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死刑で犯罪は防げない

 ここへ来てオウム事件の確定死刑囚13人が、相次いで全員処刑されてしまった。2020年に向けて慶事が多くなることから、平成のうちに過去の清算を済ませて置くという趣旨があると言われている。汚れ役を押し付けるのに使われたとしたら、平成という時代も、ずいぶん見下して使われたものだと思う。

 もう言い古されているが、死刑という制度は人間の尊厳と両立しない。人を殺すのは重罪だが、だからといって「人を殺した者は死刑に処す」を厳密に実行したら、この世に生存できる者は一人もいなくなってしまう。「ただし法の執行のための殺人は罪に問わない」と例外規定を設けなければならないのは、国家が殺人を制度化しなければならないジレンマを示している。だから世界の文明国の中で、いまだに死刑制度を残しているのは、日本とアメリカの2国だけになった。

 刑法というのは、個人間の怨恨と復讐を、公的な権力の行使によって代行するために作られた。そこで殺人に対する刑罰も死刑から始まったのだが、やがて死刑による威嚇は、殺人事件の抑止には役立たないことがわかってきた。それは、死刑を廃止しても、凶悪事件の増加とは関係しないことによって証明された。つまり死刑制度とは、犯罪抑止よりも、被害者側の復讐意識による部分が大きかったのだ。

 今回のオウム死刑囚の処刑を、被害者の遺族関係者は、どのように受け取っておられるのだろうか。これでよかった、被害者の無念が晴らされたと思われただろうか。それとも、これ以上の犠牲者は望まない、むしろ、なぜこのような事件になったかを、生涯をかけて語り尽くして欲しかったとは思われなかったろうか。

 人の命が尊いことについては議論の余地はない。だとしたら、一時の過誤から犯罪者となった人たちの命は尊くはないのか。その者たちから、生涯をかけた魂の声を聞いてみたいとは思わなかったのか。

 人は、さまざまな理由で犯罪者となる。だが、生きている限りは、日々に心身を入れ替えて変化しつづける。その命を途中で断ち切るのは、人間の可能性の一部分を勝手に切り捨てることではないのか。神でない人間は、勝手に他人の人生の長さを決めてはならないと私は思う。死刑制度は、この国から消滅させるべきだ。

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