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  • Willy
  • 2012年02月05日 23:59

金持ち vs 国家の時代

ギリシャでは債務削減のため国際機関や債権者との交渉がいまなお続けられている。仮にギリシャがデフォルトに陥った場合、その形態によって金融市場に与える影響も大きいが、富裕層にも大きなショックを与える事になるかもしれない。

過去にもデフォルトした国は多くあったが、その多くは通貨を米ドルなどに固定し資本移動に規制が加えていた発展途上国であり、個人投資家の動きは概ねコントロールしやすいケースが多かった。

一方ギリシャは、資本移動が自由な先進国であるため、債務危機発生以降、大規模は資本逃避が起こっている。資産を国外に退避することに成功した富裕層は、ギリシャ国債やギリシャ国内の銀行が破綻しても無傷であり、通貨の切り下げが行われた場合には、一国の経済が苦しむ中で、逆に現地通貨ベースでは大きな富を手に入れることになる。

こうした状況では、富裕層に対し、国民や国内外の債権者から大きな圧力がかかることになるだろう。今年初めギリシャ政府はスイスと租税条約を変更して情報交換の強化を図っており、スイスの銀行にあるギリシャ国民所有の銀行口座の情報開示の交渉も進めているようだ。

デフォルトに伴ってギリシャ国内の銀行が債務不履行を宣言した場合、ギリシャ政府が、国民の海外資産に対しても資産税を徴収するということは十分に考えられるシナリオだ。

これは、資産を保全したい資産家と押収したい国家が激しく対立する時代の幕開けとなるかも知れない。

こうした海外資金の規制強化の流れはギリシャに限らず、先進国に共通のものだ。

米国では、既に2003年から1万ドル以上の海外資産を持つ個人に対して海外資産の開示を義務づけている。この時期に作られたり、改正された法律は、9.11の同時多発テロ後にテロ資金対策を建前にしたものが多い。米財務省はこの情報を当初あまり真剣に扱ってこなかったようだが、2011年分からは10万ドル以上の海外資産を持つ個人に対して、確定申告(tax return)でも詳細な開示を求めるなど規制が強化された。

米国政府は、2009年にスイスの銀行が長年守って来た守秘義務を諦めさせ、UBSに米国民名義の口座情報を開示させることに成功した。同様に米国政府に追いつめられた Wegelin 銀行は、今年1月、(顧客情報の開示を避けるため)プライベートバンク部門を多国籍の銀行グループに売却すると発表した。

日本での9.11以降の動きは、もう少し穏やかなものであった。強化された主なものは、海外送金の報告義務の強化と、非居住者に対する相続・贈与税の強化などであった。しかし2012年度からは、五千万円超の海外資産を持つ個人に対して海外資産に対する報告義務が課される。第一義的にはタックスヘイブンを通した脱税の取り締まりが目的だが、債務危機対策という側面があるだろう。

対外純債権がGDPの56%(2009年)にも及ぶ日本では、個人資産をなるべく細かく把握しておく事が債務危機を防止には欠かせない。日本政府にとっての望ましい危機対策は、平時には企業や国民が海外資産を積み上げて危機に備えることであり(*1)、危機発生時には海外送金を厳しく規制して資本流出を避けるとともに(*2)国民の海外資産を把握して資産課税を可能にしておく、ということだ。ギリシャの例を見れば分かるように、富裕層は、財政状況が悪くなり、法律が厳しくなるとともに、より高度な資産逃避の方法を実践するようになり、その過程で通貨安が徐々に進むだろう。

このように順を追って考えれば、万一日本が債務危機に陥った時にどのようなことが起こるかはおおむね想像できる。

(*1) 債務危機の際には通貨安となるので、自国民の資産が海外にある方が危機対策の点で本来望ましい。(*2) 現行の外為法で既に可能である。

政府債務の拡大は、対外純債務を問題を別とすれば貧富の格差の問題だ。そして、不動産や株式市場のバブルと異なるのは、この格差はバブルを崩壊させることによる解決ができないことだろう。だから、私は90年代末に旧大蔵省が債務危機を煽ったときに、本当の問題は「庶民 vs 金持ち」だと思っていた。しかし、どうやら、一国の中で庶民と富裕層を対立させるのは、リスクが大きすぎ、メリットが少なすぎるようだ。

かくして先進国は、静かだが激しい「金持ち vs 国家」の争いの時代に突入した。

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