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杉田議員の新潮45コラムについての雑感

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物議を醸している新潮45の2018年8月号「「LGBT」支援の度が過ぎる」と題されたコラム(P.57~60)。だいぶ批判もされているし抗議も入っているようではありますが、ざっと読んだ感想と所感をまとめておこうと思います。

結論から言えば、杉田議員は「支援の度が過ぎる」どころか持論の中で少なくともなんらかの支援が必要であろう理由を自身で展開しておられるので、そのあたりを踏まえて考察していくことにしたい。

 最近の報道の背後にうかがわれるのは、彼ら彼女らの権利を守ることに加えて、LGBTへの差別をなくし、その生きづらさを解消してあげよう、そして多様な生き方を認めてあげようという考え方です(P.57~58)

まず大前提として、この考え方は報道のスタンスだけではなく、自民党や現政権の提言の中にも見られる考え方であり、今一度自身が属する党が建前、表向きどのようなことを述べているのかを参照されると良いでしょう。

(7)社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者等の活躍支援

社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者(発達障害者など)等に対して、個々人の特性に応じて将来の目指すべき姿を描きながら、医療、福祉、教育、進路選択、中退からの再チャレンジ、就労などについて、専門機関が連携して伴走型の支援に取り組む。若年無業者等についても、ハローワーク、地域若者サポートステーション、自治体、NPO 等の関係機関が連携して、就労・自立に向けた支援に取り組む。さらに、性的指向、性自認に関する正しい理解を促進するとともに、社会全体が多様性を受け入れる環境づくりを進める。(※太字は私が付与)

この文言は平成28年6月の「ニッポン一億総活躍プラン(案)」の中に盛り込まれた文言です。若者対策という限られた文脈での文言ではありますが、閣議決定案としてこのような文言が盛り込まれる必要があるという現状認識は閣議決定レベルで存在していたことになります。なお、この文言が盛り込まれた経緯については、他ならない与党自民党自身が「わが党からの申し入れを踏まえつつ、(略)多様性を受容する社会を目指す旨が盛り込まれました。」と仰っておられるわけです。

少なくとも現状において「十分に受容されているわけではない」との認識が無ければこのような文言を敢えて入れることは必要なかったでありましょう。限定的文脈であるとはいえ、このような提言は少なくとも2年前には自民党を通じて閣議の場に持ち込まれる程度の大前提の認識であると考えた方が宜しいのではないかと考えます。

 そもそも日本には、同性愛の人たちに対して「非国民だ!」という風潮はありません。(略)日本の社会では歴史を紐解いても、そのような迫害の歴史はありませんでした。むしろ寛容な社会だったことが窺えます。(P.58 )

この点については前掲の自民党の認識とほぼ同一のものであるため、党の見解から大きく外れるものではないでしょう。確かに明治初期の一時数年ほど事実上の男性同性性交を対象とした刑法罰が設定されましたが一時のものであり、杉田議員の指摘にあるように宗教文脈的ベースとして同性愛や異性装が歴史的に統治側の要請として積極的禁止を受けた直接的な事例は多くはありません。あくまで表面的に見ればですが。

ただし、各準公的施設や教育委員会といった末端レベルでは「異質/異常である」との認識が大義名分として持ち出される程度には「現場レベルでの差別」の実態は事実つい最近まで存在したわけで、東京都青年の家事件(訴訟)を引き起こしたのが「健全な育成にとって、正しいとはいえない影響」「秩序を乱す恐れがあると認められる者」という施設側、教育委員会側の抗弁であり、それを地裁が「従来同性愛者は社会の偏見の中で孤立を強いられ、自分の性的指向について悩んだり、苦しんだりしてきた」としてその行政措置を否定した結果、都側がさらに高裁へほぼ同様の理由で控訴し、高裁でさらに踏み込んで「行政側の怠慢・無理解」とまで断じられて敗訴した、恐らく本邦で一番有名であろう事例があります。

確かに「死刑」に処せられたり「国外追放」されたりといった露骨且つ陰惨で明瞭な弾圧ではなかったかもしれませんが、同時に「そこまで寛容でもなかった」とは言えるとも考えます。この訴訟が結審したのはたかだか20年前のことです。

欧米と日本とでは、そもそも社会構造が違うのです。(P.58)

という指摘は、同性愛を法的に禁止し刑事罰で取り締まってきた国・社会とは確かに歴史的に違う部分もあるでしょうが、同時に積極的に禁止・弾圧してこなかった分、末端レベルでの差別に対してどうしても動きが鈍くなるという事実もあるでしょう。上記訴訟はまさにその一例であります。

 LGBT当時者の方たちから聞いた話によれば、生きづらさの観点でいえば、社会的差別云々よりも、自分たちの親が理解してくれないことの方がつらいと言います。親は自分たちの子供が、自分たちと同じように結婚して、やがて子供をもうけてくれると信じています。だから、子供が同性愛者だと分かると、すごいショックを受ける。

これは制度を変えることでどうにかなるものではありません。(P.58)

確かにこれは制度を弄るだけで解決する問題ではありません。同時に一番身近で本来エンパワメントしてくれる(とされている)親から拒絶を受けることがどれだけ心の傷となり、それがネガティブな影響を与え得るか、杉田議員がまったく認識していないことは無いと私は思います。杉田議員の言葉を借りるなら、「子どもはみんなお母さんといたいもの。」という切実な希求を、保育園への託児を否定してまで強く案じておられるわけですから、この親から否定される強烈なインパクトに対して何等の支援も必要としないと認識されているとすると、「子供のことを本当に案じているのか」と心配になります。

この親からの拒絶を解消していく一助は間違いなく親世代への啓発でしょう。「子供が安心して家庭にいられる社会」を構築するためには、この点は積極的に啓発する道理さえあります。保育政策に対する杉田議員の姿勢に同意するものではありませんが、可能な限り親から拒絶されたり虐待されるような子供を減らしていくべきだ、社会の基本単位の一つが家族だ、ということであれば、せっかくこのような貴重なヒアリングをされているのですから、ご自身の主張にしっかり落とし込んで頂きたいと思います。

海外では、欧米ではという話を好まれないということですので、本邦の連合が調査した結果の要旨をまとめてみると以下のような結論になります(2016年インターネット調査/全国の20歳~59歳の有職男女1,000名)。

1 「他の人と変わらない」が5割弱、次いで「大変な差別を受けている」認識が4割強
2 年代が上がるにつれ「普通の職場にはいない」「抵抗感がある」との認識が強まる
3 身近にLGBTがいると認識しているほど抵抗感が弱くなる
4 身近にLGBTがいると認識しているほどハラスメント・差別・不利益を得ていると認識している率が高まる
5 男性は女性よりもネガティブな印象を抱きがちである
6 管理職ほどトランスジェンダーへの配慮は必要ないと認識しがちである

これらの結果は、法的禁止といった文字通りの弾圧ではなく、実社会の生活レベルにおいていまだに根強い抵抗感が残っており、それも企業の管理職といった社会に包摂すべく企業を動かす側、そして上司上職になることが多いであろう男性年代高めの側が相対的にマイナスの印象をより強く持っていることを示唆しています。

もしこれらの現状に対して「行政が動いて啓発する必要もない」と考えているのであれば、「女性は管理職に向かない」といった歴然とした女性差別も「私企業の行動」であり「行政が動くべきではない」となるはずですが、男女共同参画や一億総活躍という施策目標は勿論「行政が動く」方向で進んでいます。付言するならば自治体レベルのLGBT施策の少なからずはこの「男女共同参画」に付随する形で言及されることがしばしばであることも少し調べればお分かり頂けると思います。これらの諸点を勘案すると、

職場でも仕事さえできれば問題ありません。多くの人にとっても同じではないでしょうか?(P.58)

という言及については、少なくとも直近の調査では必ずしもそのような傾向は見受けられないと考えます。ご自身の肌感覚でなく、少なくとも統計として取られた数字を見て本当に「多くの人にとっても同じ」なのかどうか、今一度考えて頂ければと思います。

子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。(P.58 ~59)

このようにおっしゃっておりますが、この「生産性」が「人口の再生産」の意味で言及されているのであれば、例えば里親として養子を迎えるなどの点での社会へ資する方法はいくらでもあるわけで、また人口増に寄与しないという点だけを以て「支援の必要はない」ということであれば、冒頭で引用した自民党の提言や政府の閣議レベルでの「多様性を受け入れる環境づくりを進める」ことへ行政が動くことそのものに重大な疑義を挿し込むことになります。

逆に言えば、既に「多様性を受け入れる環境づくりを進める」という大義名分は子供の有無とは関係なく「一億総活躍」というもので設定されているわけです。「生産性」という言葉を用いるのであれば、単純に就業するLGBTが増え、結果GDPが増大すれば、労働生産性としては十分寄与することになるでしょうし、企業内での不均衡慣行や不利益といった「法的ではない」差別が解消されていけば、「労働生産性」としてはさらに寄与するでしょうし、「経済全体」を見た際に不均衡・不利益を積極的に解消していくことは男女間の賃金格差や不均衡・不利益を解消するのと基本的には同じ方向となるはずです。

子育て支援はそこにアジャストされる支援であり、「子供がいない女性は不均衡・不利益を甘受すべき」というベクトルはそもそも「男女共同参画」の原則趣旨からも外れてくるのではないでしょうか?殊更に子供の有無だけを持ち出して、現状統計としても一定の「なんらかの施策は必要だろう」という認識が共有できる程度の数字が出ているにも関わらず、そこを無視することは、「寛容な社会」なのでしょうか?

 ここまで私もLGBTという表現を使ってきましたが、そもそもLGBTと一括りにすること自体がおかしいと思っています。(略)自分の脳が認識している性と、自分の体が一致しないというのは、つらいでしょう。性転換手術にも保険が利くようにしたり、いかに医療行為として充実させていくのか、それは政治家としても考えていいことなのかもしれません。(P.59)

この点については、LGB(と細分化した他の一部)とT(と細分化した他の一部)については「必要な支援の質や程度」が相違することはあるでしょうし、この点について「分けて考えた方が良い」施策は確かにあるでしょう。この点は当事者の間でも議論になる点でもあります。より一層喫緊な施策としてTを優先するという選択肢もあるでしょうし、政治家として是非考えて頂きたいと思います。

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