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熊本地震・被災首長9人が語った「任せて任さず」の教訓 葛藤を抱えたリーダーの実像 - 中澤幸介

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朝の出勤ラッシュを突然襲った大阪北部を震源とした地震。そして、西日本全体に大きな被害を与えた7月豪雨と、災害が続いている。危機発生時、組織を統率するリーダーはどのようなことを心掛けて指示をすべきか。

昨年末、熊本県から「熊本地震への対応に係る検証アドバイザー」に任命され、熊本県知事と8市町村長にインタビューを行った。この中で見えてきたことは、災害対策本部として庁舎が使えなくなるなど、これまで直面したことがない過酷な状況下で、いかに部下や外部機関に業務を任せたか、その「任せ方」が、災害対応のさまざまな局面で明暗をわけたということだ。

松下幸之助が「任せて任さず」と言ったように、あらゆる組織において「任せ方」は、マネジメントの根幹であり、最も難しい点でもある。特に、災害時は、「任せられなかった」「任せたけど失敗した」では許されない。各首長のオーラルヒストリーは「熊本地震の発災4か月以降の復旧・復興の取組に関する検証報告書」に収録・公開されているため、本稿では首長の「任せて任さず」の対応を検証してみたい。

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本震で本庁舎が半壊し、テントで災害対応業務を行う熊本県宇土市の職員(JIJI)

現場への信頼なくして正しい決断はできない

熊本地震において、最も揺れが大きかった益城町は、前震とされる2016年4月14日の地震発生後に、多くの住民が避難所に押し掛けた。総合体育館では人々が廊下に溢れ出て、「なぜメインアリーナに入れないのか」との批判を浴びせる中、西村博則町長は、現場の職員から上がってきた「天井の一部が壊れている」との報告を受け、メインアリーナには避難者を入れない決断を下した。

2日後に発生した本震では、メインアリーナの天井が崩落した。もし批判の声に押されて、現場の意見を無視していたら取り返しのつかない惨劇になっていたはずだ。町長がこの職員の報告を信じたのは、その職員を信頼して現場を任せていたからだ。

もっとも、現場の判断が正しいと思っても、他の状況も踏まえて、あえて別の決断をしなければならない場合もある。

現場とトップの「ものさし」を合わせる

現場に「任せる」上で、もう1つ注意すべきは、現場とトップの判断基準の「ものさし」を合わせることだ。安全性なのか、不満を無くすことなのか、風評を防ぐことなのか、その優先順位も双方で合っていないといけない。当然ではあるが、初動期において最優先すべきは命に関わる安全性で、次いで被害拡大の防止、その上で財産や利便性という順位になる。

しかし、災害現場では、そう簡単に優先順位がつけられない局面が次々に発生する。どの避難所を優先して水や食料を配布するのか、誰から先に仮設住宅に入ってもらうのか。こうした優先順位を測るものさしに対する被災者の目は厳しくトラブルになりやすい。

こうした点を解決するには、一にも二にもコミュニケーションしかない。西原村の日置和彦村長は、より多くの職員の声が聞けるように対策本部を1階の広い場所に移し、それぞれの避難場所でどういう対応をしているか、課題が何かを報告させたという。対策本部の空間を広くとることは情報共有をするために重要なことだ。

またトップは目先の対応だけでなく、長期的な視点で施策を考えなければならない。しかし、ここで現場とのズレが生じやすい。熊本県の蒲島郁夫知事は、本震後の早い段階で、職員に対して復旧・復興にあたり「被災された方々の痛みを最小化すること。単に元あった姿に戻すだけでなく、創造的復興(Build Back Better)を目指すこと。復旧・復興を熊本のさらなる発展につなげること」の3つの原則を示した。

その時のことについて知事は「マスコミあるいは職員の目も、少し冷ややかだった」と振り返ったが、これは、その時点でのものさしが合っていなかったということだろう。

企業においてもトップと現場の意識のズレは生じやすいが、これを解決するのもやはりコミュニケーションということになる。

2つの顔を持つ首長 トップは本部を離れるな

現場に任せられないトップは、自ら現地に出向く。ただ、単に現場を信じられないという理由だけではない。例えば宇城市の守田憲史市長は、対策本部を離れることはなかったが「私は市民から選ばれた政治家ですから、現場に出向いて〝安心してください〟と言わなくてはいけなかったのではないか」と当時の葛藤を打ち明けてくれた。

首長は災害対応にあたる行政機関のトップとしての顔と、選挙で選ばれた市民の代表としての顔の2つを持っている。もちろん、災害対応の指揮を優先すべきだが、それでも現地に出向くというなら、対策本部の指揮権限を委譲すべきだろう。

蒲島知事は「初動における指揮を、自衛隊OBの危機管理防災企画監に任せた」と言う。自分ができないことや、自分が行う以上によい結果が望めるのであれば、指揮権を移譲することは間違いではない。

ただし、そのタイミングがあまりにも早すぎたり、指揮権の委譲が場当たり的に行われたりしたとしたら、対策本部長としての資質が逆に問われることになりかねない。

また、首長がわざわざ現地に出向かなくても、市民に対してSNSを通じて情報発信できる時代である。熊本市の大西一史市長も被災時にSNSによる積極的な情報発信を行った一人だ。一方で、「任せる」という観点からすると、SNSを活用した情報発信をする際には、タイミングや、他の職員への事前の周知に注意を払う必要がある。

大西市長は、平時からSNSを利用していたことに加え、災害時に発信する際には、担当部局に確認し、すでにホームページに掲載していることを発信するよう心掛けたと言う。もし仮に、災害が発生してから、いきなりトップがツイッターを始めたら現場は混乱しかねない。広報担当や現場職員は自分が「任されていない」と感じ、トップに不信を抱くようになってくる。

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