この場での質問には一切、お答えできない」と5分で一方的に記者会見を打ち切った。

記者会見の様子は当時、テレビで何度も放映された。いま思い出しても、ひどい記者会見だった。あのときの病院長が今回の文科省汚職事件で在宅起訴された前理事長なのだ。

今年8月5日付の読売新聞の報道(1面トップの特ダネ記事)によれば、女子受験生の合格者数を抑制するよう指示を出していたのも、この前理事長だ。

どうやら前理事長のようなトップの采配を許してきた問題が、東京医大にはある。

■どの記者会見も木で鼻をくくるようなものだった

カテーテルの挿入ミスが発覚してからは、2003年から2004年にかけて東京医大病院ではたまっていた膿(うみ)が噴き出すかのように隠蔽されていた医療事故が次々と明らかになった。

幼児に対する人工内耳の埋め込み手術で埋め込む耳を間違えたり、骨髄液を採取する骨髄穿刺の検査で針が心臓まで届いて患者を死亡させたりもしていた。心臓の手術では1人の医師が計4人もの患者を死亡させた事故も発覚した。

東京医大病院は医療事故が発覚する度に記者会見を行ったが、どの記者会見も木で鼻をくくるようなもので、記者の質問にまともに答えるようなものではなかった。

要は社会常識がないのだ。物差しがずれているのである。

医師や看護師、医療技師という同じような人種が集まる病院では物差しのずれになかなか気付かない。医局の教授を中心とする大学病院のような大組織になればなるほどそうした傾向が強くなる。思考がたこつぼにはまって身動きできなくなる。その結果、社会常識から遠く離れた行動を取る。

前述したわずか5分で一方的に終わらせた記者会見がその象徴である。目の前の新聞記者や放送記者の背後に、多くの読者や視聴者がいることを忘れている。

大切なのは、病院の仕事が人の命を救うことだということを深く自覚することだ。

■「どのように謝罪し、救済の措置をとるのか」

さてこの辺で新聞各紙の社説を見ていこう。

朝日新聞は8月3日付社説で「明らかな女性差別だ」と見出しを掲げる。半本だが、1番手の扱いだ。しかも東京医大の女性差別入試を8月2日付朝刊一面でスクープした読売新聞に先駆けての社説である。朝日新聞は女性差別にうるさいのだろう。

朝日社説はその中盤で「女子受験生の点数操作は遅くとも2010年ごろから続いていたとみられる。いったい何人が不当に不合格にされたのか。どのように謝罪し、救済の措置をとるのか。大学は早急に考えを示す必要がある」と主張する。

さらに朝日社説はこう訴える。

「女性医師の休職や離職が多いのは事実だ。だがそれは、他の多くの職場と同じく、家庭や子どもを持ちながら仕事を続けられる環境が、医療現場に整っていないためだ。厚生労働省の検討会などでも整備の必要性がかねて指摘され、医療界全体の課題になっている」
「その解決に向け先頭に立ち、意識改革も図るのが、医療、研究、教育を担う医大の大きな役割ではないか」

やはり医療界全体の問題としてしっかりと把握し、解決策を探るべきだ。東京医大だけの問題ではない。他の医大でも同様に女子受験生の差別が行われている可能性がある。文科省にはきちんと調査してほしい。各医大も内部調査を実施し、対応を進める必要がある。対岸の火事として傍観している場合ではない。

■「受験生への背信行為だというほかない」

対する読売新聞はどうだろうか。

朝日新聞に1日遅れた8月4日付の1番手の社説で「受験生への説明責任を果たせ」(見出し)と主張する。

読売社説は冒頭で「公正・公平が大原則の大学入試で、女性という理由だけで内密に減点する。事実であるなら、受験生への背信行為だというほかない」と書く。

「背信行為」という言葉は、その通りだ。東京医大はこの批判の言葉を受け止め、深く反省すべきである。読売社説はこうも指摘する。

「入学定員を男女ごとに設定すること自体に問題はない」
「ただし、事前にそれを公表するのが前提となる。東京医大は、受験生には一切伏せたまま、2011年ごろから女子の得点を減らしたり、合格率を一定の割合に抑えたりしていた疑いがある」

■「東京医大の姿勢は、社会の流れにも逆行する」

沙鴎一歩も前述したが、受験生に隠していたところが大きな問題なのである。さらに読売社説はこう書く。

「大学を卒業した医師の多くは、系列の病院で勤務する。関係者は『女子は結婚や出産を機に離職することが多い。男性医師が大学病院を支えるという意識が学内に強い』と説明している」
「経営判断として、医師不足への危機感があったとしても、女子を入試の段階で意図的に排除しようとする手法は許されまい。女性医師が働きやすい環境を整えるのが、大学の務めだろう」
「厚生労働省は、出産で離職した女性医師の復職に注力している。有識者会議は2月、女性医師への支援の必要性を強調した緊急提言をまとめた。東京医大の姿勢は、こういった流れにも逆行する」

朝日社説も指摘していたように、女性医師が働きやすい環境を整えることこそが大切なのだ。東京医大はもちろんのこと、全国の医大の経営者はそこを自覚してほしい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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