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ウィキリークスが問う国家機密のあり方

 内部告発サイト「ウィキリークス」による米外交公電の流出が続き、波紋は広がる一方だが、ウィキリークスの創設者のジュリアン・アサンジ氏が、強姦容疑でイギリスで逮捕されてから、ウィキリークスに対する風当たりが強まってきているように見える。今週だけで、ネット課金代行業者のペイパルがウィキリークスへの課金サービスを停止したほか、クレジットカード会社も、ウィキリークスへの課金を停止するなど、ウィキリークスへの包囲網が着々と形成されているようだ。

 確かにウィキリークスの機密公開は、複数の国内法に違反する行為だったかもしれない。その意味で当局が法に則り、ウィキリークスを追求するのは当然かもしれない。しかし、われわれ市民としては、一つ忘れてはならないことがあるのではないか。

 それは、そもそもウィキリークスが違反したとされる法律の多くは、その性格からして、妥当性を問うことが不可能なものばかりだった。それが今回のウィキリークスによる機密情報の漏えいで、その法律の妥当性を問うことが可能になっているということだ。

 機密というのは、一旦機密に指定されてしまえば、そのことの妥当性を問うことができないという特質をもっている。機密は機密なので、主権者であるわれわれがその中身を確認し、為政者がそれを機密に指定したことの妥当性を問うことができない。つまり、為政者にとって機密指定の権限は、オールマイティなものと言っていい。情報を機密に指定する権限ほど、権力によって濫用される危険性が高い権限はないということだ。

 アメリカでは今回アサンジ氏やウィキリークスへの協力者に対して、スパイ活動防止法違反や国家反逆罪の適用を求める声も上がっているようだ。しかし、アメリカがスパイ活動防止法(Espionage Act)を可決したのは1917年、国家反逆罪にいたっては17世紀の法律だ。(厳密にはイギリスの1695年Treason Actに当たる国家反逆罪というものはアメリカ法には存在しない。最もそれに近いものは前述のEspionage Act of 1917の他、Alien and Sedition Acts of 1798(外国人治安妨害禁止法)がある。)国と国が侵略を繰り返したり、ナチスドイツや共産主義などと国家体制をめぐる熾烈な争いをしていた時代に、その戦いに負けないためには多少の濫用の危険性はあっても、できるだけ広く外交機密を認めようというコンセンサスは存在したかもしれないが、はたして今はそういう時代だろうか。

 実際に今回ウィキリークスが流出させた情報によって、アメリカ政府が数々の外交問題について、外国政府のみならず、自国民に対しても、嘘の説明を行ってきたことが白日の下に晒されている。また、こうした情報が流出することで国益が損なわれるとの指摘は多いが、ペンタゴン・ペーパー事件で機密情報をニューヨークタイムズに持ち込んだダニエル・エルズバーグ氏は「国益を損ねるって?話が逆だ。むしろ今回の情報流出によって、アメリカ政府がいかに国益を損ねる外交を行ってきたかが明らかになっているではないか」と語っている。

 また、リベラル派のノーム・チョムスキー氏も、情報流出でアメリカ人の命が危険に晒されているとの指摘に対して、そのような具体例はまだ一つも示されていないことを指摘した上で、「アメリカ政府がいかにアメリカ人の命を危険にさらすような外交を行ってきたかが明らかになった」と、アメリカでは流出の意義を強調する立場をとる知識人も決して少なくない。

 特にエルズバーグ氏の指摘は、流出した情報が、情報を流出させる行為そのものに対する国民の認識を変える可能性があることを指摘している点で示唆に富んでいる。それは、エルズバーグ自身がその経験者だからに他ならない。情報が流出するまで国益と考えられていた行為や政策でも、市民がその情報を得た瞬間に、国民の「何が国益か」に対する認識か変わる可能性があるということだ。

 その意味で、今回のウィキリークスによる情報流出で、情報管理の強化や、漏えいに対する厳罰化の流ればかりが強調されることには注意を要する。また、日本でも尖閣ビデオの流出を機に、仙石官房長官を中心に機密情報管理の強化や情報流出の厳罰化が議論されているようだが、そもそも機密化の権限をこれまで通りに放置しておいていいのかという根本問題についても、再検討が必要だろう。

 今週のニュース・コメンタリーでは、ウィキリークスが問う国家機密のあり方について、ジャーナリストの神保哲生と哲学者の萱野稔人が、議論した。

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