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新聞って凄い、と思いました。

 極めつきは、多くの私立医大では、男女枠がある。~(中略)~

どうしても、女子は卒後、外科系に進みにくい。~(中略)~

だから、医学生が女子ばかりになると、その大学の中で、外科系にいく人間が少なくなり、バランスがとれなくなる。~(中略)~

最悪の場合、外科教室の維持ができなくなると危惧されることもある。そうした事情から、私が知っているある私立医大は、男女で別々に定員を決めているそうだ。(『医者とはどういう職業か』里見清一、幻冬舎新書)

上の引用は2016年に出版された本からですが、そういうこともあるようです。入試においては必ずしも男女平等ではなく、男性受験者が優遇されていることもあるのだとか。背景には男女の進路指向の違いがあって、外科を成り立たせるためには医学部志望の男性受験者を、たとえ女性受験者よりも試験の点数が低くても、一定数は合格させる必要があるらしい、と。

まぁ医療現場はワークライフバランスを取るのが他の職場に比べて格段に難しいわけです。商品を欲しがるだけの客相手なら、待たせておいても大した問題にはならないかも知れません。しかし患者と医者の関係はそう簡単にはいきません。早急な措置が求められる患者の生命と、医者の勤務時間の適正化、両立のために必要なものは一般の職場とは比べものにならないのでしょう。

外科医の労務環境を女性が働きやすいものに変えることは当然ながら求められますが、一方で上記『医者とはどういう職業か』によると、地方医大には「どう考えても医師に向いてない女子学生が集まる」ケースが見られるそうです。

その理由は、ほぼ例外なく医学部は偏差値が高いこと、かつ地方では医学部以外に偏差値の高い大学がないことで、ここに「娘は親元に置いておきたい(都会で一人暮らしさせたくない)」という親の思惑が加わると、地方の成績優秀な男子学生は全国から受験先を選ぶのに対し、地方の成績優秀な女子は挙って地元の医学部を受験することになってしまうのだとか。

その結果として、医者に向いているかどうかという要素は完全に蚊帳の外、と著者は推測していました。

外科では女性医師敬遠がち「女3人で男1人分」(読売新聞)

 東京医科大(東京)医学部医学科の一般入試で、同大が女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが明らかになった。

同大出身の女性医師が結婚や出産で離職すれば、系列病院の医師が不足する恐れがあることが背景にあったとされる。水面下で女子だけが不利に扱われていたことに対し、女性医師や女子受験生からは「時代遅れだ」との声が上がる。
 「いわば必要悪。暗黙の了解だった」。同大関係者は、女子の合格者数を意図的に減らしていたことについてそう語る。
 この関係者によると、同大による女子合格者の抑制は2011年頃に始まった。10年の医学科の一般入試で女子の合格者数が69人と全体(181人)の38%に達したためだ。

医師の国家試験に合格した同大出身者の大半は、系列の病院で働くことになる。緊急の手術が多く勤務体系が不規則な外科では、女性医師は敬遠されがちで、「女3人で男1人分」との言葉もささやかれているという。

さて東京医科大の一般入試で、女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが報道され、結構な話題になっています(ついでに浪人生も冷遇されていたとか)。当然と言うべきか批判的な反応が圧倒的ではありますけれど、皆様どう思われますでしょうか? 私は――やっぱり新聞って凄いな、と思いました。

世の中、「知っている人は知っているけれど、世間的には気にされていない大問題」は少なくありません。一部の関係者の間だけで懸念されつつも、世間一般では存在すら知られていない、そういうものが盛りだくさんです。

しかしローカルな問題、ニッチな問題も全国紙で取り上げられるや、途端に全国区の問題として人々に意識されるようになるわけです。新聞凄い。

例えば小田原市役所では生活保護担当の職員が、生活保護受給者を罵倒、侮蔑する文言の入ったグッズを制作、頒布していたりしたわけです。およそ10年にわたって。これは人倫にもとる言語道断な蛮行ですが、私がこれを知ったのは新聞報道のあった2017年であり、世間で問題視されたのも同時期でした。

公然と行われていた代物であり全く隠されていなかったにも関わらず、新聞報道があって初めて、問題と見なされるようになったわけです。新聞凄い。

東京医大による女子合格者の抑制は2011年頃に始まったそうですが、余所の大学でも行われていた、恐らくはもっと昔から行われていたのではないかと推測されます。冒頭に引用した『医者とはどういう職業か』によれば「学生の男女比と、その経年変化を調べればすぐ分かるじゃないか」だそうです。たぶん、関係者にとっては今更騒がれるような問題ではないのでしょう。

しかし広く世間に問題視されるようになったのは、それが新聞報道されたからです。新聞凄い。

したり顔で、新聞など不要なのだと高説をたれる人も昨今は多いです。ところが、そういう人の語ることも元を辿っていけば新聞報道が始原だったりするのが大半です(まぁ、純然たる妄想から始まっているケースも少なくなりませんが)。

今回の件で批判的なコメントを熱心にネットへ書き込んでいる人も酷暑の中わざわざ抗議に出向いている人も、内99.9%は新聞報道後に初めてこの問題を認識したことでしょう。そして新聞ではなくネットの書き込みを見て問題を知った人も、その書き込みは新聞報道を見て反応した人から始まっているのです。

新聞の社説や論説には疑いようもないゴミが多いですけれど、それを差し引いても「関係者しか知らないこと」を取材し、それを広く世間に広める新聞の役割は全く失われていない気がしますね。この医学部の男女差別も、恐らく関係者には知られていたことであり、普通に書店で売られている本にも書かれていたことですが――新聞報道があってようやく事態は動いたのですから。

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