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  • 泉宏

「君子豹変」も、消費税政局の展望開けず ― 野田首相 =与野党協議も開始のメドなく、足の引っ張り合い続く=

列島を大寒波が襲う。20年に一度の最強寒気で、日本海側各県は記録的大雪で被害が相次ぐ。「日本再生の年」のはずだが、前年の不幸をなお引きずったまま、節分を迎えた。「鬼は外、福は内」…。国民に「福」を運ぶはずの国会議員は、年明け以降も永田町で党利党略、個利個略むき出しの国民不在の足の引っ張り合いを続けている。年末以降、「君子豹変」と消費税増税断行に「政治生命を懸けて」突き進む野田佳彦首相だが、内閣改造でも支持率下落は止まらず、田中直紀防衛相への“素人批判”や、社会保障抜本改革の将来像をめぐる消費税増税幅の数値隠蔽疑惑などが重なり、消費税増税実現のカギとなる与野党協議も自民党など野党側の反発で開始のメドすら立っていない。年度末まであと2カ月足らず。日本の未来を左右する消費税政局は展望も結末も見通せないまま、国会での与野党攻防がだらだらと続きそうで、国民の心には「政治不信」という寒風が吹き荒れているのが現状だ。

「今年は選挙の年」-。元旦の大手新聞の紙面には次期衆院選立候補予定者名簿と情勢分析が掲載された。1月24日、通常国会が召集されたが、衆院議員は「金帰火来」で田の草取り(選挙運動)にいそしんでいる。消費税攻防の行きつく先は年内の解散・総選挙と判断したからだ。「消費税」は歴代政権が挑んでは挫折した「極め付きの難題」(首相経験者)。民主党3人目の野田首相が「不退転の決意」で通常国会での消費税増税法案成立を目指し、施政方針演説で「決められない政治からの脱却」を訴えて、消費税増税への与野党協議を呼びかけたが、もともと「消費税10%」を掲げて1昨年夏の参院選で勝利を収めた自民党は、それを忘れたかのように「民主党マニフェストには消費税増税なんて一言も書いてない。まず、国民に信を問うべきだ」(谷垣禎一自民党総裁)と主張。公明党など各野党もこれに同調している。

野党側は、協議入りの条件として「社会保障の抜本改革」の全体像提示を挙げたが、政府・民主党の対応はこれも迷走の極み。いったんは輿石東幹事長が提示を約束したが、大手紙が「民主党が掲げる最低保障年金を導入すると、いまの基礎年金制度を続ける場合に比べて、 2075年度で最大25兆円あまりの追加財源が必要で消費税10%への引き上げとは別に、新たに7%分の増税が必要になる」との民主党の試算が存在したことをすっぱ抜くと、「あくまで内部資料、公表するような数字ではない」と態度を一変。3月下旬の消費税増税法案閣議決定までに改めて数字を精査して公表できるかどうかも確約できなかった。このため、法案成立の前提となる与野党協議を法案提出前にスタートさせるのは絶望的だ。

「書いていないことはやらない」演説が“ブーメラン”に

そうした中、政治的な「ブーメラン」現象も永田町の話題になった。野田首相が政権交代前にマニフェストや消費税について国民に訴えかけた街頭演説の動画がネット社会で「お祭り状態」になっているからだ。

「マニフェスト、イギリスで始まりました。ルールがあるんです! 書いてあることは命懸けで実行する。書いていないことはやらないんです。それがルールです」

「書いてないことを平気でやる。これっておかしいと思いませんか! それはマニフェストを語る資格がないってことです」

「みなさんの税金には天下り法人がぶら下がっているんです。シロアリがたかっているんです。それなのに、シロアリを退治しないで今度は消費税を引き上げるんですか! シロアリを退治して天下りをなくす。そこから始めなければ消費税を引き上げるという話はおかしいんです」

この動画は年明けから間もなく、インターネットの動画サイトに投稿され、多くのネット族が閲覧して話題になった。民主党はこの選挙で300議席を超える大勝利を収め、念願の政権交代を実現したが、その原動力となったのがいわゆる「民主党マニフェスト」。この演説で野田首相が「マニフェストを語る資格がない」とこき下ろしている相手は、当時の自民党、そして解散した当時の麻生太郎首相だ。

ブーメランは、空中で獲物に当たらないと、大きな曲線を描いて投げた本人のところへ戻ってくる。誰が聞いてもこの街頭演説の言葉は戻ってきたブーメランのように首相を直撃している。だからこそ、ネットで数十万人が視聴して笑い転げ、そして、怒りにふるえたのだ。

首相の「奇策」は逆効果に

通常国会召集日の1月24日午後、衆参両院本会議で行われた施政方針演説の冒頭、首相は福田康夫、麻生太郎両元首相の施政方針演説での発言をそのまま自らの演説に取り入れるという「前代未聞の奇策」(自民党国対)に出た。麻生首相(当時)は3年前の施政方針演説で消費税増税について「持続可能な社会保障制度を実現するには、給付に見合った負担が必要です」「経済状況を好転させることを前提として、遅滞なく、かつ段階的に消費税を含む税制抜本改革を行うため、2011年度までに必要な法制上の措置を講じます」「これは、社会保障を安心なものにするためです。子や孫に、負担を先送りしないためであります」と力説した。首相はこれをそのまま読み上げ「私の言葉ではありません。3年前、当時の麻生総理がこの議場でなされた施政方針演説の中の言葉です。私が目指すものも、同じです。今こそ立場を超えて、全ての国民のために、この国の未来のために、素案の協議に応じていただくことを願ってやみません」と与野党協議に応じるのは当然だと主張したのだ。この奇襲作戦に初めはあっけに取られていた自民党席だが、すぐ、野次と怒号で応戦した。「何を言ってるんだ」「反対したのはお前だろう」…。

当時、野党第一党だった民主党は、自民党が打ち出した「2011年度中に消費税増税を含む税制改革の具体策を決定する」という方針に真っ向から反対した。にもかかわらず「自民党が言ったことをそのまま実行しようとしているのだから、協力するのが当たり前」というのは余りにもご都合主義。本会議終了直後にテレビカメラに囲まれた麻生氏は「そもそも民主党は1回でもマニフェストは間違っていましたって謝ったかい。俺は一回も聞いてねえぞ」とベランメエ口調で不快感を露にした。麻生内閣はその半年後に民主党から内閣不信任案を突きつけられ、その賛成討論で麻生氏を厳しく攻撃したのがほかならぬ野田首相だったのだから怒るのは当然ともいえる。

この「奇策」は首相自らが年初から周辺に指示していたという。首相側近は「解散しろとしか言わない自民党の無責任さを浮き彫りにして世論を味方につける作戦」と胸を張った。しかし、自民、公明両党だけでなくみんなの党など他の野党も逆に反発し、温厚な谷垣総裁も「ふざけんじゃねえ」と怒り狂って改めて与野党協議拒否を宣言。26日午後の代表質問でもネット動画でこの「ブーメラン」演説を取り上げ、「嘘を言ったのだから、まず国民に謝って、信を問うしか道はない」と声を張り上げた。

もちろん、自民党内には「消費税の10%への引き上げはもともと自民党の政策。政権奪還を狙うならむしろ、消費税では民主党に協力するのが責任政党としての見識」(有力議員)との声もあるが、多くは「たちの悪い嫌がらせ。小細工が過ぎる」(同)と奇策には反発している。「政局より大局を」という首相の言葉とはかけ離れたまるで「子どもの喧嘩」(自民長老)のような奇策は、対野党工作としては逆効果となった。

「リーダー」調査では橋下市長が断トツ

一方、「次の政界のリーダー」を巡る世論調査結果も永田町で話題になった。某マスコミが実施した「日本のリーダーに最もふさわしい人物」という調査で、断然トップは橋下徹大阪市長(21.4%)。2位が石原慎太郎都知事(9.6%)。3位がようやく国会議員で岡田克也副総理(8.3%)。自民党議員の最上位(5位)が石破茂前政調会長(5.8%)で、首相は9位(3.6%)、谷垣総裁にいたっては13位で支持率はわずか1%だった。2大政党のトップがいずれも下位というのは、国民の政治不信の象徴ともいえる。

その橋下市長は「大阪都構想」実現を掲げ、「大阪から日本を変える」と宣言。近い将来、国政に打って出る意欲をみなぎらせ、自らが主宰する「維新政治塾」を400人規模に拡大して次期衆院選に全国に300人の候補者を擁立し、200議席獲得を目指すとぶち上げた。これに呼応するかのように、石原都知事も亀井静香国民新党代表や平沼赳夫たちあがれ日本代表らと組んで3月の新党立ち上げを目指す。石原氏は昨年秋の大阪府知事・市長ダブル選で橋下氏の応援演説に出向くなど、橋下氏との連携も模索しており、別ルートで橋下氏との連携を探るみんなの党や小沢元代表の動きも活発化。こうした動きは、解散・総選挙後の「政局大混乱―政界大再編」を視野に入れたものであることは明らかだ。

消費税法成立後の「話し合い解散」がベストシナリオ

「民主党も自民党も2大政党としての存在理由を失いつつある」(首相経験者)。たしかに、各種世論調査でも民主党の支持率が急落したのに、自民党の支持率も横ばいか下落傾向が続く。その分、無党派層が拡大している。国会議員は選挙が最優先。「落選すればただの人以下」というのが永田町の常識。解散風が吹き始めると、「選挙に勝てるかどうか」がすべての判断基準となる。首相はそれを「小さな政治」と指弾し、「政局より大局」「選挙より国益を」と訴えているが、肝心なことは、今後の消費税攻防で、それを貫き通す揺るがない決意と強力な指導力を示すことができるか、だ。

通常国会の審議は冒頭から迷走気味だ。沖縄普天間基地移設問題にからむ沖縄防衛局長の選挙介入とも受け取られる「講和」問題や、田中防衛相の「素人丸出し」の答弁が内閣の足下を揺さぶる。このため、肝心の消費税論議は深まらず、与野党のいがみ合いが真剣な協議への障害となっている。しかい、政界、官界、財界、マスコミ界の有力者が考える「最善のシナリオ」はほぼ一致している。(1)与野党が真正面から議論して消費税増税法案を通常国会で成立させる、(2)衆院定数是正など政治家が身を切る改革も合わせて断行する、(3)その上で、速やかに解散して、総選挙結果を踏まえて新しい政権の枠組みをつくる―の3点。要するに消費税増税法案は与野党の協力で成立させ、会期末の6月か、9月の民主党代表選、自民党総裁選を経ての10月臨時国会冒頭での「話し合い解散」と言おうシナリオだ。

消費税法案を棚上げしたままの解散・総選挙となれば、いずれの党が第1党となっても消費税論議はスタートからのやり直しとなる。そうなれば「日本は財政再建のシナリオが描けない」と国際的に信用を失い、ギリシャと同様の国家破たんの危機を迎えかねない。お互いの過去をあげつらい、ののしりあう「子どもの喧嘩」からは何も生まれない。通常国会で消費税増税も含めた日本の将来像を与野党が真剣に議論して結論を出せなければ、解散しても混迷が増幅するだけだ。首相や与野党幹部がそうした危機感を共有しなければ、消費税政局の結末は「日本の危機」を招きかねない。

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