
■生活スキルのシェアリングでは国内最大級
ITの生活領域への浸透が進むにとともにシェアリングの可能性が広がっている。今回、紹介するエニタイムズは、生活スキルのシェアリングのためのプラットフォームを提供する企業である。
家事代行のビジネスは各種ある。従前は、家政婦を紹介したり、自社で養成したハウスクリーニングのスタッフを派遣したりするなどの業態が主流だった。近年では、これらに加えて、生活者同士がスキルを有料で提供し合うプラットフォームが、インターネット上に次々と登場している。
とはいえ、この生活スキルのシェアリング事業では、参入した大手企業が撤退するケースも少なくない。従来型のマス・マーケティングの発想では、成長の舵取りが難しい領域だといえる。そのなかにあって、たくみなパッチワーキングで事業の基盤を確立しつつある個人起業家がいる。それがエニタイムズの創業者・角田千佳氏だ。
エニタイムズの創業は2013年。現在では5万人の登録ユーザーをかかえるなど、生活スキルのシェアリングでは国内最大級のプラットフォームに育っている。他社に比べて、自由度が高く、狭義の家事に限定されない幅広い生活スキルのシェアに適したデザインで知られる。
■それぞれの「得意」と「苦手」を組み合わせる
シェアリングは古くて新しい経済のあり方だといえる。図書館という本の共同利用、銭湯という風呂の共同利用など、シェアリングの仕組みは古くからある。これらに対して近年では、ITの進化を受けて、以前は共同利用の機会に出会えずに眠っていた物財やスキルに新たなシェアリングの可能性を見いだし、ビジネス化しようとする動きが生じている。
民泊やカーシェアはその代表例だが、家事などの生活領域の各種のスキルについても、インターネットを活用したシェアリングの動きの拡大が進む。
料理が得意だったり、整理整頓がうまかったりと、生活のなかの特定領域を得意とする人は少なくない。しかし、こうした人たちも、自身の生活に関わる全ての領域に長けているわけではない。ここにシェアリングのプラットフォームの出番がある。例えばガーデニングが苦手な人は、それを得意な人に依頼し、その代わりに誰かの買い物を代行することで費用をまかなう、といったことが可能になる。
■金額決定はサポーターと依頼者の交渉
角田氏は、こうした生活スキルのマッチングに事業機会を見いだし、2013年にエニタイムズを立ちあげた。利用にあたっては。まずはユーザー登録が必要となる。その後は誰もが、仕事をする側(サポーター)、発注する側(依頼者)のどちらの側にもなることができる。登録は個人でも法人でもできる。
エニタイムズには「みんなのリクエスト」というページがある。そこには依頼者が書いた「引っ越しを手伝ってください 5000円」「懇親会の料理をつくってほしい 7500円」といったリクエスト(仕事の依頼)が並んでいる。サポーターはこれらのリクエストを、仕事や地域のカテゴリを絞り込んだりしながら閲覧し、やってみたい仕事が見つかると、その依頼者とコンタクトを取り、金額などの条件の交渉を行う。この交渉の結果、依頼者とサポーターの双方が合意すると、成約となる。
あるいは「みんなのサービス」というページもある。こちらにはサポーターが書き込んだ「エアコンクリーニング 1万円」「買い物代行します 3000円」といったサービス・メニューが並んでいる。依頼者はこれらのメニューを絞り込みながら閲覧し、頼みたいメニューに出会うと、そのサポーターとコンタクトを取り、金額などの条件の交渉を行う。この交渉の結果、サポーターと依頼者の双方が合意すると、成約となる。
エニタイムズではサービスの料金は、サポーターと依頼者がその都度交渉して決定する。現在は1時間2000円くらいでの成約が多いという。依頼者は事前にエニタイムズに料金を支払い、サポーターは仕事を実施した後に15%の使用料を差し引いた金額をエニタイムズから受け取る。支払いをめぐるトラブルの防止にもつながる決済システムである。
さらにエニタイムズでは、登録時に運転免許証などで本人確認を行っているほか、利用後にサポーターと依頼者が相互の評価を開示するなど、安心して利用できる仕組みを整えている。
■想定外の利用者が6割~7割を占める
ユーザーの増加が続くエニタイムズだが、事業を立ち上げていく過程では、いくつもの見込み違いもあった。そのひとつにメインユーザーの性別がある。エニタイムでシェアされるのは、家庭の用事である。そのメインユーザーは女性だと思われがちである。しかし、蓋を開けてみるとユーザーの多くは男性で、現在は利用者の6割が男性だという。
今の日本では、家庭のあり方、男女の役割分担についての見直しが進んでいる。しかしそのなかにあっても、女性には、家事を他人に代行してもらうことへの心理的な抵抗感が強いといわれる。ところが男性には、こうした恥ずかしさがない。そのためにエニタイムズの利用は男性から広がっていったと見られる。
もちろん長期的には、女性の意識も変化していくことが考えられるが、それを待っていては、起業の機会を逸する。エニタイムズは、起業の海にこぎ出すことで、社会の規範による制約のなかに潜在していたユーザーをとらえることに成功している。