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ここが違う日本と中国(2)―お年玉いろいろ

お正月と言っても、日本と中国とでは過ごし方や楽しみ方はずいぶん違う。日本人にとって最大のイベントはやはり初詣だろう。老若男女を問わず、国民全員が必ずやることである。数日にわたって近辺や遠くにある有名な神社、仏閣を訪れ、お賽銭したうえ、去る一年間のご加護を感謝し、今年の願い事が成就できるように神様に見守っていただくと。これはもちろん、日本人に限らず、日本にいる外国人もほぼ同じである。

しかし、中国では、このような全国民が一斉に行う寺社参拝はない。文化や国民性の違いによることは間違いないが、中国ではもともと仏閣や道観(道教の施設)の数が少ないし、近くにあるとは限らない。やや離れたところへ行こうとすれば、車が欠かせない。これは車の普及が遅れている状況ではなかなか叶えられないことである。

また、子どもにとってお正月の一番の楽しみはなんといってもお年玉がもらえることだ。筆者も幼い頃、お正月から得られる最大の喜びは新調の服とお年玉だった。1960年代と70年代の中国は、ちょうど「文化大革命」の動乱期にあり、経済は停滞し、国民の生活は日に日に悪化していった。特に農村部では現金収入がわずかしかなく、服の新調はほとんど年に1回程度、しかもお正月の直前を待たなければならない。言ってみれば、新年に子どもたちに新しい服を着せるのが親の大きな役目であった。子どもたちも新しい服を身に付けてお正月を迎えるのだ。

一方、お年玉だが、その額は今と比べられないくらい少なかった。周知のとおり、人民元の単位は元だけでなく、角、分もあり、1元=10 角=100分になる。当時、お年玉の相場は基本的に分単位だった。気前のいい親や親戚は1角、2角を出す。筆者も毎年もらっていたが、大抵2分か5分、たまに1角、2角もあったが、1元はもらったことがない。当時労働者の月給はせいぜい20~30元のような時代だから、決して大盤振る舞いすることができない。

お年玉の額はその後の経済社会情勢の変化とともに変わっていき、上昇の一途を辿る。特に近年、人々の生活水準の向上や物価の上昇にともない、その相場が高騰し大人には大きな負担となりマスコミを賑わせるようになっている。

ここでは、山東省の新聞「済南日報」が今年1月27日に掲載した関連記事を紹介しよう。そのタイトルは直訳すれば、「お正月のお年玉は高騰し、“70後”“80後”はもう耐えられないと話す」となる。

“70後”と“80後”とは、1970年と80年代生まれの若い世代の親を指す。要するに、相場が高騰するお年玉は若い親たちには大きな負担といった意味である。

記者が山東省の省都済南市で取材したところによると、数年前は100~200元だったが、今となってこの額では恥ずかしくてとても出せず、今年は少なくとも400~500元が必要だ。すでに子どもを持つ多くの“70後”“80後”にとっては間違いなく大きな負担だ。

また、お正月を迎えた直後、インターネットの掲示板でわが子のお年玉の額を明かす親が多くいた。驚いたことに500元、800元はありふれており、数千元、ひいては1万元以上もちらほら見かけた。これら親の大多数は“70後”“80後”の若い世代である。

西苑小区に住んでいる李さんも80年代生まれ、近年高騰するお年玉に対して感無量のようだ。「年末のボーナスは合わせて7000元余りもらいましたが、計算してみると、お年玉だけで少なくとも6000元いります」という。李さんにとって今年のお年玉はもっとも多い。原因は物価の上昇である。昨年のように300元ではおそらく大した買物ができない。しかし、それより大きいのが「面子」(メンツ)の問題だ。「去年は従兄の家の子に300元あげましたが、後で他の人は最低でも500元あげていたことを知り、とても恥ずかしかったです。なので、今年は800元にしました」。

70年代生まれの張さんは国有企業の女性労働者。「今年のお正月は帰省先で少なくとも10人の子どもにお年玉をあげなければなりません。年に1度のことですから、少なすぎてはいけません」。普通労働者である彼女にとって、これだけのお年玉は大きな負担である。

ところで、このようなことは日本でもあり得るか。筆者の知っている限りでは、ないと思う。言うまでもないが、日本でもお年玉の額は家庭の収入や個人の性格によってまちまちである。親が裕福でなおかつ親戚も多い子ども(若者も)だったら、もらえるお年玉はおそらく数十万円にのぼる。逆に、家庭が裕福でなく親類縁者との付き合いも少ない者なら、お年玉の総額が1万円にも満たないということが多くあるだろう。筆者の推測に過ぎないが、日本の子どものお年玉は1人あたり1~2万円前後ではないかと思う。それは現在の為替レート1元=12円で計算すると、800~1600元ぐらいになる。国民所得や物価水準などから考えれば、中国のお年玉の額は日本をはるかに凌駕しているといえよう。

お年玉の違いはもちろん金額だけではない。日本では、お年玉をあげる相手は基本的に子ども(場合によって大学生も)であり、お年玉の額を決めるには、子どもの年齢、自分との関係、自分の身分と経済力といった要素が考慮される。気前よくあげたい人もいるが、合理的な範囲を超えない額は一般的で、自分の経済力などを無視してまで無理をする人はほとんどいないだろう。

一方、中国の事情はかなり違う。お年玉をあげる相手は子どもに限らず、親、祖父母、大人の親族・友人、上司、世話になった関係者も含まれ、その範囲はどんどん広がっている感じだ。これと関連して、お年玉を表す言葉も近年、以前の「圧歳銭」(狭義のお年玉)から「紅包」(広義のお年玉)に変わりつつある。

また、前述の新聞記事で見たように、中国ではお年玉の額を決めるには収入や経済力などに加えて、「面子」と「横並び」といった意識も強く働く。その結果、自分の収入や経済力とまったく釣り合わないほどの大金をお年玉に費やしてしまうケースは多々ある。

2010年2月20日、「重慶日報」世論調査センターは「今年のお正月あなたは『紅包』においくらかかりましたか」という調査を行った。被調査者は286人の市民。結果、月収の0~50%を選んだのが全体のわずか3%で、「50~100%」が10%、「100~200%」が22%。もっとも多く選んだのが「200%以上」で、全体の65%を超えた187人だった。

ほかに、あるウェブサイトは「今年のお正月あなたはおいくら出費しましたか」というテーマの調査を行った。被調査者1197人のうち、542人は「5000元以下」と答え全体の45.28%、386人は「5000~1万元」と答え全体の32.25%をそれぞれ占める。また、「主にどんなところでかかっているか」という質問に対して、もっとも多く答えたのが「現金で配る『紅包』」で全体の56.98%。そのうち、お年玉の額が1000元未満は 48.37%、1000~5000元は40.1%、5000元以上は11.53%をそれぞれ占める。その次は「親戚と友人へのプレゼント」と「お正月の食事」である。また、「来年お正月の主な支出先」を訪ねたところ、「現金で『紅包』を配る」ことは依然として首位で48.29%を占める。

ここでは重慶市民の例を挙げよう。

王さんはタバコと酒の販売に従事しており、月収は2500元。2010年のお正月に彼は以下のような出費をした。

両親には現金1万元をあげたほか、300元相当の冬用下着を買ってあげた。妻には500元相当の服を買った。姪にはおもちゃ代200元、親戚・友人には酒代100元、上司には「紅包」500元、同僚にはプレゼント100元かかった。合わせて1万7000元になり、月収の約7倍に相当する。つまり、自分の生活費を除いて、一年間の収入はほぼすべてこの正月で使い果たした。

どうしてこれだけ使ってしまうのか。王さんは、自分は農村出身で、自分の稼ぎは両親の主な収入源になっているから、気前よくしないといけないと自己分析する。

林さん不動産会社で働いており、月収は2000元。彼女の「紅包」に使ったカネは月収の2倍を超えた。両親と義理の両親に現金2000元、夫に 1000元の携帯電話、娘に200元の服、親戚の子どもにお年玉600元、友人・同僚・親戚にプレゼント500元。合わせて4300元を使った。

張さんは民営病院の看護師、月収はわずか1000元。お正月の「紅包」について彼女は節約の方針を貫いている。それにしても、両親と義理の両親にそれぞれ500元、二人の甥に200元をあげた。「夫、親戚、友人、上司、いずれもプレゼントをあげるべきだと思います。しかし、収入はこのくらいしかないから、経済力では本当に無理です」と話す張さん。実際、節約とはいっても、お正月の「紅包」にかかったカネはすでに彼女の月収を超えている(「重慶日報」2010年2月21日付)。

こうした状況は決してある特定地域の風習ではない。「北京晨報」2010年2月21日付の記事はこのようなケースを紹介した。

彼は1982年に生まれ、北京のある外資系企業で働いており、昨年結婚した。結婚後初めての正月だから、新妻を連れて地元に戻り両親と一緒に過ごすと決めた。二人の実家は異なる地域にあるので、まず自分の実家、そして妻の実家をめぐることになった。「親戚や友人を訪れる際、現金やプレゼントをあげるのは常識。その予算はもともと8000元以内でしたが、すぐ1万元を突破しました」と嘆く彼。実際、両親には「紅包」1000元、プレゼント2000 元、義理の両親には「紅包」1000元、プレゼント2000元、祖父母にはお年玉500元、従兄の子どもにはお年玉200元等々。このように、彼は住宅ローンに苦しめられるような「房奴」になったばかりで、さらに「紅包」に押しつぶされそうな「人情奴」にもならざるをえないのだ。

「~奴」とは、近年流行っている言葉で、「~の奴隷」、「~に苦しめられている」といった意味である。「房奴」は住宅ローンの奴隷だが、では「人情奴」って何?後者については次回のコラムで詳しく書きたいが、要は、付き合いの奴隷、つまり、交際費に苦しめられている奴ということである。

ちなみに、筆者は前回のコラム(1)でも書いたように、日本在住23年目にもかかわらず、お正月の時期は両国で完全にずれているため、23回のお正月はすべて日本で過ごしてきた。もし中国に帰るなら、6人兄弟の筆者はお年玉の出費もきっと半端ではないだろうね。「ケチなことを言うなよ」と叱られるかもしれないが、一介のサラリーマンだから、やはり日々の生活を顧みずにはいられない。

合理的な日本人、面子を重んずる中国人。付き合いにカネをかけることも中国人にとって面子の重要な部分である。また、カネをかけないと何もできない現実社会のなかで、お正月など祝祭日には関係者との付き合いにカネをかけないと変な人に思われる。だから、経済的にどんなに苦しくても、面子の文化、「紅包」の慣習に従わなければならない。人間関係において日本にいるのは中国にいるよりも楽だというのも、こうしたことと直接関係するかもしれない。
(執筆者:王文亮金城学院大学教授編集担当:サーチナ・メディア事業部)

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