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Vol.396 医師の「量」と「質」~「量は質に転化する」~

東京大学医学部5年
伊藤 祐樹
2012年2月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

昨今、医師不足が問題となっている。しかし、医師不足といわれているなかで、主に議論されているのはその数、つまり「量」の問題だという印象を受ける。そこで、医師不足の問題を医師の数、「量」の問題だけではなく、「質」の観点からも考えたいと思う。今回は、「質」を捉えるうえで、論文の掲載数を指標として用いた。具体的には、core clinical journal に過去3年間で掲載された論文の数を調べた。Core clinical journal とは、Pubmed上に設定されている検索項目で、約120誌からなる主要な臨床雑誌の群である。

では、早速結果に入ろう。まずは、都道府県別での傾向を見たいと思う。
人口10万人当たりの論文数をみると、

上位:1. 京都(9.1)  2. 石川(7.8)  3. 東京(7.0)  4. 徳島(5.9)  5. 長崎(5.7)
下位:1. 宮崎(1.1)  2. 埼玉(1.1)  3. 長野(1.3)  4. 福島(1.3)  5. 山形(1.3)

といった都道府県が並ぶ。
値としては、京都は9.1本、宮崎は1.1本と8~9倍の差がついてしまっているのである。しかし、人口当たりの結果だけでは、医師密度、すなわち人口当たりの医師数が少ない県が不利になって当然である。

そこで、医師100人当たりの論文数を調べてみた。結果は、

上位:1. 京都(3.0)   2. 石川(2.9)  3. 東京(2.3)  4. 長崎(2.0)  5. 徳島(2.0)
下位:1. 宮崎(0.45)  2. 沖縄(0.54)  3. 山形(0.58)  4. 鹿児島(0.58)  5. 長野(0.59)

という具合になった。
上位5県については人口当たりでみたものと同じ5県が並んでいる。また、下位の5県は人口当たりでみても下位10県に入ってしまっている県である。また、ここでも京都は3.0本、宮崎は0.45本と6~7倍の格差がついてしまっているのだ。人口当たり・医師当たりのいずれでも「質」の高低の傾向は概ね一緒なのである。ここから、医師密度と医師当たりの論文数とは無関係ではないことがわかる。実際、医師密度と医師当たりの論文数の相関係数をとると、0.48 と正の相関が示唆される結果が出た。これは、医師の「量」と「質」との間には関係があるということが示唆されている結果だと考える。

次に、大学別の傾向を見たいと思う。まずは、単純に各大学の実数の結果を示す。

上位:1.  東京大  2. 京都大  3. 大阪大  4. 慶應大  5. 九州大
下位:1.  愛知医大  2. 金沢医大  3. 宮崎大  4. 島根大  5. 山形大・福井大

首位の東京大が200本近くあるのに対し、下位の大学は10本程度になってしまっているのだ。

また、それぞれの大学ごとに医師数が異なるため、大学病院所属の医師数100人当たりでの結果を示すと、

上位:1.  京都大(48.6)  2. 名古屋大(41.1)  3. 大阪大(39.4)  4. 金沢大(36.9)  5. 東京大(34.1)
下位:1.  愛知医大(1.05)  2. 埼玉医大(1.60)  3. 昭和大(2.01)  4. 慈恵会大(2.06)  5. 近畿大(2.37)

というような結果となる。
下位には私立大学が並ぶが、国立大学の下位を並べると

1.  島根大(3.30)  2. 宮崎大(5.10)  3. 新潟大(5.61)  4. 鳥取大(6.28)  5. 山形大(6.35)

となる。もちろん、国立大学の下位は私立大学の下位に比べれば高くなってはいるが、上位の大学とは桁が異なる結果となってしまっている。全体としてみれば、京都大学が100人当たり50本近くの論文を出しているのに対し、100人当たりの論文数が5本を下回っている大学が26校もあるのである。

また、大学の側面として忘れてはならないのが教育機関であるという点だ。学生から見た大学の魅力を表す指標としては、偏差値というものが考えられるであろう。ここでは、偏差値として大手予備校のデータを用いた。そこで、各大学の偏差値と論文数の関係を見てみたところ、これらの相関係数は0.80と非常に高い値を示し、強い相関があることが認められた。ここからは、論文数で見る「質」が直接的・間接的かは別として、学生から見た大学の魅力に強く結び付いているということが捉えられる。そして、「質」の高い大学が学生を集める力を高め、さらにその「質」の維持・向上へ繋がっていっているのではないだろうか。

では、この論文の生産性、「質」の差は、どこから生まれてしまったのだろうか。国立・私立の差はあれ、首位の京都大学に比した医師当たりの論文の生産性が 10倍以上開いている大学が20校以上あるというのは自然な事態ではない。国立大学に関しても上記のような差があるのである。横一線のスタートではこのようなことにはならなかったのではないか、と考える。実際、医学部創設はまったく横一線ではない。大きく分ければ、戦前・1950年頃・1970年代の3年代のうち何れかにどの医学部も創設されているのである。各年代で大学ごとの論文数の平均をとると、83.8、31.1、20.1となっている。つまり、年代が古いほど「質」も高いという結果なのである。また、国公立・私立のみで比べても同様の傾向である。さらに、大学の歴史が深いこと自体もその大学の魅力を増す助けとなっているであろう。高い「質」を得るには歴史が必要なのだと思う。

結果は以上のようになっている。ここから浮かび上がるのは、医師の「量」だけだはなく、「質」についても上位・下位の都道府県・大学の間には大きな差がついてしまっているということである。また、「質」と「量」との相関を見ることで、「量は質に転化する」という言葉通りのことが医師の分布についても起きているのではないかと考えられる。現状のままでは、医師の「量」が不足している地域においては「質」の向上も期待できず、それが魅力を失わせる結果を招くという悪循環に陥ってしまうように見える。歴史のある大学ほど「質」が高いという結果からは次のようなことが言えるだろう。医師の「量」が相対的に多い中では、競争相手がいるという刺激がある。そこから「質」が向上し、魅力も増す。これが繰り返されることで良い循環が生まれているのではなかろうか。

医師の「量」・「質」の分布は改善されるべき問題であろう。上で述べた循環から考えれば、二つの改善策が考えられる。まず、第一に「量」を増やすことで競争原理を働かせることである。例えば、医学部の新設などがこれにあたるだろう。第二としては、「質」を外から持ち込むことでその地域・大学の「質」を向上させることである。例えば、高名な医師を他の地域・大学から呼びこむことがこれにあたる。

どんなものにおいても、「質」と「量」とは切り離せないものであるはずである。医師不足の議論が「質」と「量」の両側面から検討されるのを期待したい。

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