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就活生が"残業ゼロ企業"を追い求めるワケ

いまどきの就活生が会社を選ぶ最大の決め手は「残業が少ないこと」だという。なぜ最近の新人社員や就活生は働くことの熱量が低いのか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「大学時代に6割の学生がブラックバイトを経験していることが労働環境優先の企業選びの大きな要因」と分析する。どんな経験が学生を委縮させているのか――。

■就活生が「残業の有無」を必ず質問する理由

2020年に卒業予定の大学3年生が就職活動を本格化させている。いま取り組んでいるのは「夏のインターンシップ」だ。

学生側が有利な「売り手市場」が続くなかで、とりわけ「残業の有無」を気にする就活生が増えている。日本能率協会の「2018年度新入社員意識調査報告書」によると、会社を選ぶ決め手として「残業が少ないこと」(22.0%)が最も多かった。

また日本生産性本部の「2018年度『働くことの意識』調査結果」で、就労意識を尋ねた質問への回答を見ると、1位「仕事を通じて人間関係を広げていきたい」(94.1%)、2位「社会や人から感謝される仕事がしたい」(92.9%)に次いで、「ワークライフバランスに積極的に取り組む職場で働きたい」と答えた学生が92.6%(前年比0.8ポイント増)で3位にランクしている。

▼仕事はあくまで「人並みに」

これに加えて特徴的なのが、働くことに対する“熱量”の低さだ。日本生産性本部の調査によると「人並み以上に働きたいか」という質問に「人並みで十分」が61.6%。これに対して「人並み以上」は31.3%だった。

実は2012年度までは「人並みで十分」派を「人並み以上」派が上回っていた。だが、13年度に「人並みで十分」派が逆転して以降、差が広がっており、今年度は「人並みで十分」が過去最高を更新した。

さらに驚くのは「仕事中心派」の低下だ。仕事中心か、私生活中心かという質問では「両立」が78.0%で最も多く、その継ぎに多いのは「私生活中心」の15.2%だった。「仕事中心」は6.7%で、2014年度以降は減りつづけている。

前出の日本能率協会の調査でも、「プライベート優先か、仕事優先か」という2択に対して、前者が75.8%、後者が24.2%となっており、仕事よりもプライベートを大事にしたい人が圧倒的に多いことがわかる。

■大学生のブラックバイト経験率は6割に達する

これらの調査を見て「最近の若者は……」などと小言を漏らす人がいるかもしれない。しかし、ワークライフバランスを重視したり、プライベートを優先したりする傾向は、若者自身の変質というより、取り巻く社会環境の変化も影響しているだろう。

電通やNHKといった大企業での過労死が大きく報じられ、政府自らが「働き方改革」を推進している。こうした状況は以前には考えられなかった。

さらに別の要因もある。地方国立大学のキャリアセンターの職員は「学生の多くが『ブラックバイト』を経験しているからではないか」と話す。

「キャリア教育の中でワークルールについて講義を行い、課題として自分のバイト先でのトラブルの内容や質問を書いて提出するようにと言い、次の講義に匿名で皆の前出で発表しました。正直言ってブラックバイトをしている学生が多いのに驚きました。『3カ月間給料が支払われないのですが、いつまで働いたらいいですか』『失敗したときに、てめぇ、ぶっ殺すぞと言って物を投げるのですが、どうしたらいいですか』という質問もありました。後で学生になぜ辞めないのと聞くと『私だけではなく社員の人もいじめられているので辞めるわけにはいかない』と言うのです」

厚生労働省の調査(2015年11月)によると、アルバイトを経験した学生の60.5%が労働条件などで何らかのトラブルがあったと回答している。トラブルの中身はシフトに関するもの、賃金の不払い、労働時間が6時間を超えても休憩時間がないといった事例が挙げられている。

▼「急なシフト変更」「1日6時間超でも休憩時間ゼロ」

キャリアセンターの職員によると、「人手不足で代わりがいないと辞めさせないと言われ、2カ月間必死で代わりを探している」という飲食業でバイトをしている男子学生もいたという。学生に辞めることを勧めると「それは無責任です」と答えたそうだ。

京都府などが調査した「学生アルバイトの実態等に関するアンケート調査」(2018年3月19日)によると、トラブルが最も多いのは「一方的に急なシフト変更を命じられた」「1日6時間を超えても休憩時間が与えられなかった」というもの。ベスト10には「準備や片付けの時間の賃金が支払われなかった」「暴力や嫌がらせを受けた」「時間外労働の割増賃金が支払われなかった」が入っている。さらに「退職を申し出ても退職させてもらえなかった」(9.8%)もいる。

■ブラックバイトを辞められない学生側の「懐事情」

そもそも労働法などのワークルールを知らない学生も多い。バイトを通じて会社という組織に初めて接し、何が正しくて、間違っているのかという免疫を持たない学生も多いだろう。そして学生たちはこうしたバイトの経験を経て就活に直面する。キャリアセンターの職員は「バイトの経験が多分に就職先選びに影響している」と指摘する。

「電通事件やメディアの影響もあるかもしれませんが、ブラックバイトを通じてこんな仕事や生活は二度としたくないと思う学生が多いのです。バイト先でいじめられている社員を見て、こんな会社には絶対に入りたくないと思ってしまう。賃金未払いやパワハラが日常的に横行している会社はそんなにたくさんあるわけではありませんが、学生はそうした場面に遭遇し、それだけで会社とはこんなものだと萎縮してしまう。辛い体験でも学生時代の1~2年程度だからがまんできますが、一生そうだとしたら嫌だという思いがあるので就職先選びでは職場環境など気にするのだと思います」

「ブラックバイト」での辛い経験が、就職先に過度の期待を抱かない原因になっているかもしれない。

▼「出世なんかどうでもよい」という諦念を抱く理由はバイトにあり

先の日本生産性本部の調査によると「どのポストまで昇進したいか」という質問に対し「どうでもよい」と回答した人が最も多く(17.4%)、昨年度まで1位だった「専門職<スペシャリスト>」は16.5%と2位に転落した。せっかく入社した会社でも「出世なんかどうでもよい」という諦念を抱く理由の一端はバイトにあるのかもしれない。

バイトなのだから嫌なら辞めればいいと思うかもしれないが、学生側にも簡単には辞められない事情がある。全国大学生協連の「第53回学生生活実態調査の概要報告」(2018年2月26日)によると、下宿生の仕送り金額について「10万円以上」は年々減少し、2017年は30.7%。「5~10万円」が37.2%。仕送り5万円未満が15.5%、0円が7.1%も存在する。半年間の下宿生のアルバイト就労率は77.3%を占め、生活費のアルバイト代は2年連続で増加している。

親からの仕送りが減少し、アルバイトは学業を存続するための不可欠の収入源となっている。そのバイト先がブラック企業であれば、学業に支障を来すだけではなく、就活選びにも大きな影響を与えることにもなりかねないのだ。

(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

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