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「一般意志2.0」が橋下市長の“独裁”を止める?―現代思想家、東浩紀インタビュー

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―仮にいますぐ「一般意志2.0」を体現するシステムが実現して、一つの地方自治体で導入することが可能になったとします。その場合、東市長なり東区長として政治を行うという可能性はありますか?

東氏:上に立つのは無理なんじゃないかな(笑)。地方でこじんまりとやるんだったら面白いとは思いますが。負の借金がないところで。

どこかに原野があって、そこに新しい町を作る。若い連中だけで新しいコミュニティをつくって、新しい意志決定のシステムをインストールするけどやるか?と言われたら、僕は喜んで行きますね。それ面白いじゃないですか。そこで新しいシステムの学校とか作ってみたりしたい。凄く面白そうです。でも、日本はもうそういうことができない。今後の人口予測みるだけでゲンナリというか。

―数年前には、赤木智弘さんの「希望は、戦争」と主張する論考が話題になりましたが、「じゃあ一回リセットしよう」という考え方もあると思います。

東氏:革命は最終的に武力ですよ。人も死ぬし、ぶっちゃけきつい(笑)。だから革命はなしですよね。とはいえ、あんまり考えたくないですけど、こんな閉塞感というか、なし崩しの状態だったら、どこかで体制が転覆していてもおかしくないと思います。年金改革だって上手く行くわけがない。借金だって増え続けるでしょう。ここ10年、20年で大変なことになる。どこかで何か起きるんじゃないかと思いますが、でもわからないな。やっぱり若者が多くないと、革命は起きないから。

とにかく、今の状態での政治は借金の整理に尽きる。その政治に参加するというのは、あまり夢を感じないですよね。というかむしろ、僕と同年代で政治に関わっている人たちが、正直何考えているのか知りたいですよ。本当のところは何が目的なんだろうと。だって、この国もうあんまり面白いこと出来ないじゃん、みたいな。

―橋下市長(1969年生まれ)は世代的に、東さん(1971年生まれ)とそれほど違いはありませんが。

東氏:この前、「朝生」で反橋下派の反応を見て思いましたが、改革に対して「怖い、しんどい」みたいな感情論があるわけです。あれがどれだけ大阪市民の声を代弁しているのかは、僕にはわかりません。しかし、大阪という町が急速に地盤沈下しているのは事実です。

むろん、橋下市長が主張するように大阪都になったからといって、一気に浮揚して東京と並ぶもう一つの軸となり、シンガポールとかロンドン、ソウルと戦えるようになるかはわかりません。実際に企業とかは逃げちゃっているわけですし。ですから、「夢が可能なら、それを実現する方法はこれしかないんだよ」という道を橋下さんは指し示しているとは思うけど、それが実現するかは僕にはわかりません。けれども、「もし大阪復活があるとしたら、これぐらい荒療治が必要なんですよ」という意味では、彼の主張は正しいと思います。

ですから、論点は結構明確で、「賭けに出るか否か」という選択だと思います。荒療治してもどうせグローバル都市になんかになるわけないんだから、「もう緩やかに死んでいこうぜ」、という選択も、ある意味では合理的ではあるでしょう。

若者が悲惨な現状を全面肯定する社会は“末期的”


―賭けに出なければ、どうにもならないところに来ているということでしょうか。

東氏:そうでしょうね。ただ日本の場合、本当に民意を確認してみたら、「賭けに出ない」という選択になるような気もします。今の日本人は過剰に自信喪失している状態ですから。

例えて言えばこんな感じですよね。お父さんの会社が潰れそうだ。家族がいる。この時に、会社を整理し、お父さんが再就職をして、年収がいままでの半分あるいは3分の一になるけれど、家族はギリギリやっていけるという状態を選ぶのか。それとも、借金して賭けに出て、もう一度金持ち一家としてやっていくのか。

家族に話を聞いてみると「いいよ、きついよー」「お父さんが家にいればいいよー」という風になって、「まぁいいか」と。そういう選択も合理的だし、そうなる可能性は高いと思います。

3.11の影響もあって、日本人の自信喪失が深くなっている。変な言い方ですが、最後の最後は人々の気持ちの問題だと思うんですよね。いくら「こうしなければ経済成長は起きない」「こうしなければ日本は沈むんだ」と理屈で言っていても、最後は気持ちで決まる部分が大きいと思う。今の日本人はとにかくやる気がないわけです。

この点では、日本人にやる気をもう一度取り戻させる政治家が欲しいですね。テンション高くないときついですよ。全体的に鬱というか、アゲアゲ感がない。バブルのときは傷も大きかったですけど、ギラギラしてましたよ、みんな。

―昨年は古市憲寿さんの「絶望の国の幸福な若者たち」という本も流行しました。

東氏:古市さんの本がいいとか悪いとかではなくて、常識的に考えて、当の若者から「俺たち若者は貧しいけれど、これでいいんだ」という議論が出てくる国というのは、結構末期的だと思います。

今から5年ぐらい前までは「ロスジェネ」とかいって、いちおう若者は怒っていることになっていた。いま思えばじつに「健全」です。それが3.11以降、急速に雰囲気が変わってきて、「これでいいのだ」みたいな現状肯定になってきている。これは国として末期的だと思います。「僕たちは縮小経済の中で、細々と、でもちょびっと幸せに生き抜いていくんです」と言われてもね。

―「緩やかな死」を選択する若者が出てきているということですか

東氏:ちょっときついですが、そうも言えるでしょうね。これは明らかにまずい。でもどう変えたらいいかさっぱりわからないんですよ。橋下さんは、この前の朝生では「そんなんじゃダメだろ、頑張れよ」みたいな感じでやっていた。でもそれでは決してついてこない人たちがいる。こりゃ大変です。

僕は、こういうときは、やはり思想が必要だと思います。日本では、経済・ビジネス系の人たちが、人文系の人間を軽蔑しきっている。その理由もわからなくはないですが、ただ、理念は危機のときこそ必要なんですよ。金があるときには、理念は必要ない。だから人間は理念なんかで動かないという前提が強くなる。ある時期の日本はそうだった。そしてその名残がいまも続いている。でも、世界全体で見たら、まだまだ理念で動いている人はたくさんいるわけです。例えば、宗教というのも理念ですし。アメリカだって、民主主義と自由というある種の理念で戦争まで起こし迷走している。

国力が低迷しているいまこそ、理念というものの現実的な力を日本人は少し考えなおすべきだと思います。理念がなければ人は元気になれない。また人を救うこともできない。

これは短期的利益にも繋がる話です。例えば、すごく卑近な例で言うと、「クールジャパン」みたいな話も理念がないと世界に届かない、「可愛いいものが多いです」とプレゼンしても、一瞬消費されて終わるだけです。それをまとめあげる、新しい国のイメージであったり、ライフスタイルもセットになった新しい「何か」、現代日本の思想みたいな確固たる物が中核にないと、一過性のビジネスに終わってしまう。

戦前の日本は、日本人が世界に出て行くことに対して、一種の使命を感じていたわけですよね。東洋で初めて近代化した国で、日本がアジアを救うんだ、みたいな。それ自体は非常に迷惑な思想だったわけですが、何かの使命というか、日本とはこういう国でこういうことをすべきだという筋があること、それそのものは否定するべきことではない。ところが、戦後のこの国にはそういうものがまったくないわけです。いきあたりばったりでとりあえず、「車が売れているからいいや」「よし次はクールジャパンだ」みたいなことばっかりやっている。

―「こういう国であるべきだ」というヴィジョンが必要だということでしょうか。

東氏:国内でも、「こういう国であるべきだ」という議論が死に絶えていて、これから50年後、100年後、日本がどういう国になるのか、「日本ってそもそもなんだろう」という議論がまったくない。常に金の計算しかしていない。それはよくない。何をするにも「財源が!」みたいな話ばかりです。そこが日本の今一番さびしいところ。まず目的がなければならない。目的の後に財源の話をするべきです。

シンガポールに負けないとか中国に負けないとか、「負けない」ということしかなくなっている。確固たる日本の、「我々はこういうスタイルなんだ」というものがあるべきだと思います。「日本とは何か」という議論こそ、今もっとすべきだと考えています。例によって抽象的ですけどね。

―本日はありがとうございました。(東京・五反田のコンテクチュアズにて)

プロフィール

東浩紀
思想家、小説家。1971年生まれ。思想の主著は『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』(1998、サントリー学芸賞)『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)』(2001)『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』(2011)の3冊。小説の主著は『クォンタム・ファミリーズ 』(2009、三島由紀夫賞)

2010年代の文化を切り開く、新しい出会いの場 | 合同会社コンテクチュアズ

@hazuma - Twitter

■東氏による寄稿
【特別寄稿】東浩紀「For a change, Proud to be Japanese : original version」 - 2011年3月22日


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