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「生産性」より「無条件の生存の肯定」。の巻 - 雨宮処凛

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 「無条件の生存の肯定」という言葉と出会って、12年。これまで私は、その言葉に命を吹き込むような活動をしてきたと自負している。10年前の年越し派遣村だってそうだ。それから続けている困窮者支援や生活保護関連の活動だってそうだ。特に生活保護制度は「無差別平等」を謳っている。一定の要件を満たせば、誰にでも開かれているのだ。そこに「税金を使って助ける価値がある人間かどうか」などと人を選別する視点は当然、ない。「税金を投入することによってのちに生産性が見込めるか」などが選別されるようになれば、生活に困窮した人だけでなく、高齢者や障害者、病気に苦しむ人などが見殺しにされる社会になるだろう。そんなのは、地獄だ。

 しかし、そうした選別の視線はどんどん当たり前のものとなり、「生きるハードル」も年々高くなるばかりで、弱者と言われる立場にいない人をも追い詰めている。

 企業社会はより高いコミュニケーション能力を持ち、より高いスキルを持った上に、どんなに長時間労働をしても倒れない強靭な肉体とどんなにパワハラを受けても病まない強靭な精神を持った即戦力しか必要とせず、「求める人物像」はどんどん「生身の人間」から遠ざかっている。そうして多くの人が追い詰められる中、「生産性のない人間は死ね」というようなメッセージは、全国津々浦々までに浸透している。だけど、生まれてからずーっと生産性が高くいられる人なんて一人もいない。勝ち続けられる人はほんの一握りだ。そしてそんな「生産性が高くないと生きる価値がない」という思想を内面化していると、何が起きるか。自分の思う「生産性が高い自分」でいられなくなった時、自殺という形で自らを殺してしまうかもしれない。いや、それだけではない。この国では2年前、そんなメッセージに対する「最悪の回答」というような事件が起きている。相模原の障害者施設で19人が殺害された事件だ。

 植松被告は、衆院議長に宛てた手紙の中で、「障害者は不幸を作ることしかできません」と書き、自分には470人を殺すことができると書いている。そのことが「世界経済の活性化」に繋がると書く植松被告は、「生産性の低い人間」の命を奪うことができる「生産性の高い」自分を衆院議長にアピールしている。自分は「役に立つ人間である」と、プレゼンしているのだ。

 あの事件が起きた時、多くのメディアは「かけがえのない命」という言葉を多用した。「命は大切」と繰り返した。しかし一方で、そのニュースが終われば、「高齢化によって、高齢者の医療費にこれだけの税金が使われている」などということが「お荷物感」たっぷりで報じられる。「命は大切」と言いながら、その命の継続にこれだけの税金がかかると報じるダブルスタンダード。そんな「本音」と「建前」が並列し、命と金は常に天秤にかけられる。そんなこの国の第一党である自民党議員からあのような発言が出ることに、私はあまり驚かなかった。なぜなら、口には出さずとも、自民党はずーっとそんなメッセージを発していたからだ。だからこそ、一部党内に批判はあれど、党として問題視していないのだろう。

 そんなこの国では、障害者に90年代まで強制不妊手術が行われていたという事実がある。

 「優生上の見地から、不良な子孫の出生を防止する」

 そう明記された旧優生保護法は、90年代後半までこの国に存在した。厚労省によると、本人の同意が必要とされなかった不妊手術は49年から92年まで、約1万6500件あったという。現在、多くの当事者がそんな強制不妊手術に抗議の声を上げているが、不妊手術をされた人々は、数十年間、沈黙を余儀なくされていたのだ。

 「生産性があるか、否か」。そんなことを突き詰めると、生きていていい人は、ほんの一握りになるだろう。それは合理的で効率的な社会かもしれないが、そこは自らが「生産性がない」と判断された途端に排除の対象とされる社会だ。

 少なくとも、私はそんな社会はごめんである。それよりも、誰しもの生存が無条件に肯定される社会の方がずっとずっと、生きやすい。役に立つかどうか、費用対効果としてどうなのか、将来の生産性が見込めるか、そんなことで命に優劣がつかない社会。っていうかそれって、びっくりするほど当たり前のことなのに、どうしてそんな当たり前が通らないのだろう。いつからそんなことになってしまったのだろう。

 今、あらためて、「無条件の生存の肯定」という言葉を、噛み締めている。

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