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「一般意志2.0」が橋下市長の“独裁”を止める?―現代思想家、東浩紀インタビュー

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―政治参加へのハードルが下がるという点では、「高齢者の方が数が多いし、選挙に行っても何も変わらない」という若者の諦念を打破するアイデアだと思います。にも関わらず、比較的若者が多いはずのネットユーザーに受け入れられない現状についてはどうお考えですか?

東氏:それについては、そもそもネットユーザーの一部は、先ほどのような誤解よりもさらに手前にあるような気がします。無気力や自信のなさが蔓延していて、「ネットを使って新しい政治参加ができるんだよ」という問題提起に対しても「はぁ?」みたいなリアクションを条件反射的にとるのがかっこいいと勝手に思い込んでいる。そうしたシニシズムがこの国を覆っていますね。

―ご著書の中では、制度設計の部分はその筋の専門家に委ねたいとしています。一方で、「一般意志2.0」のシステムが実現するのが、いつ頃になるのかという感覚的な見通しはお持ちですか?

東氏:「一般意志2.0」のシステムとしてどういうものを想定するかですが、僕は、国会の委員会がニコニコ動画で中継され、コメントが現場でスクリーンに出るみたいなところまでは、けっこう早い段階でいくかもしれない思っています。そうなるだけで、政治家と国民の間の関係は少し変わる。その時に僕の本を読み直してくれたらうれしいなと思っています。

この提案について「しょぼい」とか批判が寄せられていますが、これはまったくしょぼくないと思います。この変化をしょぼいと考えるのは、想像力がないからです。考えてみて欲しい。ニコニコ動画は単純なサービスです。あれが登場した当初、それが映像の見方をここまで変え、クリエイターのコミュニティをここまで変えるとだれが予見したか。でも現実はこうなった。スクリーンのうえにコメントを流す、という単純なアイデアが、クリエイター、ユーザー、プラットフォームの関係を劇的に変えてしまう。それと同じようなことが政治でも起こると思います。

今必要なのは、個々の政策論の前に制度論、つまり統治機構そのものの変革です。これは橋下氏も言っていますが、僕もまったく同じ考えです。橋下氏の場合は、大阪都構想という形で、すごく大きなところから考えているわけです。しかし、僕の場合は、ニコ動の中継を入れるといった手段で、もっと緩やか、かつボトムアップの形で統治機構が変わるといいと思っている。

審議会にカメラを入れる。ニコニコ動画のコメントがスクリーンに出るようにする。このシステムの導入にあたっては、おそらく何も法律を変える必要がない。現場の運用だけで実現できる。でも、その瞬間、審議会の意味ってまったく変わってしまうし、人々の議論の質も変わる。

例えば、「朝生」という番組は夜中にやるからいいんです。夜中でみんなちょっと眠い状態で話しているから面白い。日曜討論みたいにピシっとネクタイをしめてしゃべっても、実際には答弁書を読み上げてるようなもの。まったく同じ面子を集めても、その場の雰囲気の作り方によってまったく違う議論が出てくる。それが熟議というものです。だから、場の設計をいじることによって、熟議の内容も変わるようにしていくというのは非常に実践的な話だと思います。

政策を提案することだけが政治だというのであれば、むろんこんな話はまったく政治と関係ない。でもそれは僕のイメージとは違うんですね。政策が出てくるような討論の場をどうつくるかというのが、今の政治のもっとも重要な課題なんじゃないか。政局報道にはみんな飽き飽きしている。まったく何の意味もない。そういう政局にならないためのアイデアということです。

それがイメージできていないと「ニコ生なんかでまともな番組があった例がない。だからダメ」といった指摘になってしまいます。そうじゃない。「ニコ生政治討論会の内容を政治に移す」という話じゃないんですよ。プラットフォームの変革の話なんです。政策論ではなく制度論。

Twitterにしても、今から10年前の人にあの仕組みを説明しても、「それ、何が面白いの?」で片付けられてしまうと思うんですね。でも、あんなシンプルなものが、世界中で人々の関係を変えて、アラブでは革命まで起こしたといわれている。コミュニケーションのツールが変わるとは、そういうことです。Twitter、facebookが革命を起こしたのであれば、日本でも、国会にニコ生入れれば、何か凄いことが起こるかもしれないじゃないですか。それが僕の提案の核なんです。それがしょぼいなら、Twitterもfacebookもしょぼいんじゃないですかね。

―政治と国民の関係性が、コミュニケーションツールが変わることによって劇的に変わるということですか?

東氏:例えば、審議会をやるとします。そのとき、普段から親しい人間たち、プライベートでお酒を飲んだりといったコミュニケーションをとっている人たちが審議会をやるのと、単にその時一回しか会わない人たちが審議会をやるのではまったく違う。

おそらく、かつての日本は、選良がもっと密接なコミュニケーションをとっていた。官僚が学者を呼ぶといっても10年付き合いがある学者を呼んだ。暗黙の了解として、最終的に一つの政策に落とし込んでいくという部分がありつつも、好き勝手言って面白かったら取り上げるという関係があったと思う。

最近、森美術館のシンポジウムで取り上げられたメタボリストという建築家集団がいます。彼らは丹下健三の弟子ですが、いろいろ調べると下河辺淳(しもこうべ・あつし)という高級官僚がキーパーソンであることがわかってくる。下河辺が非常に強力なネットワークをもっていて、彼がメタボリストに仕事を発注したり、研究会に呼んだり、メディアへの露出を仕掛けたりしている。現在はこうした仕掛けができる官僚がいない。財界、政界に通じていて、メディアも抑えることが出来る人材がいない。そうすると、結局政府に対して入ってくる情報の質もどんどんさがっていく。かといって飲みニケーションをやろうといってもそういう時代でもない。

例えば、こうした背景の中で、ソーシャルメディアは力を発揮すると思うんです。オフィシャルじゃない部分でのコミュニケーションをやることによって、相手の人格がわかる。そうするとコミュニケーションの質が高まる。その積み重ねによって熟議の質も上がるということです。

かつては制度の外側で、村社会的に保たれていた暗黙知的なコミュニケーションというのが、社会が大きくなったと同時に、コンプライアンス的な部分がうるさくなったことで成立しなくなった。そうした状態で形式的なシステムだけ残すと、熟議が形骸化してしまう。それを、ソーシャルメディアを使って復活させることはできる。『一般意志2.0』はそういうアイデアとも繋がっています。

日本は「賭けに出るか否か」を選択する段階に来ている


―今後現代思想家という立場から、日本の政治、社会にどのように関わっていくのでしょうか。何か展望はお持ちですか?

東氏:僕としては、思想というのは世界観を与えるもので、「次の世界はこういう風にあるべきだ」という一つのビジョンを与える仕事だと思っています。そしてそれは、世の中に問いかけることで、初めて完結する仕事です。だから、本を書いたり、世の中に出て行くということと、思想することはセットなんですね。ですから、呼ばれればこの前みたいに「朝生」に出演したりする。ただ、個人的にはどっかで引きこもって読んだり書いたりするだけの人生を送りたいと常に思っていますよ。個人的には、仕事をすべて今すぐ辞めたい(笑)。

元々、僕って世の中にはあまり関心がない、典型的な団塊ジュニアなんですよ。日本がまだ金持ちだった時代に20代を送ってきた。当時は大学での勉強と、オタクっぽいことが好きでかつ「ネット、すげー」みたいな20代を過ごしてきた。NPOとかボランティアといった活動も一切していない。

当時は政権交代とかありましたけど、すべてが茶番みたいなものでした。政治は完全に形骸化しているけど日本金持ちだからいいよね、という時代。そういう時代に20代を過ごした典型的なメンタリティーで、本当は国家のこととか政治のこととか考えたくないんですよね。逆に、そういう珍しい人間だからメディアに呼ばれているんだと思います(笑)。

そういう微妙な感じは「一般意志2.0」の内容にも反映されています。「一般意志2.0」の提案というのは、政治や国家からできるだけ切り離されて生きたい人々のための提案でもある。熟議に参加したくないオタクたちのため、新しい政治参加の回路をつくりましょうということでもある。

そういう意味で、僕はあまり政治に積極的にコミットするタイプではない。むしろ僕は常に、「政治とか熟議に参加するのはダルい」と思っている人間の側にたってものを考えたいと思っている。僕の目から見ると、僕から下の世代は、むしろやる気満々な人たちが出てきて眩しいですよ(笑)。僕の世代というのは基本、無責任なんです。むろんそれは常にふがいなく思っていますし、基本悪いことです。ただある時代の日本の姿を象徴しているとも思う。僕の論壇の中での特異な立場というのは、政治とかに基本的な関わりたくないという、この「無責任感」に起因しているのではないでしょうか。

―それでも、「朝生」にご出演されたり、政治家の方と議論されたり、社会と関わりを持とうとされているように思いますが。

東氏:例えば、どこか広大な土地が余っていて、そこに「まったく新しい国を作るんだ」ということであれば、僕は喜んで参加すると思いますよ。しかし、今の日本で政治をやるって、たまりにたまった澱みたいなものをかき混ぜながら、敗戦処理ばかりやらなければならない。ですから、やっている人たちは凄いと思いますけど、自分がやるのはちょっときついなとは思います。

新しい国の形、こういう国だったらみんな楽しいじゃないか、とポジティブに考えていくことが、この国の政治ではもうできないのではないかと、僕はどこかで思っていますね。

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