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【読書感想】清原和博 告白

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 聞き手の鈴木さんが「巨人からは1位指名について、(覚書や口約束のような)確証があったのですか?」と確認したところ、清原さんは「そういうものはなかったけれど、巨人は僕を欲しがっていて、指名してくれると信じていた」と答えています。

 ドラフトのときの清原さんは、大人の世界の「駆け引き」に翻弄され、それをずっと引きずってしまったのでしょう。

 この本を読んでいると、清原さんの「桑田」と「巨人」へのこだわりが、すごく伝わってくるんですよ。

 甲子園のヒーローであり、プロ野球選手としてもルーキーイヤーから大活躍、漫画のキャラクターにもなり、タレントとしても大人気だったのだから、そんなトラウマは、克服できてもよさそうなものなのに。

 そういう「こだわりの強さ」には、薬物の影響もあるのかもしれないけれど。

 清原さんは、あれほどの実績を残してきたにもかかわらず、いろんな人と自分を比較してしまうところもあったのです。豪快なイメージが強かったけれど、それは「気になりすぎる性格」を隠すための仮面だったのだろうか。

 清原さんは、巨人にFA移籍後の2000年のシーズンを振り返って、こう語っています。
 ジャイアンツにきてから、ずっと勝負弱かった僕がこの年から勝負強さを取り戻せたんですけど、それはやっぱり怪我をしている間に考える時間があって、松井敬遠、清原勝負ということに対する気持ちを整理できたからだと思います。

 それまでは松井が敬遠されるたびに、自分の感情をコントロールできなくて凡打していたんですけど、怪我で休んでいる間に「松井が敬遠されないように、俺が打つんや、松井を援護射撃するんや」という気持ちになれました。もちろんトレーニングして肉体的に強いものを手に入れたことも大きかったと思います。それからはチャンスで結果が出て、松井敬遠、清原勝負ということはほとんど無くなりました。

 後から考えれば、それまでは松井のことをライバルとして意識していましたし、どこかコンプレックスのようなものがあったのかもしれません。松井は年々、進化していましたし、技術もすごいんですけど、一番の僕との違いはメンタルの強さだったと思います。いつも同じように球場に来て、同じように球場を去っていく。そういう姿に「こいつすごいな」と思っていました。

 例えば、大チャンスに打てなくてチームが負けても、淡々としているんです。松井とはロッカーが近かったので、わかったんですけど、あいつはホームランを打った日も、まるっきり打てなかった日も同じように淡々と着替えて、同じようにスパイクを磨いてかえっていくんです。感情を見せないんです。僕なんかはチャンスで打てなかった日は、ベンチからロッカーに戻って、椅子に座ったまま30分は動けませんでした。

 松井は悔しくなかったんじゃなくて、感情をうまくコントロールできる人間なんだなと思います。僕とは根本的に違うんです。だから松井は松井。年齢にかかわらず彼には彼の凄さがあると自分の中で認めたんです。そうしたら、それからはあまり意識しなくなったというか。解放されました。

 感情をコントロールできていた松井秀喜選手と、それができなかった清原さん。

 松井選手は、本当に凄い。つねに、自分がやるべきことを流されずにやる人だった。

 その一方で、喜怒哀楽を押さえつけることができない清原さんには、確かに「人間らしい魅力」がありました。

 ただ、その「人間らしさ」がもてはやされすぎたことが、清原さんの後の「暴走」あるいは「迷走」につながってしまったような気がします。

 他にはテレビの仕事もやりましたが、あれは野球とは違う緊張感でした。まず、何を求められているのか、その番組を制作する人の要求にどう応えればいいのかを考えるのに、気苦労がありました。自分でも驚いたのは、現役を引退してからも周りの人は僕のことをいわゆる「番長」のイメージというか、そういうキャラクターで見ていたということです。乱闘で怒るシーンや、喜怒哀楽を激しく出すというのは野球の試合中の清原和博であって、やめれば一人の人間としての清原和博に戻れると思っていたら、そうではなかった。いわゆるコワモテのキャラクターを求められているなっていうのは感じていて、テレビでそれを演じるんですけども、それがちょっと難しかったです。それでますます野球をやっていた頃との線引きが難しくなっていくというか……。野球をやっていた頃の自分を演じているんですが、実際には野球をやっているような満足感というのはなかったです。

 この「告白」を読んでいて思うのは、超満員の観衆が見守るなか、スタンドにホームランを放り込むというのは、ものすごい「快感」なんだろうな、ということなんですよ。

 もちろん、僕には想像することしかできないけれど。

 清原さんが「覚醒剤うたずに、ホームラン打とう」というキャッチコピーの麻薬撲滅ポスターに出ていたのは、もはや「黒歴史」的ではあるのですが、ホームランが打てなくなったから、覚醒剤に向かってしまったのかな、とも思えてくるのです。

 でも、どんなすごい選手でも、いつかはホームランが打てなくなり、三振もとれなくなる。

 人生は、ときに、長すぎるのかもしれない。

 スキャンダラスな「告白」はないのですが、読み終えて、「ああ、清原も僕と同じ人間なんだな」とため息まじりに呟いてしまう、そんな本です。
 

清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実 (文春e-book)



永遠のPL学園?六〇年目のゲームセット?



バトルスタディーズ(1) (モーニングコミックス)

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