記事

コマツの新型“8輪装甲車”差戻し

1/2
8輪装甲車(改) 提供 防衛装備庁

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

防衛省、陸上自衛隊の装輪装甲車(改)の開発事業中止を発表。

外国製に比べ約3倍以上高価な国産装甲車を調達する余裕は無くなるだろう。

防衛省、自衛隊は責任の所在と開発の意思決定システムのどこに問題があったか明らかにすべき。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41293でお読み下さい。】

防衛省は7月27日、陸上自衛隊の次期8装輪装甲車、「装輪装甲車(改)」の開発事業の中止を発表した。開発を受注した小松製作所(以下コマツ)が、同省の求める耐弾性能を満たす車両を作れなかったためとされている。

同省は、試作品の対価として支払った約20億円の返還を同社に求める。開発中止は既に一部で報じられ、筆者も独自のルートでその事実は確認していた。だが実際の開発頓挫の理由はこの「大本営発表」の通りではないようだ。

防衛装備庁は陸自の国際平和貢献活動、島嶼防衛に対する対処などに対応するためとして、96式8輪装甲車の後継の8輪装輪装甲車、「装輪装甲車(改)」の開発を進めてきた。名称から誤解されそうだが96式装甲車の改良型ではなく、新規開発である。

試作はコマツとMHIの競合でコマツが獲得し、昨年2月に5両を納めた。だが多大な問題があり、昨年中試作は不都合を直すためにコマツの工場に送り返された。この件は防衛省装備庁も昨年12月26日に公式に認めたが、あくまで装甲の不備としているが問題は深刻で、外国に候補が無いから国産を決定したのに、昨年夏ぐらいから水面下で外国製の代案の調達も考慮されてきた。

「装輪装甲車(改)」は狙撃、地雷、IEDなどに対して96式よりもより高い抗たん性が求められ、任務に応じてモジュラー式装甲、耐地雷構造、RWSなどを装備することが求められている。APC(Armoured Personnel Carrier:装甲兵員輸送車)、指揮通信車、地雷原などを処理する戦闘支援車輌(工兵車輌)の3種類の調達が予定されている。

調達台数は未定である。プロジェクトは総額48億円である。試作は2014年から2016年まで行われ、技術・実用試験が2016年から2018年までとなっていた。

▲写真 8輪装甲車(改) 提供:防衛装備庁

コマツ案は同社が開発したNBC偵察車をベースに開発されたものであり、MHI案は同社が開発した105ミリ砲を搭載した、チェンタウロと同様の機動戦闘車の改良型である。この改良型はMitsubishi Armoured Vehicle (MAV)2014年のユーロサトリの日本ブースで同社が模型を展示して話題となった。MAVはMHIが自社ベンチャーとして開発した車体で、APC(装甲兵員輸送)型のサイズは全長8m、全幅2.98m(側面のスラット装甲と反応装甲は含まず)、全高2.2m、戦闘重量は最大28t。

▲写真 MHV 提供:清谷信一

オプションで、側面の後方にかなり厚めの反応装甲、スラット装甲の装着が可能。地雷・IED対策として、車内にはフローティング・シートが採用され、車体底部にもV字型の増加装甲が装着できる。乗員は車長、操縦手含めて合計11名。エンジンは自社製の4サイクル4気筒、536.4馬力のディーゼルエンジンで、サスペンションには独立懸架のダブル・ウィッシュボーン油圧式、全輪駆動方式を採用している。路上最大速度は100km/hと発表されている。

対してコマツ案は、2010年に陸自に採用された8輪のNBC偵察車をベースとした車体を提案した。全長:約8.4メートル、全幅:約2.5メートル、全高:約2.9メートル、乗員定数:11名、重量:約20トンである。車体下部はV字型になっており、地雷・IED対策が取られている。またボクサー同様に、後部コンパートメントがミッション・モジュールとなっており、任務に応じて短時間で換装ができる。

コマツが入札を獲得し、2017年2月に納品したが不具合が続出し、3月にはコマツの工場に不具合を直すために送り返された。業界筋では「耐弾性や不整地走行に大きな問題があった。コストダウンのために建機のコンポーネントなども流用されたことなど、無理なコストダウンも問題ではないか。陸幕では輸入品の採用も検討している」と語っていた。そもそも陸自は96式にしてもNBC偵察車にしても、基本的に路上での走向を想定しており、高い路外踏破性能を要求してこなかった。96式は不整地走行時にはチェーンを巻いても走行能力が十分ではなく、軍用装甲車としては失格レベルだ。その基準からしても、コマツ案の走行性能は低いと言わざるを得なかったのだろう。

コマツ案は原形となったNBC偵察車は横幅が2.5メートルと狭い上に、車高が2.9メートルと高いことも機動力上の問題となっただろう。コマツが横幅2.5m以下にこだわったのは道路法によって装輪装甲車の車幅は2.5m以下に定められているからだ。これは全幅が概ね2.8~3メートルの現代のAPCに取っては非現実的な数字である。車内容積を確保するならば、全長と全高を上げるしかない。

96式もこの法律に従って横幅が2.45mとされたが、コマツの設計者は「狭い横幅によって、設計に大きな制限があった。これが2.6mだったら遙かに優れた装甲車が開発できた」と述べている。この法律には規制に対して「在日米軍車輌はその限りではない」と明記している。だが、自衛隊の文字はない。不思議な話だ。自国の「軍隊」よりも「同盟軍」が優遇されている。だがこの法律には例外規定があり、国交省に届ければより大きな車幅の装甲車も問題なく運用できる。

この例外規定を利用する前提で、NBC偵察車よりも後に開発が始まった機動戦闘車は2.98mとされた。これは横幅が2.5m以下では105ミリ砲射撃の反動を吸収できないと三菱重工が強硬に主張し、それに陸幕が折れる形で実現した。だが、コマツ案は リスクをコスト低減のためにNBC偵察をベースとしたので、この2.5メートルの横幅となった。コマツがNBC偵察車を流用して開発したのは要求が既存車輌をベースにした改良であり、開発予算が19.7億円と少なかったからだろう。

防衛装備庁は昨年12月26日のプレスリリースにおいて、「装輪装甲車(改)」の不具合を認め、2019年度まで不具合の改修を行い、2019年度から試験を再開し、21年度までに開発を完了するとしている。つまり開発は3年間遅れることになる。装備庁は不具合を「耐弾性能のばらつきの多い装甲板の使用や板厚不足があったため」としているが、それを鵜呑みにはできない。

同リリースでは「該当不具合の改修等の必用な対応を試作品の受注企業である(株)小松製作所において行うと共に、量産化に向けて幅広い選択肢の中から最適な装備品の調達が可能となるよう代替案分析をおこなうこととなりました」とある。

だが、装備庁は本年1月15日に新型装甲車に関する情報提供を呼びかけた。情報提供企業として以下の条件を挙げている。

ア 装輪装甲車に関する研究、開発、製造等の実績を有する企業

イ 装輪装甲車の開発又は製造等に関する知識及び技術を有することを証明できる企業

ウ 日本国内において装輪装甲車の輸入・販売に関する権利を保有する企業又は権利を獲得できる企業

つまり、外国製も含めた代替車輌の採用を考慮していることを匂わせている。この時点でコマツ案を諦めていた可能性が高い。

だがATLA高官は本年初頭の筆者の取材に対して「装甲以外の問題は解決している。耐地雷・IED防御には問題がない。様々な可能性を調査するのは、コマツが問題を解決する間、我々には多くの時間があるからそれを有効に使うためだ」と説明している。

装備庁の説明の通り、装甲だけが問題ならば外国を含めての代用車種採用のための検討を行うことは無いはずだ。別の業界ソースは「モジュラーシステムの機能不全が起こっている。それは装備庁がそもそもファミリー化を前提とした提案書を募集していなかった」と述べている。

既に大手商社は昨年半ばからその方向で動き始めている。候補は恐らく米陸軍のストライカーやイベコのAV、ネクセターのVBCI、パトリアのAMVなどが候補に挙がろう。ボクサーは重すぎて日本の運用環境に適合しないだろう。

あわせて読みたい

「陸上自衛隊」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    悪質な収集家に裁判官怒りの一言

    阿曽山大噴火

  2. 2

    国に従わず支援求める朝鮮学校

    赤池 まさあき

  3. 3

    立民議員の官僚叩きに批判が殺到

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  4. 4

    ピアノめぐり上皇后様に感銘の声

    BLOGOS しらべる部

  5. 5

    机叩き…橋下氏語る菅首相の会食

    ABEMA TIMES

  6. 6

    上野千鶴子氏 任命拒否に危機感

    女性自身

  7. 7

    淡々とデマ正した毎日新聞は貴重

    文春オンライン

  8. 8

    ベガルタ選手 交際相手DVで逮捕

    SmartFLASH

  9. 9

    高級車雨ざらし カーシェア破産

    SmartFLASH

  10. 10

    移動しなくても良い新しい社会

    ヒロ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。