- 2018年08月01日 08:45
裏口疑惑の私立医大卒の医師はヤバいのか
東京医科大の「裏口入学」をめぐる事件で、不正合格した学生が過去にも相当数いたと報じられている。この問題は東京医大だけで済むのか。「私立医大卒」の医師全体にも疑念が生じつつある。信頼できる医師を選び、腕の悪い医師を避けるには、なにを基準にするべきか。フリーランス麻酔科医の筒井冨美氏が解説する――。(前編・全2回)
■医大に「裏口入学」して医師になった人がかなりいる?
東京医科大学の「裏口入学」をめぐる事件で、次々と手口の詳細が明らかになってきた。同じ医療の現場で働く人間として、これほど根性の腐った医大が存在するのかとあきれ果てている。

産経ニュース(7月15日付)によると、「数年前まで毎年10人前後の受験生を不正に合格させていた」。さらに朝日新聞デジタル(7月19日付)によると、「同窓会が過去に、合否判定で優遇を求める受験者のリストを作成し、同大に提出していた」という。
こうなると、東京医大に裏口入学して医師になった人間が相当数にのぼることが推測できる。患者側が「ズルして医者になった医者を受診して大丈夫なのか?」「裏口疑惑の私大卒の医者は避けたほうがよいのか?」という疑問を持ったとしても不思議ではない。
多くの病院ではウェブサイトに医師の学歴や経歴を紹介している。本稿では、学歴や経歴から自分にぴったりの医師を選ぶヒントを提示したい。
■平凡な私立医大卒ドクターに命を預けて大丈夫か
私見では、医者としての能力と「出身医大の偏差値」は、あまり相関していないように思う。2012年、天皇陛下の心臓手術で、日本大学出身の天野篤先生が抜擢されたのが好例であろう。
東京医大に限らず、医大入試では今なお「学力以外の要素による加点」が行われているのは公然の秘密である(過去記事参照:「医学部入試"女子は男子より不利"の裏常識」)。しかし、「地方私立医大出身ドクターでも卒業試験と医師国家試験を突破できた人材ならば、プロ医師としてレベルは低くないし、相応の努力家なので、気にせず受診すべき」というのが私の考えである。
現在の医大入試は難関であり、地方私立医大といえども早慶レベルの学力が要求され、コネ学生でもMARCH理系レベルの学力が必要となる。さらに、卒業も簡単ではない。医師国家試験の合格率が公表されるようになったため、下位の私立医大ほど授業の出席や課題提出、進級試験などでガチガチに学生を管理する傾向がある。
このため最近は授業についていけずに、留年や中退する学生が目立つ。「コネで大幅加点」となった学生も、大学を卒業し、国家試験に合格するまで順調だったかどうかは怪しい。
■医師国家試験をクリアしている人ならOKなのか
医師国家試験はマークシート方式で、コネは通用しない。ここ10年、医師国家試験の合格率は約90%だが、決して簡単な試験ではない。なかには「運転免許より簡単」などと断言する者がいるが、これは「F1ドライバーは事故ってばかりで運転が下手」級の暴論である。
さらに現在では、5年生の臨床実習に入る前に、学力試験の「CBT(Computer-Based Testing)」と実技試験の「OSCE(Computer Objective Structured Clinical Examination))という共通進級試験に合格しなければいけない。このため4年生頃から、医大と国家試験予備校の「ダブルスクール」を行う学生も少なくない。
こうした関門をくぐり抜けて医師免許を手にした人材は「持続的な努力を惜しまない人材」とも言えるのだ。
■チェックすべきは「出身医大」より「出身医局」
医師の能力を判断するうえで重要なのは、出身大学よりも出身医局である。
医局とは日本独自のシステムであり、医師免許取得後に就職し、10年程度勤務した大学病院や関連病院群のことを指す。「島根医科大学卒、順天堂大学整形外科学教室入局、○○総合病院、××スポーツ医療センター、△△記念病院を経て開業」という記載の場合には、「出身大学は島根医大」だが「出身医局は順天堂大整形外科」となる。
2004年に始まった「新研修医制度」以降に卒業した都市部の医師では、医局に属さないケースも増えているが、その場合でも研修先の病院名などを明記している。むしろ卒業医大の偏差値が立派でも、その後の研修先を明らかにしておらず、直前まで勤めていた病院がわからないという医師には注意が必要だろう。
■代診医師も置かずに休む医師は人脈に難あり
権力構造を問題視されることが多いが、日本の「医局制度」には重要な機能がある。そのひとつが「代診」だ。医局には専門科が同じ医師が所属しているので、たとえば開業医の場合には「休暇・病気の代役」「重症患者の紹介」などを頼むことができる。
小規模なクリニックで曜日によっては違う医師が診療していることがあるが、大学医局に属している後輩医師が応援に来ていることが多いのだ。
また、クリニックの院長が大学病院で診療していることもある。「木曜日の午後は休診」などとあるのは、決してサボっているわけではなく、本人のスキル維持と後輩の指導のために、ほかの病院で勤務していることが多いのだ。
近所の大学医局と良好な関係を築いている医師は、とても“お買い得”である。特に外科系では顕著だ。逆に、「学会出張」などと称して、代診医師も置かずに休むことが多い医師は、対人関係や人脈に難がある可能性が高い。
■「専門医資格」のない医師は回避すべき
「専門医」の資格の有無は、医師の能力をはかるうえで参考になる。2018年4月から新専門医制度が始まり、「小児科」「眼科」など19の基本診療領域の専門医コースが認定された(表参照、「専門医制度の現状と課題 一般社団法人日本専門医機構」より)。

院長として自らクリニックを開業するような医師は、これのいずれかを取得していることが望ましく、専門医資格についてウェブページに記載のない病院・医師は避けたほうが無難である。
■「医学博士」の人は医師とは限らない
医学博士とは、医学系の大学院博士課程を卒業して、医学領域の研究論文を発表した研究者に与えられる称号である。つまり、医学博士だからといって、医師とは限らない。
薬学部、理学部バイオ系学科、体育学部などを卒業し、製薬や健康保健系の研究に携わり、さらに医学領域の研究を志して医学部大学院に進学するケースもある。その結果、「医学博士号を持つ、薬剤師・バイオ系研究者・スポーツ医学研究者」は珍しくない。
また「論文博士」というケースもある。病院や製薬企業で働きながら研究して医学論文を書いて取得する方法で、これも医師とは限らない。一部の私立医大の医学博士号については、取得が容易だといわれている。たとえば健康食品に推薦文を寄せている「医学博士」について、博士号を取得した大学や詳しい経歴を調べてみてほしい。医師ではない「医学博士」の場合、信頼度は落ちる。
一方、「博士号を持った医師」は相応の能力があるといえる。「実験ばかりしているので、医者の腕とは関係ない」と揶揄する声も聞かれるが、博士号を取得するには20~30代の頃に大学医局で4~6年程度の下働きをする必要がある。その間に培った経験や人脈は後の医師キャリアに有用である。特に博士号を取得した大学病院には強いコネクションがあるはずなので、大学病院に紹介状を書いてもらう際に役立つだろう。
■院内不倫「口説き上手」の医師は手術上手
病院に長く通っていると、患者仲間や病院関係者から、医師のプライベートな情報を聞くことがあるかもしれない。例えば、「外科准教授のA先生は看護師B子と不倫関係らしい」といったうわさだ。この場合に、不貞を働くA先生の手術は避けるべきなのだろうか?
私の考えは「A先生は執刀医として“お買い得”」である。手術室という場所は、オペさえうまければ他の欠点を隠してしまうことがある。このマジックは特に、近くで働く看護師に効きやすい。また、病院上層部も往々にして「デキる男の職場不倫」は、見て見ぬふりをする傾向がある。
手術のうまさ、という点に限れば、ポジティブに評価してもいいだろう。
(後編に続く)
(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美 写真=iStock.com)
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