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異動の7割は「希望通りにいかない」法則

「人事異動で、まったく畑違いの部署に移ることに」「ずっと異動希望を出し続けているが、まったく通らない」……。自分のキャリアパスにこんな悩みをもつ人は多いのではないでしょうか。JT(日本たばこ産業)の元執行役員で、人材採用を長く担った米田靖之氏は、「人事異動は、基本的には“望まない形”になる。なぜなら、能力が上がるほど自分が望む仕事ではなく、仕事のほうから選ばれてしまうからだ」と解説します――。

※本稿は、米田靖之『JTの変人採用』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■人事異動はそもそも「望まない形」になるもの

読者のなかには、いま所属している部署に不満がある人もいるかもしれません。「仕事がおもしろくないのは、本当は別の部署で、別の仕事をしたいからだ」と考えているかもしれません。異動を希望しようと考えている人もいるでしょう。あるいは「望まない人事」に落ち込み、やる気をなくしている人もいるでしょう。

写真=iStock.com/marchmeena29

また、就活に励む学生であればみんな、自分のやりたい仕事を思い描いて、会社を選ぼうとします。でもみんながみんな、望んだ職種で働けるわけではありません。

しかし、こうしたことは、実は当たり前のことです。入社後の配属も、その後の異動も、「希望通りにいかないもの」なのです。

私自身、希望が通ったのは、アメリカへ研修に行けたことだけ。あとは希望とはまったく違う人事ばかりでした。

■「そのうち希望が通るだろう」は大きな誤解

最初からして、東京に近い小田原工場に行きたかったのに関西工場だったし、アメリカ研修から帰国した後は本社で新規事業に関われると思ったら、まさかの人事部に異動。その後のM&Aのチームにしろ、製品開発にしろ、研究所にしろ、思いもよらない、まったく未経験の部署を転々としてきました。

若手のなかには、「いまはムリでも、経験を重ねて力をつければ、希望が通るだろう」と期待している人もいると思いますが、それは大きな誤解です。

若いうちは力がなくて希望が通らないし、力をつけてきたら今度は希望していない「仕事から」選ばれることになるからです。力のある人に対しては、好むと好まざるとにかかわらず、仕事のほうが「この人」と決めるので、結局、自分の希望は通らない、ということです。

つまり、「異動の7~8割は、本人の希望とは別の方向に行く」というのが、私の経験から導き出した「人事異動の法則」です。

会社の人事というのは非常に単純で、言うなればジグソーパズルのようなもの。たとえばポジションが二つあって、ピースが二つあるときに、どっちをどっちにはめたら組織にとっての成果が最大化できるかを考えて、それを実行するだけなのです。基本的には、そこに個人の希望が入る余地はありません。

そもそもポジションに空きがなければ希望は通らないし、空きがあったとしても、人事が「この人は別の部署に配置するほうが力を発揮してくれそうだ」と考えれば、そっちに配属される。それだけの話です。だからむしろ、希望が通らないことをそう重く考えることはないのです。

■周りの人が「なるほど」と思うのがいい人事

みなさんを落胆させようとして言っているのではありません。いい人事とは、本人にとっては予想外で、周りの人は納得する人事です。むしろ、人事異動において個人の希望が通る会社は危ないとさえ思っています。

もっと言えば、職種別採用だって危ない面があります。まだ仕事をやったことがないのに、自分に合った仕事かどうかがわかるわけないですよね。それなのに学生に選ばせたところで、「ハズレ」である場合がほとんどです。

実際に昔、「学生の売り手市場で、なかなかいい人材が採れない」ときに、ある会社が苦し紛れに「理系の人は全員、研究所に配属します」という策を打ったことがあります。でも理系だからといって、みんなが研究に向いているというわけではありません。配属されてから、成果をあげられるかどうかも未知数です。案の定、その取り組みは失敗して、2、3年でやめたようです。

■「正しいと思い込む」のが得策

ただし、強い希望があるなら、一応は主張してみてもいいでしょう。何人かの候補がいたとして、人事としては「誰でもいい」「どこに配置してもいい」というようなシチュエーションも稀にはあるからです。

それでもし希望が通れば「やった!」と喜ぶ。通らなかったとしても、「人事の判断が正しい」と思い込む。そういう姿勢でいるのが良いように思います。そのほうが「望まない人事」に心を煩わすこともなくなるでしょう。

現実問題、人事の判断が正しいかどうかはわかりませんが、少なくとも本人より人事のほうが全体のことをわかって配置しているので、ここは「正しいと思い込む」のが得策なのです。

■「無駄なキャリアパス」などない

それに望まない人事であっても、そこの仕事は必ずおもしろくなります(することができます)。

米田靖之『JTの変人採用』(KADOKAWA)

自分では気づかなかった潜在能力が開花する場合だって、少なくないのです。私もR&D部門に異動になったときは驚きました。従来、研究開発の経験のある人がついたポジションでしたから、「上の人も変なところに目をつけるな」と思ったことを覚えています。

そのときは「なぜ私が?」と直接聞きはしませんでしたが、おそらくR&Dのまじめな雰囲気を変えるというか、会社が将来に向けてたばこ以外の何か新しいところを狙おうとしているタイミングだったから、「やらせてみようか」となったのでしょう。

たまたま私はそれまで「仕掛ける仕事」を多くしてきたので、タイミングが合っていたのかもしれません。

人によって得意なことはさまざまです。仕掛けるのが得意な人、きちんと継続させるのが得意な人、ゴールに持っていくのが得意な人……それぞれ向き・不向きがあります。そういうところも見て、人事はうまく配置することを考えるのだと思います。

そういった経験を通して、「ムダなキャリアパスはない」と実感しています。配属されたその場でがんばる、それが一番ではないでしょうか。

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米田靖之
元JT執行役員(R&D責任者)
1982年、日本専売公社(現JT)入社。人事部長、製品開発部長、たばこ中央研究所長を経て、2012年に執行役員 R&D責任者に就任。2015年末に退任し、現在は複数社のアドバイザーを務める。
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(元JT執行役員 R&D責任者 米田 靖之 写真=iStock.com)

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