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元オウム真理教信者、広瀬健一死刑囚の手記について

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ども宇佐美です。
どうやら本日オウム真理教関係の残り6人の死刑囚(岡崎一明、横山真人、端本悟、林泰男、豊田亨、広瀬健一)の死刑が執行されたようです。

この6人の中でとりわけ私が興味を惹かれるのは広瀬健一死刑囚です。(刑が執行されましたが、このように呼ばせていただきます。)広瀬死刑囚は1964年生まれで、早稲田大学の付属校から早稲田大学理工学部応用物理学科に進学し、同学部を首席で卒業し総代を務め、その後同大大学院に進学し超電導分野で研究成果を上げさらに大手電機企業への就職も決まっていました。しかし、1988年3月にオウム真理教に入信、1989年に出家し、その後は教団武装化のキーマンとして自動小銃密造などに携わり、地下鉄サリン事件の実行犯として逮捕され、死刑判決を受けました。

具体的な時期はわかりませんが、広瀬死刑囚は事件後オウム真理教から脱会し、教団が起こした事件に対する反省の意思を述べるようになりました。これほど優秀な人物が、なぜオウム真理教に入信し、また、テロ事件を起こすに至ったのか、私はどうしても知りたかったのですが、幸か不幸か彼はその点について詳細な手記を残しています。

http://ww4.tiki.ne.jp/~enkoji/hirosesyuki.html

広瀬死刑囚は刑の執行を受けて罪を償った立場ですから、本日は彼の冥福を祈り、また二度と地下鉄サリン事件のようなテロ事件が起きないよう実行犯の立場からの教訓を残す意味を込めて、その手記の中で印象深かった記述を簡単に補足しつつ抜粋してまとめておこうと思います。(注釈は「オウム真理教大辞典」を参考にしています)

以下広瀬健一死刑囚の手記からの引用です。


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<①なぜオウム 入信したのか、という点について>
→「入信の原因は、麻原の書著を読んだところ、それに記載の宗教的経験(クンダリニーの覚醒*1)を伴った突然の宗教的回心*2が起き、オウムの教義の世界観が現実として感じられるようになったことです。」

*1:オウム真理教の教義上の概念で尾てい骨に眠っているとされるエネルギー
*2:宗教精神学(Pastoral Psychology)では宗教的回心を経た回心者について「回心者は神学的体系や社会的システムの全体を無垢に受容する。自身の宗教的経験を検討し、疑う動機を奪われる。過度に、非理性的に強い信念を抱く」とする。


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<②物理の専門家として麻原の空中浮遊は不自然とは思わなかったのか?>
→「私が信徒時に、空中浮揚を信じていたのは事実です。突然の宗教的回心によって、私はオウムのあらゆる教義を強く受容するようになったのです。このタイプの回心においては、常識に反する教義でも強く受容されると多くの文献で指摘されていますが、私もその例外ではありませんでした。もちろん回心前の私は、解脱・悟りの教義と、経験的に教義を検証するオウムの姿勢(これは見かけだけのものでしたが)とに関心を持ったものの、教義の大部分は半ばフィクションのようにしか感じられませんでした。

ところが突然、私にとってオウムの教義の世界観は現実と化したのです。なお、「空中浮揚は慣性の法則に反する」という論理では、空中浮揚を否定できません。既知の物理法則を超える法則の存在は、〝論理によっては〟否定できないのです。つまり物理法則は、それが見かけ上成立する領域(条件)が不明な部分があるのです。ですから、ある領域において現象が未知の法則に支配される可能性は否定できません。言い換えると、物理法則は常に成立するものとして定義できないのです。それは、ニュートンの運動法則を超える相対論、量子力学・場の量子論が発見されて発展してきた物理学の歴史が示すとおりです。」

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<③麻原の指示に従って違法行為をするのに葛藤はあったか?>
→「すべての信徒ではないかもしれませんが、ほとんどの信徒が葛藤なく指示に従ったのではないでしょうか。それだけ完全に、信徒は世界観――価値観や規範意識を含む――が教義に沿うものに変容しているように見受けられました。〜私は第一審時に共犯者の公判で、次の趣旨の供述もしました。
「指示が私の存在していた宗教的世界観に合致していたので、従わなくてはならないと強く思ったということではない。その指示自体が自然に、違和感なく受け入れられる状態になっていた」

「サリン袋を傘で刺すときためらいはなく、感情を抑えることもなく、してはいけないことだとも思わなかった」
前者の供述は、地下鉄サリン事件の指示について、〝麻原の指示だから自身の意思に反しても従わなければならないと思ったということではなく、ヴァジラヤーナ*3の救済のための当然の指示と感じた〟という意味です。当時、私は教義の世界で生きている状態でした。このように、誠に非道なことでしたが、私は葛藤なく麻原の指示に従っていました。」

*3:グルの意思をすべての事柄より優先させる修行。オウム 内部ではグルとは麻原のみをさす。

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<④麻原およびオウム真理教信者はなぜ一連のテロ事件を起こしたのか?>
→「私が知る限りにおいて、直接動機として説得力を持つのは、麻原の宗教的経験――アビラケツノミコトとして戦えと神から啓示を受けた経験*4――以外にありません。宗教的経験に思考・行動が強く影響される状況は、オウムの信徒についてもそのままあてはまりました。信徒もまた、幻覚的な宗教的経験が豊富だったのです。信徒は教義どおりの宗教的経験をしていたために、教義の世界観を現実のこととして認識していました。現代人が三悪趣*5に転生することも、それを救済する能力を麻原が具有することも、麻原の説く教えは一切が現実でした。そのために信徒は、破壊的活動を命じる麻原の指示に従ったのです。人々の救済と認識して。」

*4:1985年5月に麻原は「神に西暦二一〇〇年から二二〇〇年頃にシャンバラ(理想郷)が地上に興ることを告げられ、またその実現のために麻原がアビラケツノミコトとして戦うように命じられた」としている。
*5:オウム真理教の教義上、人間界より低いとされる、地獄界、動物界、餓鬼界、を総称してこう呼ぶ。


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<⑤オウム の教義の特異性について>
→「時間の経過につれて(伝統的な)宗教・思想は、教義が理論的に精緻になる一方、一部の実践的な要素は欠落していきました。そのために今や、教義は信者にとって、直接的な経験とは乖離しがちになり、現実性という影響力が減衰していると言っても過言ではないでしょう。たとえば、来世の転生先を本気で心配する信者は稀ではないでしょうか。それに対してオウムの教義・修行の体系においては、原始的な実践が復活していました。そのため信徒にとっては、主要な教義は経験可能でした。結果として信徒は、教義を目で見、手で触れることができるような現実として認識するようになり、思考・行動が教義に沿うものになったのです。人が通常、自身の周囲に存在する〝現実〟に適応して思考・行動するように。実際信徒は、教義の世界観に対する現実感がこの世に対するそれを凌駕すると、一般社会から離脱して出家していきました。」

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