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ミドリムシを燃料にジャンボ機を飛ばす男

■ただ「ミドリムシで飛ばします」とだけ訴える

私は「社員」という言葉を口にすることはありません。その代わりに「仲間」と言います。ユーグレナに入ったばかりの人たちは「新入仲間(しんにゅうなかま)」です。「ミドリムシで地球を救おう!」なんて、そんな突拍子もないことを一緒に頑張れるのは、単なる社員ではなく、特別な仲間だからです。

ユーグレナ社長 出雲 充氏

大切な本質は細部に表れます。「気は心」と言うように、気持ちが本当にこもっていれば、言葉づかいのわずかな違いにもこだわりが出てきます。逆に細部をおろそかにすると、敵が増えるのかもしれません。

ただ、私がはじめ社内で「新入仲間」「中途仲間」と呼んでいると、新人たちは返事に困った顔をするし、周りのみんなも恥ずかしそうでした。それが最近では、職場の会話で自然と「仲間」と口にする人たちが増えています。

普通と違うこと、前例のないことは誰でも恥ずかしいものです。しかし、そこで躊躇したらいけません。イノベーションも新しいビジネスも前例がないところに生まれるのです。

恥をかける人は、絶対に味方ができます。私は体験的にそう確信しています。

たとえば「ミドリムシを燃料にしてジャンボジェット機を飛ばします」と話したら、たいてい相手は呆気にとられます。緑色のネクタイを締めた男が訪ねてきて、いきなりそんなことを言えば「こいつ、大丈夫か?」と思うのが普通でしょう。でも私は科学的に自信があるから、ひるむことなく説明を続けます。そこで大切なのは「これとこれが整ったら……」と条件をつけないこと。ただ「ミドリムシで飛ばします」とだけ訴える。守りの姿勢であれこれ条件を言い出せば、自信がないと思われるし、せっかくの画期的なアイデアもインパクトは半減します。

■「この間、ミドリムシが来たよ」「あっ、うちにも来た」

私がそうやって大企業をまわるから、経営者たちのゴルフなどで「この間、ミドリムシが来たよ」「あっ、うちにも来た」と話題になる。もし地味な服装の銀行員が「これから円高・ドル安に向かいます」と当たり障りのない話を説明してまわっていたら、誰も話題にしないでしょう。私たちのプロジェクトにはいまや全日空、いすゞ自動車、千代田化工建設、伊藤忠エネクスといった名だたる企業が参画しています。これも私が率先して恥をかいたから。本当に自信があるならば、自分から恥をかくつもりで臨めば必ず味方ができます。

こう話すと「自分もプレゼンしてまわったけど全然ダメでした」と言われることがあります。それで何社ぐらい訪問したかを尋ねると、たいてい5社や6社で諦めています。私はこの仕事を始めて最初の2年間で500社をまわりました。まだ誰もミドリムシのことを知らない頃ですから、門前払いが当たり前です。私だって恥をかくのは嫌ですから、心が折れそうになったことは何度もあります。

そういうときに帰りの電車でカバンから取り出すのが、お客さまから初めていただいた一枚のファクスでした。「ミドリムシを飲み続けて健康になりました」という感謝のお手紙です。原本はすぐボロボロになるから、何度もコピーしてクリアファイルに入れて持ち歩きました。

出雲社長が心の師と崇めるムハマド・ユヌスさんとの2ショット写真。いつも持ち歩き、味方を増やすために恥をかくのが辛くなったとき、何度も見返すのだという。

このファイルはいまも必ずカバンに入れていますが、私に元気をくれるアイテムはその後どんどん増えました。501社目に訪問した伊藤忠商事が出資してくださったあとは、同社から最初の振り込みがあった銀行通帳のページをコピーして持ち歩くようになりました。最初は振込金額の書いてある受領証を持ち歩いていたのですが、感熱紙で次第に紙が変色してきてしまったので、途中からは通帳のコピーに切り替えたのです。

ノーベル平和賞を受賞した経済学者のムハマド・ユヌスさんと撮った2ショット写真も元気アイテムのひとつです。ユヌスさんは77歳になった現在も世界から貧困と失業とCO2排出をゼロにするために頑張っている。寝る間を惜しんで活動されている。それなのに、30代の自分がへこたれている場合じゃない、と思うのです。お客さまからのファクス、通帳のコピー、ユヌスさんとの写真は、1年365日、海外出張でも肌身離さず持ち歩く“三種の神器”です。

■ネクタイも紐も靴下も「グリーン」で統一

率先して恥をかくのは、もちろん厚顔無恥に振る舞うことではありません。私は初対面の方に会う前は、相当に準備していきます。著書がある方なら、重要な部分を記憶するぐらい読み込んでいきます。そして実際に会ってみて、その方がすすめてくれたものは何でも実践してみます。おすすめの本を読み、おすすめのお店に足を運びます。

たとえばグロービス経営大学院学長の堀義人さんからは「経営者なら囲碁をやりなさい」とすすめられて、3年前のクリスマスイブに東京・麹町の「ダイヤモンド囲碁サロン」で手ほどきを受けました。それから囲碁が面白くなって、棋士と人工知能が対局したニュースに熱中するなど、世界が広がりました。

三菱ケミカルホールディングス会長で経済同友会代表幹事の小林喜光さんからは、留学時にイスラエルで経営を学んだという話を聞いていました。それで私も「いつかイスラエルに行こう」と決めていて、2016年、実際にイスラエルに行ったのです。幸いにも現地での様子が雑誌で取り上げられ、それを見た小林さんから手紙が届きました。「イスラエルのことを覚えていて、現地で学んできてくれたのは本当に嬉しい。今度イスラエルの話をしよう。ベンチャー頑張れ」と。私にとってこんなに嬉しくて、学びになることはありません。

尊敬する人から何かすすめられたときは、食わず嫌いで聞き流すのではなく、必ず実践する。なかには「そんなこと言ったっけ」と忘れている人もいますが、それぐらい些細なことでも私が実践したと知ればとても喜ばれ、信頼関係は深まります。これも細部を大切にすることなのです。

自分から率先して恥をかくことで懐に飛び込み、相手の話を真摯に受け止めて自分のものにする。そうすれば本当の味方、本当の仲間はどんどん増えていくと思います。

▼出雲社長のマナー5
1 会話で「聞く」と「話す」の比率は?
5対5
2 社内・社外の会食の頻度は?
社内:月2回 社外:月8回
3 定番にしている手土産は?
基本的になし。たまにミドリムシ商品を渡す
4 ビジネスファッションのこだわりは?
ネクタイ、靴紐、靴下はグリーン
5 会食のお礼は「メール」「手紙」「電話」のどれか?
手紙

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出雲 充(いずも・みつる)
ユーグレナ社長
1980年、広島県生まれ。東京大学農学部卒業後、東京三菱銀行(当時)に入行。2005年、ユーグレナ創業。同年12月には世界ではじめてミドリムシの屋外大量培養に成功。12年、世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出。15年、第1回日本ベンチャー大賞にて「内閣総理大臣賞」受賞。

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(ユーグレナ社長 出雲 充 構成=Top Communication 撮影=三浦咲恵)

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