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人口オーナス期の日本では男女で差がない頭脳労働の比率を高め、高い付加価値を生み出す必要がある - 「賢人論。」第67回小室淑恵氏(前編)

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2006年に株式会社ワーク・ライフバランスを設立した小室淑恵氏は、これまで900社以上に対して「働き方改革コンサルティング」を実施。残業を大幅に削減しながら業績を拡大するという、神がかり的な成果を積み上げてきた。そうした手腕が買われ、2014年には安倍政権下における産業競争力会議の民間議員に就任。そんな小室氏に、今国会で最も注目を集めている「働き方改革の概要」について解説していただいた。

取材・文/盛田栄一

働き方改革は少子化対策と国際競争を勝ち抜くためにこそ必要

みんなの介護 安倍政権が今国会(第196回)の最重要法案と位置づける「働き方改革」関連法案ですが、今国会中に成立する公算が高まっています(5月23日現在)。小室さんはワーク・ライフバランスの重要性を早くから提唱されていましたが、2016年5月には総理大臣官邸まで出向いて、働き方改革の必要性を安倍首相へ直々にレクチャーなさっていました。今、働き方改革がなぜ必要なのか、改めて解説していただけますか?

厚生労働省のデータによれば、第1子を生んだ女性が第2子を出生するかどうかは、「夫が休日にどれだけ家事を担当するか」にかかっています。夫が家事・育児にまったく参加しない場合、第2子の出生率は11.9%しかないのに、夫が休日に6時間以上家事・育児を担当する場合には80%にまで上昇する。つまり、夫が休日にもっと家事や育児を担当してくれれば、日本の出生率は高まり、子どもが増えるはずです。

みんなの介護 男性が家事に参画することがカギとなるわけですね。

小室 しかし現状では、多くの男性は日々の労働で身も心も疲弊しきっていて、とても家事や育児を行うだけの身体的・精神的余裕がありません。このように、「働くこと」と「子育てすること」のどちらかしか選択できない長時間労働の環境を放置していては、少子化はますます加速してしまうのです。

一方、日本の人口ピラミッドにおいて、団塊の世代の次に大きなボリュームを占めるのは団塊のジュニア世代です。安倍総理にレクチャーした2016年当時、団塊ジュニア世代は37歳から46歳でした。女性の年齢別出生率は45歳を過ぎると0.001%台にまで減少するため、団塊のジュニア世代の女性が出産期を終えるまでに何らかの対策を打たなければ、その後母体数は激減し、日本の少子化は一気に加速してしまうでしょう。だからこそ、少子化対策のためにも、働き方改革は待ったなしで実行されなければなりません。

みんなの介護 少子化対策のためには、早急な働き方改革が必要なんですね。

小室 実は、少子化対策のためだけではなく、日本企業がこれから国際競争を勝ち抜いていくためにも、働き方改革は絶対に必要です。

働き方改革関連法案が成立すれば、時間外労働の上限が月100時間に、2~6ヵ月の平均が80時間に制限されるなど、これまで日本企業で常態化していた長時間労働が大きく是正されます。これはもちろん、労働者の健康を守るためには必要ですが、実は企業側にも大きなメリットがあります。なぜなら、働き方改革を機に、日本企業にも現在の「人口オーナス期」にふさわしい勤務体系を確立するチャンスが生まれるからです。

みんなの介護 「人口オーナス期」はあまり耳慣れない言葉ですが、具体的にはどんな時代を指すのでしょうか?

小室 「人口オーナス期」は「人口ボーナス期」と共に、ハーバード大学のデービッド・ブルーム教授が1990年代から広めています。人口ボーナス期とは、「ある国において出生率が高まり、15〜64歳の生産年齢人口が継続して増え続ける時期」を指します。国内では安い労働力が継続的に増え続けると同時に、消費者である総人口も増え続けるので、内需だけで経済が大きく発展します。

対する人口オーナス期とは、「ある国において、14歳以下と65歳以上の従属人口が増え続ける時期」のこと。年金など社会保障の面において、増え続ける従属人口を減り続ける生産年齢人口で支え続けなければならなくなりますから、経済発展の大きな阻害要因になります。ちなみにオーナス(onus)は「重荷・負担」を表す英語で、日本は1990年代中盤以降、すでに人口オーナス期に突入しています。

過去の成功体験が”多様で効率の良い”働き方を阻害する

みんなの介護 人口ボーナス期と人口オーナス期とでは、適した働き方に違いがあるということでしょうか?

小室 当然、ふさわしい働き方のパターンには違いがあります。人口ボーナス期、すなわち日本の高度成長期のように生産年齢人口が年々増え続けていく局面では、拡大し続ける国内需要へ応えるために安い労働力を使って、安価な製品を素早く大量に生産し続けることが求められます。産業構造で言えば、鉱業・建設業・製造業といった第二次産業が中心になりますね。

こうした局面で必要になる労働力の特徴をキーワードで示せば、「男性・長時間・同質性」となります。重工業など第二次産業中心の職場では、女性より筋力のある男性に数多く働いてもらったほうが効率が良い。また、製品を大量生産し続ける現場では、労働者にできるだけ長時間働いてもらったほうが業績向上につながります。

みんなの介護 パワープレイというわけですね。

小室 その際、労働者にはマスゲームのように、他の労働者とできるだけ同じように動いてもらう必要がある。つまり、高度成長期のような大量生産・大量消費の時代には、主に男性が長時間、同質性をもって働くほうが理にかなっていたわけです。

しかし、このような人口ボーナス期は永久には続きません。経済成長が長く続いた国には、富裕層が多く生まれます。富裕層は子どもの教育に投資するため、国民の多くが高学歴化します。国民が高学歴化すると、男女ともに晩婚化し、出産年齢も後ろ倒しになるため、少子化が進みます。また、高学歴化によって人件費が高騰するため、製造業など仕事の多くは安い労働力の国に奪われます。その一方で、医療や社会保障システムは充実していくため、高齢化が進みます。こうして人口ボーナス期を終えた国は、人口オーナス期へと否応なく移行していきます。

みんなの介護 現在の日本が、まさにその状態ですね。人口オーナス期には、どのような働き方が求められるのでしょうか?

小室 人口オーナス期に求められる働き方をキーワードで示せば、「男女・効率・多様性」となるでしょう。まず、人口オーナス期は生産年齢人口が減り続けるため、恒常的な人手不足になります。すると当然、男性だけでなく、女性にも働いてもらわなければなりません。人口オーナス期には情報通信・販売・金融などのサービス業全般が盛んになりますから、頭脳労働の比率が高まり、男女で差が出ない仕事が増えます。

つまり人口オーナス期には、男女分け隔てなく、それぞれの能力を活かして働いてもらわなければなりません。一方、人件費が高騰しているため、企業が業績を上げるには、労働者に短時間で効率よく仕事の成果を上げてもらう必要があります。

みんなの介護 ”ボーナス期”とは真逆の印象です。

小室 さらに、人口オーナス期の市場は成熟しており、消費者の嗜好やライフスタイルが多様化しています。こうした市場に受け入れられる商品やサービスを提供するには、提供する企業の側で、付加価値の高いイノベーションを起こしていかなければなりません。安いものを大量に売るのではなく、高価なものを少しだけ売るビジネスへと転換が求められるわけですね。

ところが、こうしたイノベーションは、同質の人々が集まる組織や集団からは生まれにくい。これまで市場になかった商品やサービスについてのアイディアは、性別・キャリア・価値観の異なる人々がフラットに議論することではじめて創出されるもの。つまり人口オーナス期には、働き手にも多様性が求められるのです。

みんなの介護 そこで「男女・効率良く・多様性」というキーワードが出てくるわけですね。人口オーナス期にある現在の日本で、そうした働き方は実現しているのでしょうか?

小室 残念ながら、まだ道半ばですね。なぜなら、人口ボーナス期の経済成長を「成功体験」と捉えている人が少なくないからです。高度成長期には確かに、「男性・長時間・同質性」という働き方が成果を上げていました。そのため、多くの人が「これこそが成功モデルだ」と誤解してしまい、未だにその働き方から抜け出せずにいます。

しかし、少子高齢化が急速に進展している人口オーナス期の日本に、従来の働き方はふさわしくありません。労働者の健康をいたずらに阻害するだけでなく、企業が利益を上げにくい働き方になってしまっている。次々とイノベーションを起こし、日本企業の国際競争力を高めるためにも、「男女・効率良く・多様性」への転換がぜひとも必要なのです。

働き方改革関連法案が成立すれば、労働者に長時間労働を強いる企業には罰則が科せられますから、企業としても、これまでの働かせ方を見直さざるを得ない。それが人口オーナス期にふさわしい働き方へ転換するきっかけになればと、期待しています。

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