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丸山ワクチンをおとしめる週刊ポストの記事

週刊ポストにて丸山ワクチンの記事が載っていた。第一弾は、長期生存例があることから丸山ワクチンに効果があるとほのめかしている記事であった。問題がないとは言えないが、標準医療を否定しないことが明記されており、週刊誌の記事としては許容範囲内であるように思えた。しかし、第二弾のほうは、がんの標準医療について誤解を招きかねない記事であった。第二弾の記事は、ウェブ上でも読める(■NEWSポストセブン|丸山ワクチン開発者 息子はSCEでプレステ開発した人物)。ウェブ上の記事は抜粋であり、本誌に掲載された記事のほうが詳しい。以下、引用は本誌記事(週刊ポスト2012年2月10日号P139~)からである。

丸山茂雄氏の経過は標準医療によるものとして説明可能である


丸山茂雄氏は「抗がん剤、放射線治療ががん撃退に効いたと考えているが、丸山ワクチンも効果があったと確信している」。丸山ワクチンは効果があったのかもしれないし、なかったのかもしれないが、記事から推測される経過を読む限りでは、とくに奇跡的な症例というわけではない。しかし、読者が誤解しかねないような書かれかたをしている。07年11月に、丸山氏に食道がんが見つかった。「ある日突然、食べ物はおろか水さえも喉を通らなくなった」ことをきっかけに検査を受けた。
検査を受けると、食道がんと告げられた。進行度はステージ4A、つまり末期がんである。右肩と、食道と胃のつなぎの2か所のリンパ節への転移があり、手術で対処できる状態ではなかった。医師とのやりとりの結果、余命は「4か月」と悟った。
ステージ4Aの食道がんで余命4ヶ月というのは短すぎるように思える。ただ、記事をよく読んでみると、余命4ヶ月と医師が告げたのではなく、丸山氏がそう「悟った」だけである。私が想像するに、「もし何も治療を行わなければ余命4ヶ月です」などと医師は説明したのではなかろうか。それを丸山氏が誤解したか、あるいは、記事にインパクトを与えるために記者が上記引用したように書いたかした可能性が高いと私は考える。確かに食道がんの予後は悪いが、一方で、化学放射線療法の効果はある程度期待できる。「余命4か月からの生還」「6センチ大の腫瘍が消えた」と見出しにあるが、本文を読めば、標準医療である化学放射線療法の効果であることがわかる。嘘ではないが誤解を招く*1

「がんの専門医は患者ががんで死ぬのはいいけれど、がんの治療中に心臓発作で死なれるのは困る」?

当然、がんの標準治療である抗がん剤投与と放射線照射の方針が決まったが、開始までの“体力検査”に1か月を要した。

「これは僕の“下衆の勘ぐり”ですが、がんの専門医は患者ががんで死ぬのはいいけれど、がんの治療中に心臓発作で死なれるのは困るんでしょうね。治療が始まるまでいてもたってもいられず、検査期間中に丸山ワクチンを打ち始めました」
確かに「下衆の勘ぐり」である。診断から治療開始までの時間は、患者にとって焦るばかりであろう。その気持ちは理解できる。しかしながら、治療前に十分な検査をせずに治療を開始し、心臓発作で死んでもいいのだろうか?治療前検査が不十分で患者が死んだら、「がんの専門医は患者のがんが治りさえすれば、がんの治療中に別の病気で患者が死んでもかまわないのでしょうね」などと言われそうだ。

標準治療を”値切り”


丸山ワクチンを開始したところ、標準治療を開始する前に「食事が喉を通らない状態が解消された」とのこと。別に治療を行わなくてもこの程度の病状の変化はありうることなので、丸山氏の言うように「丸山ワクチンのおかげでがんが小さくなったかどうは定かではない」。その後、標準治療が終了し、08年3月に検査を受けたところ、原発巣は完全に消え、転移巣も小さくなっていた。
 「主治医に『よく頑張りましたね!』と褒めてもらえると期待していたら、『気を緩めないように』と冷静な対応でしたね(笑い)。念のために抗がん剤治療の継続を勧められましたが、抗がん剤という”毒”を体に入れて免疫力を落とすことが本当に『念のため』なのか疑問もありました。そこで、内緒にしていた丸山ワクチンの使用を明かしたうえで、提案された治療の半分以下に抑えてもらうよう、標準治療を”値切り”ました」

 08年5月からの抗がん剤治療は計4クールやるだけに留めた。

 「料理だって塩○グラム、砂糖○グラムという標準的味付けが必ずしもベストではないように、がんの標準治療もそういう”さじ加減”があって然るべきです。しかし、医者は患者の症状に合わせて薬の種類や量を変えるなんてことは滅多になく、レシピ通りの治療しかしてくれません」
この部分が一番の問題である。週刊ポストの記事を読んで、「私も丸山ワクチンを受けようか」と思う人がいるのは、まあ良い。丸山ワクチンには副作用はほとんどなく、ただの水のようなものだからだ。しかし、これから抗がん剤治療を受けようかという人が、週刊ポストの記事を読んで、「医師はさじ加減をしてくれないのか。私も標準治療の値切りをしよう」と思う人がいたらどうか。これは、医師患者関係に悪い影響を及ぼし、必要な治療がなされなくなり、下手すれば命にかかわることだってありうる。

「医者はレシピ通りの治療しかしてくれません」とは丸山茂雄氏の言葉であるが、その根拠は何だろうか?自分の主治医がたまたまそうだったということなのか?あるいは知人の主治医がそうだった?それとも抗がん剤治療の現場に丸山氏はお詳しいのだろうか?私は内科医ではあるが抗がん剤については専門外であり、最近では自分で抗がん剤を使うことはほとんどない。しかし、腫瘍内科医と相談の上で、あるいは腫瘍内科医の指示のもと、抗がん剤を使用することはあるし、あるいは腫瘍内科医や血液内科医が抗がん剤を使用するところを目にしている。

私の認識では「患者の症状に合わせて薬の種類や量を変える」なんてことは、滅多にないどころか、普通にある。というか、「患者の症状に合わせて薬の種類や量を変えるなんてことはしない」という医師に出会ったことは、これまで一度たりともない。むしろ、腫瘍内科医の先生方が言うには、副作用を恐れて手加減投与がなされてしまうことのほうが問題である*2。十分な量の抗がん剤を使用しないことで治療効果にも影響が生じる。副作用その他やむを得ない理由で減量となるのは仕方がないが、効果があるかどうか不明確な代替医療を併用しているからという理由で、抗がん剤を減量することはお勧めできない。ついでに言うが、代替療法を併用していることを主治医に申告しないことも良くない。丸山氏は途中まで丸山ワクチンの使用を内緒にしていたそうである(治験承諾書は誰が書いたのだろう?)。丸山ワクチンはただの水のようなものだからいいけれども、代替療法の中には、思わぬ副作用が生じうるものもある。

なお、丸山茂雄氏は11年5月に再発が見つかった。
「最初の放射線治療の時に、『おいしいものが食べられなくなるのは嫌だ』と、胃にだけ放射線を当てなかったんです(笑い)。今回は反省して放射線照射をしたらがんはすぐに消えました」
標準医療を値切りしたことが、再発の原因だったどうかはわからない。だが、「放射線照射をしたらがんはすぐに消えました」と、あまりたいしたことではないかのように書かれているが、笑いごとではない。「標準医療を値切りし、万が一再発しても、追加の治療をしたら大丈夫なんだ」と誤解させる。代替医療の記事が書かれるのは良いが、せめて標準医療を忌避させるようなことがないように、配慮して欲しい。

丸山茂雄氏の主張はホメオパスと同レベル


丸山氏は「私見では4人に1人ぐらいは効果が出ていると感じます」とか「精神的な効果が大きい」とか「きっと症状が楽になる患者が多いはず」とか言っているが、ホメオパスだって同じことを言える。「医薬品としての正式認可」を希望するのならデータを出すべきだ。

丸山ワクチンがホメオパシーと違うのは、標準医療を否定しないこと、医師の指導の元に使用されていることがある。エビデンスが乏しいにも関わらず丸山ワクチンが有償治験薬としての使用が容認されているのはそのためであろう。しかし、丸山茂雄氏は、標準医療を「値切り」し、主治医に「内緒」で丸山ワクチンを使用した。丸山茂雄氏および週刊ポストの記事は、丸山ワクチンをホメオパシーと同レベルに貶めるものである。

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