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「一般意志2.0」が橋下市長の“独裁”を止める?―現代思想家、東浩紀インタビュー

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「みんな根本的に僕のことを勘違いしている」


―例えば、「『民主主義2.0』を具現化するシステムなんて作れるわけがないじゃないか」という批判があります。

東氏:そもそも僕は「一般意志2.0」「民主主義2.0」というのは一つのアイデアあるいは理念として提案しているわけで、「いまここでこうすれば『一般意志2.0』が作れます」というマニュアルを書いたわけではありません。まずそこの部分からすれ違ってしまっている。

さきほども言ったとおり、この本はまず最初に熟議への懐疑からスタートしています。熟議、議論を尽くすというのは素晴らしい理想と言われますが、それが上手く機能していない。これは日本だけの問題ではない。そもそもその理想は機能しないはずのものなのです。しかし、それが上手く機能しないという現実に、思想家自身が一番気がついていない。だから僕は、熟議が上手く機能しないことを前提として議論する、新たな哲学的・思想的基盤を作ろうと考えた。そして考えてみたら、それは意外とGoogleとかが普及してきた現在の状況と符合しているじゃないか、という議論構成なわけです。だからGoogleから始まっている話でもない。

ですので「もっとWebを勉強してから書け」といった批判をされても困ってしまう。僕の職業や出発点を理解していないレベルの批判があまりに多い。

―「技術的に実現できるのか」という批判も多かったのではないでしょうか。

東氏:それは技術者の方々に考えていただきたい。というか、僕はそもそも技術者ではないので、そういう球の投げ方しかできないのです。逆にそういう批判をする方に尋ねたいのですが、それならば僕は、アマチュアエンジニアとしてなんかそれっぽいことを書けば良かったのでしょうか。この本のなかでも明示的に最初に断っていますよね。僕は技術者でもジャーナリストでも政治家でもない。だからそういう本ではない。この本は思想書なんです。

僕が行ったのは、僕たちが漠然と民主主義だと考えていた理想状態が実は間違っていたのではないか、という問題提起です。熟議を理想状態、みんなで話し合って決めるというのが理想状態と考えること自体がおかしいんじゃないか。そのためにわざわざ民主主義の起源であるルソーを持ってきて、ルソーの読み替えを行っているのです。

―本書の中では、熟議型の民主主義の限界という問題提起をされて、それを解決するアイデアとして「一般意志2.0」の導入を提示しています。なぜ、どちらかといえば動物的、本能的な「一般意志2.0」を可視化する必要があると考えたのでしょうか。

東氏:僕は熟議が万能だとは思いません。しかし、これは軽視とは違うんです。僕は集合知ですべてが決まるとも思っていません。というかこれも、僕のキャリアを見ればそんなことすぐわかると思うんですよね。みんな根本的に僕のことを勘違いしている。一部の読者には「オタクのネットユーザーが思想を勉強して書きました」みたいに思われていますけど、そうじゃないんですよ(笑)。

充分な議論を尽くすという熟議の存在は大前提です。ただ熟議はしばしば密室になってしまう。熟議がなぜ密室になるかといえば、その理由は単純で、社会が複雑すぎるからです。例えば、日本全体の人口が1万人だったら熟議型の民主主義で支障はない。熟議が一部の人間のものにはならないからです。

ただ一億人参加する熟議というのはあり得ない。いくらオープンにしても、5万、10万がせいぜいです。であれば、一部の人間による熟議になってしまう。そうなった時に、熟議と、その外の膨大な民衆とのコミュニケーションをどう確保するかが、僕の関心の中心です。「一般意志2.0」はそのコミュニケーション確保のためのアイデア。ですから僕は、大衆の集合知によって政策決定しよう、とは主張していません。僕はそんなの機能するわけがないと思うので。

僕は大衆の無意識で政治をしようとは言っていません。あくまでも無意識を可視化しようといっているだけです。可視化するのは、それが見えなければ熟議が閉じてしまうからです。言い方を変えれば、「一般意志2.0」は熟議改善のための本なのです。今のような密室の熟議をやめて、人々に開かれた熟議をしよう。そのために「一般意志」を可視化しようという本です。

それにしても、これ、全部本のなかに明示的に書いてあることなんです。それなのにそう読まれていない。何故こんなに誤解されているかわかりません。集合知万歳と読みたい人たちが、僕の本を集合知万歳の本だ勝手に読み込み、そして批判しているようにしか僕には思えません。

―飯田泰之さんは、何らかの均衡点を見出すという市場メカニズムが「一般意志2.0」の実例であると指摘していますが。

東氏:この点については、僕の本の書き方がちょっと悪かったと反省しています。僕はそもそも、「一般意志2.0」のシステムで均衡点を見つけたいと思っていないのですね。「一般意志2.0」のシステムで出てくるのは、どちらかというと、様々な意見がどのように分布しているかという一つの地図のようなものです。本ではクリストファー・アレグザンダーの例を出しましたが、そういう欲望の分布図を大量に重ねていくと、ここが妥協点じゃないかというポイントがボンヤリと見えてくる。それが大事だと。ただ最終的に1本の線を引く、これだという政策を決めるのは熟議であるべきです。

「一般意志2.0」は集合知批判の本でもある。


―「一般意志2.0」を可視化することで、自動的に一つの結論が導かれると主張されているわけではないということですね。

東氏:まったく違います。ここでもう一つ言っておきたいのは、多くの読者がルソーとGoogleにしか注目していないのですが、この本のサブタイトルに僕はもう一つフロイトを入れている。これは非常に重要なんです。

フロイトは、19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、精神分析という考えを生み出した偉大な学者です。思想家といってもよいかもしれない。彼は第一次大戦から第二次大戦の時期、ナショナリズム、全体主義の嵐が吹き荒れた時代を生きていました。フロイトはそういう状況の中で無意識について考えた。僕はフロイトの思想は、20世紀前半のナショナリズムや全体主義の隆盛と不可分だと思っています。フロイトは、無意識を肯定するのではなく、無意識の暴走をコントロールしようと考えていた。僕はそう理解した上で、その発想をルソーにくっつけた。

ルソーが生きていた時代は18世紀です。だからルソー自身は、もしかしたら欲望の一般均衡みたいなものを考えていたかもしれません。人々の欲望をすべて可視化して、その均衡点を政策として選択する。それがみんなの望みだから、あとはそれを実現するのが人民主権の実現なんだと。ルソーはそう考えていたようにも思えます。

ただ、その後の人類は、そんなことするとヤバイことが起きるということを知ってしまった。何故なら人間の欲望というのは、18世紀のルソーが考えていたよりもはるかに不定形で醜い、組織化されると危険なものだからです。そして、それが様々な政治的問題として表出したのが20世紀前半です。その時に、無意識について考えた思想家であるフロイトが現れた。だから、フロイトをもう一度読み直すことによって、ルソーの理論をアップデートしようじゃないかというのが本書の流れです。

言い替えれば、「一般意志2.0」は集合知批判の本でもある。集合知は無意識です。集合知で決められることには限界があるし、すべて集合知で決めると、世の中は本当に醜いことになってしまう。それにどうやって歯止めをかけるか。それが熟議あるいは専門家の仕事であるべきです。しかし、そもそも密室で決めているのでは話にならない。まず大衆がいかに醜いか、ネットワークによって、いかに無秩序なことが起きるかというのをもっと直視しなければならない。それを可視化するための装置が必要なんだ、という主張なんです。

―「何らかの形で政治にフィードバックされる」という事実によって、Twitter、ニコニコ動画のコメントで発信される「一般意志」が歪んでしまうのではないか、という指摘もあります。

東氏:これは、非常に難しい問題だと思います。最近、ゲーミフィケーションという言葉がありますが、「一般意志2.0」がネット上で可視化できるようになったことで、政治それ自体がゲーム化してしまうのではないかという指摘ですよね。ただ、ゲーム化したほうが、むしろ参加のハードルは下がるし、モチベーションが上がるから良いのではないかという考え方もある。

僕は正直、どっちか決定しかねています。僕はゲーミフィケーション万歳でもないですが、ゲーム化は危険というのも少し単純すぎるかと思います。これについては、もう少し自分の中で考えていきたい。この問題について、著書の中で曖昧だということについて自覚はあります。ただ、見ないふりをしているわけではなくて、ゲーム化したほうがいい可能性もあるので、態度を決定しかねているという状況です。

たとえば、宇野常寛さんや濱野智史さんが言っているAKB48政治システムについても、僕はそれがいいかどうかはまだ判断しかねている状態です。ただ「一般意志2.0」のアイデアが、ゲーミフィケーション、政治のゲーム化と親和性が高いのはまちがいない。

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